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プラチナウインド/もうひとつのプラチナウインド  作者: shiori
プラチナウインド
2/9

2、偽りと感傷の渦

自分のオリ曲をフェスで歌う、それは私の一番の夢であったのだけど、それが卒業ライブになるのは複雑な心境だった。


 夢が叶ってしまったのだからそれでいい、区切りをつけて終わりと考えて、自分に言い聞かせることもできるかもしれないけど、きっと一生後悔も残ることだろう。


 ――――だって、私は、歌っている時が一番幸せなんだから。


 ゼロからここまで歌を中心に昇り詰めてきたこと、その私とお別れしなければならないのは、もう、自分が一度死ぬようなものだ。


 私はそんなことを悩みながらも、膨大や契約書や誓約書を書き終え、送付していた。私のしていることは矛盾しているだろうか? 自分を大切にしていると言えるのだろうか? 私には分からない、誰か、答えをくれるのなら言ってほしい。でも誰も答えてはくれない、責任を持てるのは私自身だけだから。

もう、過去を振り返りようがなかった。


 一人自室にこもって配信を付けるのも気が重い、あと何回、そう、あと何回みんなの前でこうしていられるだろう。そう考えると、心が押しつぶされそうだった。


 ――――こんなのは裏切りだ、今まで応援してくれたファンへの。


 分かってる、それも何度も何度も思って、そのたびに自分で納得して決めたことだから、もう後悔しないって決めてきた、決めてきたのよ。


 今日もリアタイで視聴してくれる人が沢山来てくれている、ここまでの長い道のりを思い返すと、感謝でいっぱいだった。


 どれだけのファンや他の歌い手さんに支えられてここまで来たか、言葉にしきれない思いがこみ上げてくる。


 私はPC画面を見ながら必死迷いを消した。ちゃんと私の気持ちを正確に伝えるために。


「今日はみんなに伝えることがあります」


 そう切り出した私の心はもう限界を超えていた。

 こんなことを言わなければならない日が来るだなんて思いもよらなかったから。

 

 みんな引退、引退って言いたいだけだって思ってた。

 かまって欲しいだけ、そのための詭弁だって。

 損得次第で意気揚々と帰ってくる、そんな中途半端な人間ばかりだと。

 とんだ偏見、まさか自分の番が来るなんて考えたこともなかった。

 

 こんなに、こんなに辛い気持ちで、私の気持ちなんて分かってくれるかも分からないのに、引退することを言わないといけないなんて、本当に私の事じゃないみたい、私が私でなければいいのに。


 私の真剣な声と、そのあとの長い空白でコメントがざわつき始める。

 酷く口が乾いてくる、不安で押しつぶされそうな心境のまま、私は意を決して口を開いた。


「今度のフェスを最後に引退することに決めました。突然のお知らせだと思うけど、色々と考えて自分で決めました。

 

 これまで活動できたこと、フェスに出ることが出来るのもみんなのおかげです。

 今度のフェスが最後になるけど、よかったら最後まで応援してくれたら嬉しいです」


 もう考えるような余裕なんてなくて、思考なんてまともに働いていなくて、言葉だけが、零れ落ちていく。


 黙ってしまうことの方が不安で、沈黙の時間が流れることの方が怖くて、耐えきれない感情が、言葉となって零れ落ちる。


 偽りのない今の自分、それだけをみんなに伝えるために、私は言葉を尽くした。



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