お食事
返信が来たのは当初の約束の日が過ぎた後だった。
―――ほんとにごめんね…。でもだいぶ良くなったよ!次の休みっていつかな?
あれ?
思っていたものとは少し違っていた。
これはまだ会える可能性があるってこと?
人間とは、いや、男とは単純なものだ。
今まで駄々下がりだったテンションはどこへやら。それはそれは急上昇である。
二人の予定は、すぐに合い、もともと約束していた日の、約一週間後だった。
思っていたよりも早い。確かに一週間ほど伸びてしまったが、彼女と会える。しかもバイト先ではなく、完全なプライベートで、だ。
一人暮らしをしている彼女は、大学を卒業してから引っ越していて、バイト先からは電車で四駅ほどと、少し遠かった。ご飯に誘った俺が、彼女を呼び出すのも悪いと思い、彼女の家の最寄り駅でご飯を食べることにした。
その日は一日空いていたが、最初から一日会うというのも、さすがに難易度が高過ぎる。それに彼女もまだそこまでは遠慮するだろう。
俺がお酒好きというのもあり、夜に居酒屋で飲もうか、ということになった。それでもいい。いや、むしろその方がいい。シラフのままでは緊張でうまく話せない。今までの経験から、さすがにお酒の力を借りれば、いつもよりは、女の子と話せる。少し調子に乗ってしまうこともあるが。
が、しかし、ここで少し立ち止まる。
俺は彼女の最寄り駅の土地勘が、全くもってない。それこそ居酒屋など、どんなところがあるのか、まるで知らない。もちろん、今の時代、調べれば何でも出てくる。リサーチはするがいまいちつかめない。有名なチェーン店ならあるけど、最初からそこに行くのはいかがなものか。気の置けない友達ならまだしも、まだ仲が進展しきっていない女の子はどうなのだろう。それこそ、ちょっと、ほんのちょっと、もしかしたら、ワンチャン、狙っている女の子なのだから、ちょっと良い恰好をしたい。
俺は当日、待ち合わせの時間よりも三十分ほど早く駅に着いた。実際に駅の周りの店を散策しようと思ったからだ。
と言っても、そんなに時間があるわけではない。簡単に店を調べて、密集しているところを軽く回ってみた。が、どこがいいのか全くわからない。
なんだかどうでも良くなってきた。まぁなんとかなるさ。相変わらずテキトーである。こういうところが、自分のダメなところだなぁと思いながらも、待ち合わせの時間に遅れる方が問題だ。せっかく早めに来たのに、それは勿体ない。それで好感度を下げてたまるか。
待ち合わせの場所で待っていると、彼女から連絡がきた。
―――着いたら連絡してねー
―――もう着いてる(笑)
―――え!ごめん、急ぐね!
―――急がなくて大丈夫だよー
こういう時はちゃんと返信を返してくれるんだなぁ、なんて思いながら、待っていると、ふと俺の顔を覗きこんでくる人が。
「やっほー」
彼女だった。
さっきまでも緊張していたが、彼女を目にしたとたん、もっと緊張してきた。
可愛い。
彼女は、薄手のニットにロングスカートを履いていた。
「おう、お疲れ」
平静を装うのに精いっぱいだった。だがしかし、こんなところでテンパるわけにいくか。まだまだ夜はこれからなんだから。
とりあえず、俺たちは、何気ない会話をしながら駅を出て、どこのお店に行こうかと話していた。彼女はどこでもいいよ、というが、そういうのが一番困る。事前に何が嫌いなのか、というのは少し聞いたが、どちらかと言えば、何が食べたいか、の方が欲しかった。嫌いなものなど、ジャンルでなければ、お店に行って避ければいい話である。これは困った。
少し歩いたあと、分かれ道に来た。どっちに行けば店が多いか、などを話しはしたが、結局じゃんけんで行く道を決めた。結果は、俺が行ってない方だった。
それでも何かいい店はないかと、周りを見渡しながら歩いていると、すぐに見つかった。その店は俺の名字と同じ名前で、焼き鳥の店だった。彼女が面白いじゃん、というので、その店にすることにした。特別変わった内装というわけではないが、チェーン店とはまた違った、学生が頻繁に行くような感じの店ではなかった。
席に着いて、とりあえずお酒を頼む。俺は考えるのがめんどくさいので、こういう場合はビールを頼むことにしている。彼女はあまり飲む方ではないらしいが、お酒を頼み、乾杯した。
頼んだ食事も運ばれてきて、お酒も進み、思っていたより話が弾んだ。なんだかんだ彼女のことは全然知らなかったので、彼女のことを聞いたり、それを聞いて俺のことを話したり。高校の時の話だったり、今の仕事の話だったり。
そう、彼女の返信が遅いのは、やはりそういう性格なのだそうだ。そういう文面でのやり取りが苦手らしい。頑張っても一日一ラリーだそう。ご飯に来てくれた時点でそれはないとは思っていたが、嫌われてはないらしい。
そしてしまいには、彼女の恋愛事情まで聞いた。
それは聞いていいのだろうか、とも思ったが、あえて聞いておくのも悪くはないな、と思った。それこそ、自分が彼女の恋愛対象になりえるのか、良くも悪くも分かるからだ。当てはまりそうだったら、ちょっと狙ってみるだけだし、当てはまりそうになければ、諦めるだけだ。それはそれでショックだが、致し方ない。好みは人それぞれだ。
まぁ、当てはまってるとは、言い難い結果だったが。
話を聞いてみると、彼女は、好きな人にはとことん尽くすタイプらしい。さらに現代人らしいなぁと思ったのは、あまり結婚願望がないことだった。それに加えて、付き合う、というのも、あまりこだわらないらしかった。お互いが好きであれば、わざわざ彼氏彼女という肩書を付ける必要もないんじゃない?という感じだった。好きな人とは付き合いたいと思う俺にとっては、なかなか変わった考えだな、と思った。浮気などもどちらかと言えば、許せるタイプで、私のところに戻ってきてくれるなら、それでいい、とのことだった。なんていい人だ。
しかし、さらに話を聞いていくと、前の恋愛で色々とあったらしく、自分の恋愛の価値観が変わってしまったのだそう。前に付き合っているような状態になった男性と、結局彼氏彼女という肩書が付かぬまま、いざこざって終わってしまったそうだ。
俺からしてみれば、そんなことをした男性の意味がわからなかった。こんな可愛い女性をないがしろにするなんて、俺には考えられなかった。俺なら、この人を一生大切にする自信があるのになぁ、なんて思ったりしていた。いやいや、まだ早いまだ早い。