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俺と彼女と主人公とモブと  作者: しょうこう
12/13

わがまま

 帰り道。

 今にも雨が降りそうな雲のせいで、星は一つも見えない。

 自動販売機で買った水を、飲み切ることなくゴミ箱に捨て、駅までゆっくり歩いた。

 自分の行動を恥じた。

 なんてことをしてしまったんだろう、と。

 結果論にしかならないが、何も起こらなかったのなら、何もしなかった方がよかった。

 もしかしたら、本当に家にいなかっただけなんじゃないか、と気を紛らわそうとしたが、ドアの向こうで、少し物音がしたのを聞いていたから、その線は薄い。

 もうダメだ。

 彼女はもう、会ってはくれないだろう。

 また電話をしてみたが、やはり出ない。

 心のどこかで、出て来てくれる気がしていた。

 さすがに家に行ったら、出てくるだろう、とか。

 このタイミングで電話したら、出てくれるだろう、とか。

 そんな淡く、薄い希望は、なかったかのように、すぅっと消えていった。

 家を必死に探しながら走る自分は、どこか漫画の主人公のような感じがしていた。そして、彼女が出てきて、そこで話して。

 そんなことが起きるはずもなく、俺は、主人公ではなかったらしい。

 今の天気だってそうだ。

 今にも雨が降りそうなのに、降らない。

 天気予報では少し降る予報だったのに、こんな時に、降らなかったラッキー、なんていうのはいらない。降った方が『ぽい』じゃないか。

 いや、そんなこと考えたって仕方ない。

 そんなしょうもないことはどうだっていい。

 彼女に嫌われてしまった時点で、俺は主人公じゃないんだ。


 それからというもの、何が楽しくて生きているのかわからないぐらいに、日々の生活に色がなくなった。

 自分でも驚くぐらい、彼女のことが好きだったらしい。

 せめて、告白してフラれたいという願いすら叶わずに終わってしまった恋。

 世界は、残酷だ。

 バイトには行って仕事はするが、それ以外の時間は、大学に行くか家で寝ころぶか。

 もちろん、バイトに行っても彼女に会うことはない。


     このままじゃダメだ。


 そう思った。

 もちろん切り変えなければならないことも含めて。

 そしてそれ以上に、やっぱり彼女と話がしたかった。

 好感度はもはや、マイナスに振り切ってるんだ。これ以上何がある。

 俺はまた走った。

 今走ったところで、どうにもならない。

 それこそ急ぐ必要もない。

 でも、逸る気持ちに、足が動いた。

 また来てしまった。

 彼女の家の前。

 だが、今は彼女は家にいない。

 家の前にいるのも、近隣に迷惑なので、俺は少し離れ、自動販売機で水を買った。

 炎天下の太陽が、俺の身体に刺さる。

 今日、梅雨が明けたらしい。

 買った水は、すぐに汗をかきはじめ、そしてぬるくなっていく。

「えっ」

そんな時、彼女が目の前に現れた。

 仕事から帰ってきたのだ。

 待ち伏せ、という形になってしまったが、俺はそれでも彼女と話がしたかった。

 彼女は、俺を認識してはいたが、まるでいなかったかのように、俺の前を通り過ぎようとした。

「待って」

 彼女は何も言わなかった。

 俺は、そんな彼女の腕を掴み、

「ごめん、なさい」

謝った。

 俺は彼女にどうしても謝りたかった。

 俺が彼女にしてしまったことを、彼女にもたらしてしまったことを、全て、謝りたかった。

 俺が悪い。そう。そうだ。

 どんなことも、俺のせいでいい。事実そうだろう。

 であればこそ、謝らなければどうにも収まらなかった。

 たとえこの行動が自分勝手で自己満足だとしても、これだけはしたかった。

 俺のわがままだ。結果がどうなろうと、それは自己責任。

「離して」

 彼女はしばらく何も言わなかったが、ただ一言だけ、そう言った。

 俺は彼女を握っていた手を離した。

 そして彼女は、そのまま行ってしまった。

 俺の言葉を聞いてか聞かずか、それを確かめることもできず、そして何が真相かもわかることはなかったが、俺はもうそれでよかった。

 俺のわがままは、ここまでだ。

 梅雨明けの青空は一面に広がり、薄い雲が、見上げたところにだけかかっていた。

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