ここで一句
じゃあ、ここで一句!
お調子者の高橋の声が部屋に響いた。
春の陽に誘われ、おパンツを洗う
俺と真希乃は顔を見合わせて苦笑した。
……春眠暁を覚えずというのになぁ
真希乃もクスリと笑う。
まったくだねー
俺たちはそう言いながら、手をつないで部屋から出た。
空には雲一つない快晴が広がっている。
絶好のお花見日和だった。
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***
桜の花びらが舞う中、俺はゆっくりと目を開けた。
目の前にいるのは制服姿の真希乃。
そしてここは高校の屋上。
つまり、これは夢なのだ。
なぜわかるかって? それはこの光景を見たことがあるからだ。
いつも見る悪夢とは違う。とても幸せな記憶だから……。
季節は夏の終わり頃だろうか。
夕暮れ時で辺り一面オレンジ色に染まっている。
その色と同じ色の瞳をした少女が言う。
優しい笑顔を浮かべて……。
―――ねぇ、悠士君。私と一緒に生きてくれないかな?
彼女はそう言ってまっすぐこちらを見た。
返事はもちろん決まっている。
でも、どうしても声が出なかった。
だから俺は精一杯の力で彼女を抱き寄せた。
これが現実なのか夢の続きなのか分からないけど、もう離さないように強く抱きしめる。腕の中で彼女が優しく微笑んだ気がした。
そんな彼女にキスをする。
何度も何度も繰り返しているうちに、彼女の体が光り始めた。
きっと目覚めの時間なんだろう。
最後にもう一度だけ口づけをして、そのまま意識を失うようにして目が覚めた。
**
***
おーい!そろそろいいか?
髙橋がこちらを覗き込みながら心配そうに聞いた。
では、ここで一句!
高橋の声に続いてクラスメイトたちが一斉に手を上げる。
春の日の下着洗濯日和かな
……うん、いい感じじゃないか!? こうして俺たちの高校生活最後の文化祭が始まった。
時刻は午後2時半過ぎ。
午前中に行われた女装コンテストの結果発表が行われてから30分ほど経っていた。