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心にポッカリと穴が開いたような心地だった。
唯花から告げられた言葉の数々が、頭の中で繰り返し反芻される。
信じたくない気持ちと、受け入れなければならない気持ちで心がぐちゃぐちゃになる。
「あたしの言葉なんかじゃ、唯花の決意は揺らがないって、それはよくわかったよ。
そうだよね、ずっとそうだった。あたしは唯花にとって最初からずっとそういう存在だった……」
そして、最初に思い出すのはあたしと唯花が仲良くなったきっかけ、あの日の事だった。
リアルイベントでたまたま一緒に出演することになり、初めて間近で顔を見合わせることとなり、あたし達はお互い現場に歳の近い知り合いがいなかったこともありすぐに意気投合し合い、イベントの後でカラオケや喫茶店に行き、夜遅くまで二人で一緒に遊んだ。
その時だった、二人の中で誰にも言えない秘密が出来たのは。
あたし達がたまたま共通で知っているサウンドクリエイターから唯花が告白されたという話しをあたしは唯花から聞いた。
相手のことを知っていたあたしは当然相談に乗ることにした。
あたしはその人の印象や思い出などを話した。
唯花は興味深そうに、時折考え事をするようにあたしの話しを聞いていた。
唯花はその人から告白されたことをほかの誰にも話さず、相談していなかったらしい。
あたしに相談してくれたのは本当に偶然だろうと思った。でも一緒にいて話すネタがなくなって仕方なく話したわけじゃない。だって、この時、経緯を説明する唯花の表情は見惚れてしまうくらい真剣なものだったから。
唯花はその相手とあたしが共作で曲を作っていることを知っていて、今日あたしと直接会ってみて相談相手として安心できそうなら相談しようとずっと考えて、思い悩んできたそうだった。
結果的にあたしの話しを聞いて唯花は決心がついて、その相手と交際することになった。
そうして、あたしと唯花の中で秘密ができて、頻繁に通話を交わすきっかけになった。
唯花は恋愛には奥手なタイプのようで、あたしの感覚ではある程度相手を知ってからでないと身体を許したくはないようで、あたしの知る限りでは付き合っていた三か月間で肉体関係にまでは発展しなかったようだった。
とはいえ、あたしはどうして二人が三か月で別れることになったのか、その事情を知らない。そのことだけは唯花は事情を話すことはなかった。
あたしは、唯花が話したくなったら話してくれたらいいというスタンスで接してきた。無理に聞き出して関係を壊すようなことはしたくなかったから。
でも、唯花は言っていた。
あたしの存在があったから、相手も紳士に向き合ってくれたと。
きっと相手にとってあたしの存在は鬱陶しい面倒な存在だっただろう。
そう思いつつも、あたしは唯花が健全な交際をしてくれることを望んでいたから、後悔もしていなければ、反省もしていない。
ただ、二人が別れることになったのは残念なことだった。