それはとてもきれいな直線
それはとてもきれいだった。
そう思ったら、それはほんの少しだけどこか変わっているような気がした。
ねえ、ハジメの近くに刃物を置いたりしていないでしょうね?
そんなことしないよ。何かあったの?
あなたが飾っていた、あの子の名前を書いた紙。あれが切れてるの。一の字に合わせて。
なんだそれ。なんか嫌だな。
家のお風呂場はとても落ち着く。
でも外の音が結構聞こえてくるのが少し残念な所だった。
お父さんとお母さんが僕のことを話してる。
やっぱりあのことだろうか。
なんだかやっちゃいけないことをした気がして、言い出せなかった。
僕がやったんじゃないけど。
書道家のお父さんが書いてくれた僕の名前。斎崎一の字。
一の字がとてもきれいだと思った。
細いのに強くて真っ直ぐで、きれいな直線だった。
そう思ったら、その線が少し変わっていた。
きれいに切れちゃっていた。
せっかくきれいだったのに。
ブクブクと、水面に息を吐いて遊びながら考えていた。
ふと、自分が見ていたものを観察した。太ももにはうっすらと血管が見えた。
枝分かれしていって奥の方へと消えている。
その中に、とてもきれいな直線になっている部分があった。
そこから、赤が漏れてくる。
お湯が赤く染まっていく。
体が赤に沈んでいく。
そっか。あの紙は僕が切っちゃったんだ。