始まり
「Clear Bullet -クリアーバレット-」もまだ書きかけで完成していませんが、少しこっちも書いていきたいなと思ったので、書きました。
恋愛系のモノは久しぶりに書きましたが、少しでも共感して、楽しんでいただければと思います。
俺と彼女は、二人の関係は、この先どうなっていくのでしょうか?
ちょっぴり切ない、恋物語です。
走った。
暗闇の中。
住宅街を。
息が激しく漏れる。
横腹が騒ぎ出す。
汗がはしゃいでいる。
Tシャツが圧をかけてくる。
それでも走れ。
走れ。
―――――始まりは冬だった。
大学三年生の俺は、温泉でバイトをしていた。
特別温泉が好きだと言うわけではないが、従業員はタダで温泉に入れるということで、面接を受けてみたら受かっただけのことである。
しかし、蓋を開けてみれば、諸先輩方のずるがしこさも相まって、俺が始めた時は、タオルを貸してくれず、自宅からタオルを持ってこないと入れないので、結局利用はしていないのだが。
そこでのバイトが一年経とうとしたころ、同じバイト先の女の子と仲良くなった。
今更ではあるが。
彼女は、俺がバイトを始める前から、そこでバイトをしていた。
しかし、俺はアメニティと言って、主に浴室で仕事をするのに対し、彼女はフロントで、お客さんの対応だ。接点などほとんどない。あっても、「おはようございます」とか「お疲れ様です」ぐらいのものだ。
それに、俺はどちらかと言えば女の子が苦手だった。嫌いというわけではない。ただ、小さいころ、恥ずかしくて女の子とうまく話せず、小学生、中学生とそれを引きずり、さらにこじらせ今に至ってしまった。今でも女の子と何を話していいかわからない。二人きりになろうものなら、無の空間が広がってしまうので、たまったものではない。それこそ、彼女の名前を知ったのも、バイトを始めて半年以上経ってからのことだ。
そんな彼女と仲良くなった理由は、特別何があるわけではない。ささいなことから、バイトが始まるタイミングが一緒だとか、上がり時間が一緒だとか、その時に少し言葉を交わすようになったぐらいである。もちろん、俺からではない。彼女からだった。
そんなある日、お店が閉まったあと、いつもならすぐ帰るのだが、彼女と別の女性の従業員がしゃべっている中に混ざれたので、話が盛り上がり、ずっと話していた。お店は深夜二時に閉まるのだが、その日は、始発がもう出るという時間までしゃべっていた。
さすがにそろそろ帰ろうということになり、冬のこの時間はまだ暗いので、俺は彼女を駅まで送った。その時は、特別彼女が好きということはなかった。バイトの中では、彼女は一番可愛いと誰もが言っていたし、バイト内でなくても、可愛いと言われるくらいに、彼女の容姿は秀でていた。
でも、本当に何とも思っていなかった。いや、何とも、というと語弊がある。俺も可愛いと思っていたし、可愛い子と仲良くなりたい、という思いは、男性の心理として俺も持っていた。
だからといって、好きだとか、付き合いたいとか、そういうことはなかった。それこそ俺なんかがこんな可愛い子と付き合えるわけがないし、彼女が俺のことを好きになる理由がない。消極的な俺は、そう思っていた。
可愛い子と話せるだけでいい、と。