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俺と彼女と主人公とモブと  作者: しょうこう
2/13

進展

 それからも、その関係は続いた。

 いや、関係、というほどのものでもない。

 バイト先で会えば少し話をし、会わなかったら、一か月何も話さないなどザラだ。連絡先を持っているわけでもないので、会えない時は本当に何もない。

 そうやって時が過ぎ、年度が変わり、俺は大学四年になった。と言っても、俺はストレートで大学には行ってないので、高校の同期たちは就職し、俺はまだ大学生、という状況だった。もちろん彼女も就職、するはずだった。

 彼女は、就職先も決まっていたのだが、内定式直前に、就職先といざこざがあって、内定を蹴っていた。そのあとにまた就活をする気は起きなかったらしく、バイト先に責任者としてランクアップして残っていた。こちらとしては、可愛い子とまだ一緒に働けるので万々歳だ。役職だけで言えば、彼女は俺より上なのだが、だからといって関係が変わることもなく、友達として、いつものように接していた。

 年月というのは怖いもので、心境にも変化が起きていた。

 俺は、彼女ともっと仲良くなりたい、と思っていた。

 それでも、付き合いたい、というところまではいかなかったが、連絡先を知りたい、とかご飯ぐらいは行きたいな、とか、そんなことを思っていた。

 いや、ワンチャン付き合えないかな?とか思ってしまっていた。

 朝まで話したあの日、彼女に恋人がいないことはわかっていたから。

 変な欲が出てしまっていた。

 でも、やはりいきなり告白というのはいただけない。それこそバイト先で少し話すぐらいだから、二人きりというわけではない。ともなると、会話といってもそんな深いものではない。彼女のことは、まだ深くは知らない。

 だったら。

 せめてご飯にでも誘おうか、と。

 その時、俺は少し積極的になっていた。

 そんな四月の半ば。

 彼女の方が、俺より一時間早い上がりだった。そのタイミングで彼女と鉢合わせたので、仕事中だというのに、話し込んでしまった。

「もう上がり?」

「うん」

 俺は、心拍数が上がっていることに気付いた。

 今からご飯に誘おうかと思っていたからだ。

 だがしかし、俺が上がるのは彼女の一時間後。

 もし、彼女にこのあとの用事がなかったとしても、オッケーをもらったとしても、彼女には一時間待ってもらわなければならない。

 申し訳ない気持ちが、のどに蓋をする。

 でも、

 だけど、

 このチャンスは逃すまい。

「このあと、暇?」

「えーっと、ちょっと暇じゃないかな」

 何かが消えた。

 俺の中から何かが消え去った。

 膝から崩れ落ちる、というのは大袈裟かもしれないが、女の子が苦手な俺が、精一杯の勇気を込めて誘ったのに、あえなく撃沈。人生はなかなかうまくいかないものである。

 内心、テンションが駄々下がりながら、しかしそれを表には出さず、仕事に戻ろうとした。

 すると彼女が帰り際に、

「また今度連絡先教えてよ」

と言ってきた。

 最初はよくわからなかった。

 確かに俺は彼女と連絡先の交換もしたいと思っていた。

 でも、彼女から連絡先を聞かれることはないと思っていた。

 しかし、人生とは何が起こるかわからないもので、起こると思っていなかったことが、実際に起こったりする。うまくいかないばかりが、人生ではない。

 だが、少し待てよ、と思った。

 彼女は「今度」と言った。

 それもそうだ。俺は仕事中なのだから。

 でも、その時の俺は、これを逃したらなかなか会えない気がするし、連絡先の交換なんてできないかもしれないと、思っていた。

 このときばかりは、時代に感謝した。

 今や連絡先は、メールアドレスや、電話番号ではなく、IDを入力すれば、アカウントが出て来てくれる。

「じゃあ、今ID言おうか?」

 もう一度勇気を振り絞った。

 ここで、さすがにそれはいいよ~、とか言われたらもう立ち直れない。

 自分でも、わざわざそれはどうなのだろうか、と思った。

 そこまでして今連絡先交換したいの?なんて思われたらどうしよう、とさえ思った。

「え?いいの?」

 神はまだ俺を見捨てなかった。

 もうガッツポーズである。

 いや、実際にはしてないけど。

 心の中で雄たけびを上げ、しかしテンションは上げず、淡々と自分のIDを告げ、見事、彼女との連絡先の交換に成功した。

 浮かれすぎて、そのあとの仕事は全く手に着かなかった。

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