僕の頭に猫耳が
今回は読みきり短編として書いています。
連載<犬耳少女に祝福を>のサイドストーリーです。そちらもよろしく。
最近頭が痒かった。
頭皮を引っ掻かない様に丁寧にシャンプーもしてた。冬で乾燥しているせいなのか、ひょうっとして、某名探偵のように推理中は頭が痒くなるのかと呑気に思っていた僕がいた。
髪の毛も緩くウエーブが掛かってるし細身で中学生のわりに背が高いし、似てると言えば似てるかも。推理好きなのも似てる。
朝ごはんで呼ばれてパジャマのまま二階から降りて行く。未だ目が覚めきらない。
親父もお袋も食卓のテーブルに座っていた。
親父は最近メタボっぽくなって特に腹が狸みたいになってなっている。良く言えば貫禄がある中間管理職だ。おふくろも中間管理職になったんだっけ?顔はタヌキっぽい可愛さがあるけど親父より背が高い。僕の背が高いのはお袋に似たのだと思う。なぜ親父とお袋が付き合ったのか不思議だ。大人になれば分かるのだろうか。
妹はキッチンにいる。顔はおふくろ似で兄から見ても可愛いと思うが、体型が父親似なのだろうか、平均より背が低いのを気にしている。背が低いだけなら問題ないぞ妹よ。
視線を妹から両親に戻すと僕のほうを向いて変な顔を、呆れた様な顔をしていた。起きたばっかりだし、学校へ行くとき顔も洗ってちゃんとしますってば。
今朝は小六の妹が朝ごはんの当番だったらしい。うちは家族全員が朝ごはんを交代で作る。
「じゃあ今朝はトーストとスクランブルエッグだな。」
妹は卵を割る時に黄身をつぶす事があるので、人数分が綺麗に割れなければスクランブルエッグとなる。
「へーん。今日は目玉焼きとフレンチトースト。サラダ付き、ですよ~っ。美咲だってやれば出来るんだから。」
どうやら今日は卵が上手に割れたらしい
「それより悠斗お兄ちゃん。ハロウィンはもう終わったんだよ。」
「へ? ナニ? 何か変?」
言うタイミングを待っていたのか、親父もおふくろも待っていた様に言って来た。
「そうよ悠斗頭にネコ耳つけたまま寝ちゃったんでしょ。」
「そうだぞ悠斗我が家は狸っぽいと言われる事はあるが、ネコっぽいと言われる事は無いのだぞ。」
なんか微妙に変な発言も聞こえたけど
「あ、ああ、後でちゃんとするから大丈夫。」と曖昧に返事をして食事を食べ終わった。
洗面所で顔を洗う。
ぼ~っとしていたのが、シャッキリしてきた。
「ぎょへー!」
何か変な声が出た
「悠斗兄ちゃんうるさ~い!」
キッチンでおふくろと食器の片付けをしていた妹が叫んでいた。
親父はダイニングで椅子のままひっくり返った時の音がしていた。ふんぞり返って新聞を読んでいるからだ。いまはそんな事よりだ。
寝癖でクチャクチャな髪のが平らに成っていて、そこから耳が飛び出していた。
丸い狸の耳では無い。細長いウサギの耳でも無い。
犬でも像でも河馬でもない。
ネコ耳が一組、頭の上に生えていた。
深呼吸する。少しだけ落ち着いた、気がする。
そ、そうだ。探偵ならこんな時どうする。そ、そうだ状況を冷静に分析するのだ。そ、それが良い。
まず、頭のネコ耳。未だある。
顔の横。人間耳有る。
顔。ひげは最近生え始めたけどネコひげは無い。
鼻も今までのままだし、口に牙も生えてない。
次にお尻を触る。尻尾も無い。
ここまでは順調(なのか?)
ネコ耳を引っ張ってみる。取れない。寝ている間に妹か親父にイタズラされた可能性も未だある。うん良い推理だ。根元を触ってゴリゴリ引っ掻いてみるが剥がれない。特殊メイクの類でも無いようだ。引っ張っても取れないしつまむと皮が痛い。ということは。
「分かるかねワットソン君」
「それで、フォームズ犯人は?」
「僕の頭に耳が生えたのだよ。はっはっは。」
うう。一人芝居が悲しいです。
今日学校休もうかな。
「何やってんのお兄ちゃん。美咲も洗面所使うんだから早くどいて。」
仕方なく部屋に帰って部屋の鏡に向かう。
カールした髪の寝癖を直してふんわりさせる。
少し隠れた気がする。
ネコ耳の先っちょを下に折って洗濯ばさみで……いてー。駄目だ。
梱包用のテープを巻いて。あ、何となく良い感じになった。
学校の制服に着替える。寒いから帽子を被ってぇ……だめだ。せっかくの髪の毛が帽子で平らになったら見えてしまう。外が寒いのに帽子も無いのは辛い。
と言う事で、学校近くまでお袋に車で送ってもらうことにした。
「朝から変だったものね。体調が悪いならしょうがないわ。二、三日送ってあげるわよ。」と言ってもらって助かった。
車の中でスマホのゲームをしているふりをしてネットのニュースを確認する。特に変わったニュースは無かった。アイドルのゴシップニュースが沢山有るだけだった。
「悠斗兄ちゃん。面白いニュース有った?」
何故ニュースを見ていたと分かったのだ妹よ。
妹にも探偵の素質が有るのかもしれない。
学校が近いので、お兄ちゃんだけ車なんてズルイというので乗っているのだ。
「悠斗兄ちゃん、ネコのミュージカル、ニャッツのメンバー募集を見てるのかと思った。」と僕の髪の毛を見ながら言い放った。
「や、そうじゃないから。少しは世界情勢と言うのをね。色々とね。」
「あー。分かった分かった。もう、学校に着くよー。じゃねー。」と言って止まった車から、さっさと行ってしまった。
車を止めたのは学校近くの道幅が広いところで、僕も急いで車を降りる。自転車レーンも有るけど丁度自転車は通っていないタイミングだった。
「じゃ、悠斗も気をつけてねー。迎えには来ないわよー。」
何か仮病はバレている気がするが今は仕方ない。
教室でスマホを操作する。何時もはゲームだが今日はニュースやSNSでネコ耳事件が無いか探したが、僕の仲間は見つからなかった。
「おー、今日は来るの早いじゃん。」と前の机の康平が言ってきた。
「あぁ。やりたいゲームが有って。」
「どんなのか教えてな。」
「あぁ。でももう朝会始まるから。」
そう言って、スマホをカバンに入れて教室後ろのロッカーに入れる。スマホの持ち込みは禁止じゃないけど、使って良いのは朝と昼休みと授業が終わってからだ。それ以外は電源を切っている。特別に連絡が有りそうな時は電源を入れたままのスマホを先生に預ける事になっている。
「康平ってスマホ持ってないんじゃなかったっけ。」
「ああ、持ってねえけど今度の誕生日にお下がりだけど貰えるんだ。今のうちに面白いゲームをチェックしておく。ゲーマーの基本だぜ。」
そうなのか。基本だったのか、知らなかったよ。
隣の机の海野もヤレヤレっていう顔をした後僕の頭をチラ見した。反対側の、綾野にもチラ見された。
教室は縦に男子列、女子列になっている。授業中に生徒が騒がない為だと先生は言っていたが、騒ぐ時は騒ぐと思う。
この四人は教室で席も近いし仲が良い。学年変わりの席替えでも近くだったという仲良しだ。
休憩時間に話しかけられた。
「それで、今度の日曜に、東京ラッキーマウス・ランドに行く時の話なんだけどさぁ。」
綾野に言われて思い出した。
東京都と千葉県の間にある。土地はどう見ても千葉件なのに<東京>と付けちゃった、日本有数のテーマパークだ。先週くらいに決めた気がする。
男子は、僕と康平。
女子は、綾野と海野
妹でも僕の代わりに行かせようとしたら、必ず来いよと言われたんだった。康平でも女三人は苦手らしい。
全部を決め終わるまでに昼休みまで掛かった。
四人で決めると言いながら殆どは綾野と海野で決めていた。集合時間とか御昼は何処が良いだとか。アトラクションはこれとこれは絶対に外せないとか。僕は乗れるのに乗って、食べられる物を食べれば良いと思うのだけど。二次予定、三次予定までしっかり立てないと駄目なんだと力説していた。
今まで家族と行くことは有ったけれど、友達だけで行くのは初めてなので、女子のテンションが高いのだろうか。テーマパークの入り口までは海野のお父さんが車で送ってくれて、車で迎えに来てくれるのだそうだ。なんかお袋が、あのテーマパークに車は鬼門よと言っていた気がするが、まぁ良いか。
日曜日の朝がやって来た。あまり寝られなかったのは、テーマパークが楽しみで寝られなかったのでは無い。耳を隠す試行錯誤を繰り返していたのだ。
最終的には、耳を見せる事にした。
あのテーマパークでは、コスプレはハロウィンだけらしいが、トラ耳だのネズミ耳だの色々付けてる人がいっぱいいるから、目立たないって事だ。
探偵も言っていた。
「木を隠したいなら、森の中。」ってね。
「何言ってるのお兄ちゃん、海野お姉ちゃんの車来てるよー。早くしなよー。」
分かってますよ妹よ。今兄は大変なのだ。
一応テーマパークに到着するまでは帽子をかぶっておく。バックは小さいリュックに、お土産用入れようの大きなバックが入っている。
「次はこの可愛い妹も連れて行くんだからねー。分かったー。今日はお土産だけで勘弁してあげるからねー。」
「ははは、次は美咲ちゃんも一緒に乗れる様に大きな車で来るからね。」と海野のお父さんに笑われてしまった。はずかしい。
康平は寝ている、大物かもしれない。
寝ている康平の隣に座る。起きなかった。
ここ何日間と朝までで試せた事が色々有った。
先ずはだ、指でネコ耳をパタンと閉じるのを、何度も繰り返していたら、指で押さえなくても髪の毛の中に倒して隠せる様になった事だ。何だかネコ耳に感覚が有って動かせる。
鼻をヒクヒクする人は時々いるし、耳を動かせる人もいるらしいから、短期間だけど訓練したかいが有った。でも気を抜くと立っている。もっと訓練が必要だ。
もう1つは、上手く説明できないけど、<ムムム>と力を入れると耳が見えなくなる。でも一瞬だし何かコツが有るのかもしれないけど、緊急時には使えるかもしれないと思う。ネコ耳のカチューシャ持って「ほら。耳なんて無いでしょ。」と出来る。これも暇な時には練習しよう。
あとは朝ごはんに納豆が食べられなくなった。
「前は好きだったのに、どうした。関西人になったか。」と食事当番の親父に言われたけれど、匂いがとても駄目でほとんど朝ごはんは食べられなかった。
みんな寝不足だったのか、車の中では静かだったが、テーマパークに到着してからテンションが高い。何だか僕までテンションが高くなっている。
それぞれ入場券を持って列に並ぶ。チケットは海野のお父さんが、なんとかの優待でもらった物だそうだ。
色々お世話になってしまう。親父がお礼だといって、海外物のウイスキーのボトルを渡していた。偉いぞ親父。
ゲートをくぐって古い西部の町並みの様な場所まで歩くとでっかいクリスマスツリーが見上げるようにあった。本当に見上げてしまった。大きい。
今よりもっと子供の頃に両親と来た筈なのにあまり覚えてないなー。
「悠斗こっち、走らないように急いで行くんだからね。回るルートだって説明し直したよね。さっきの話もう忘れたの。」
女子チームが殺気じみた目線を向ける。
<さっき>と<殺気>。おやじギャグを思いついたが言わない自制心はあった。
いくつかコースターに乗ったり、スナックで春巻きみたいなのを食べた。その後お昼の予定だったのだが、予定していた所はお昼を過ぎているのに一杯で、二時間待ちだと言われた。
「えーここで食べたかったぁ。」
「悠斗がまごまごしてるから遅くなるんだよー。」
「一旦外に出てお昼にするっていうのはどうですか。このホテルまで行けばランチが食べ放題らしいですよ」
お腹が空いているからなのか、何となくみんな気が立ってる気がする。親父が、あそこでのデートは付き合い始めて、ホントに仲良くなってからじゃないと駄目だぞ。」と言っていたのが、今分かった気がする。
文句を言いつつも、一番空いてそうな所へ行って、駄目なら一旦パークの外へ出て食べる事になった。
初めから出たほうが良いと思ったけれど、康平も僕も言えない雰囲気だった。
行ったレストランもさっきの所ほどでは無かったけれど混んでいた。仕方なく出口へ向かう。手の甲にハンコウを押してもらうんだっけ。
そんな事を考えながら歩いていると、このテーマパークのメインキャラクターのネズミ、ラッキーマウスが、係りのお姉さんとダンスしながら歩いてきた。パラパラみたいに手を振っている。クリスマスの赤緑のコスチュームで、ケーキやキャンディーの飾りが付いていた。歩く途中で小さな子と握手したり、大人とハイタッチしたりしている。
お姉さんや、おばさんは抱きついたりしていた。
見ていたら何だかボーっとしてきてフラフラとラッキーの方へ歩いていた。
近くで……素早く抱きつく。
「ラッキー捕まえたぁ。」
「美味しそう。」
それから後は殆ど意識が無かった。
康平に聞いたらラッキーマウスに抱きついたままよだれを流して「美味しそう」とかつぶやきながらラッキー本体にカジリついていたらしい。いくらお腹が空いてもあれは気持ち悪かったと言っていた。
大勢の人が引き剥がしたら「お腹すいた」と寝言を言いながら寝てしまったそうだ。
その後医務室へ連れてこられて四人で菓子パンをかじっている。普通の菓子パンだった。「あたしのオヤツのおすそ分けですからね。普段はお腹空いててもあげないですからね。」と言われた。すみませんでした。おぶられて連れて来られたのも恥ずかしい。
その後、偉い人がやってきてお説教されたけど、怒鳴られはしなかった。
なんだか、朝ごはんはちゃんと食べてから来なさいとか、お弁当を持ってきて食べる場所も有るんだからとか、色々言われた。謝ったり、お礼を言ったりで医務室を後にした。
「親とか呼ばれなくて良かったね。変な所からバレル前に、帰ってから自分で説明しなよ。」
「そうだね。普段入れない所へ入れてあたしは面白かったよ。」
「そうだよ、何事も経験だよ。」
悠斗! おまえが言うなと三人に突っ込まれた。
僕たちは一旦外へ出た後、コンビニでお弁当を買って、パークの外にあるテーブルにお弁当を広げて食べた。
海野のお父さんが迎えに来るまでパークで遊んだ。花火が始まる頃連絡があった。少し早く来て待っていたみたいだった。
「この時間は、以外に道路も空いてるんだよ。」と言っていた。
帰りのバスの中で今日の出来事を話すと大笑いされた。「まあ、子供だったし本当にお腹が空いてるのが分かったからそんな対応だったんだろうな。暴れたら出入り禁止だったな。」と言ってまた笑っていた。
家に帰ってお土産を渡し、晩御飯を食べた。
ラッキーに噛り付いた話もした。両親は見詰め合って複雑な顔だったが、妹は大笑いだった。
疲れていて食事の後は、歯磨きして寝た。ちゃんと磨けてない気がする。明日の朝もっとちゃんと磨こうと思う。
クリスマスの朝だった。いつもより早く起された。
「じつは……お前に話さなきゃならんことがある。」
「ええ、お父さんとよく話したのだけど。」
朝からクリスマスケーキを妹が持ってくる。
「なんだか朝ごはん作ってる余裕が無いから今朝はこれよ。」
さすがに朝からケーキを食べられるか自信が無い。
あ、チキンも有るか。
「まさか、家族の中で似てない僕が親子じゃないとか無いよね。」
ラッキーマウス・ランドから帰った次の日から、親父やお袋が何か隠している様に感じるのだ。学校でもババ抜きの時に誰がババを持っているか直ぐ分かる様になった。多分だけど。
探偵だったら犯人が直ぐ分かりそうだ。ただし、証拠も見つけられずに犯人を名指ししても笑われるだけなんだけど。
「それは、わしも最初に心配したが、わしのひいばあさんと、母さんの爺さんがネコ族だったからその心配は無い筈だ多分。」
「あなた、それは間違いないと言ったでしょ。」
「そうだったなすまん。」
「ケーキ切っとくよー。悠斗兄ちゃんはちょっと大目ね~。」
それから話は続いた。ネコ族とか狸族とか、いきなり聞いたら笑っていたんだろうけれど……。
なんだか何得する部分も有った。
何でだって部分も有った。
親父は狸だった。
妹も狸だった。
お袋は良く分からないが、狸顔のキツネという存在だった。
子供から大人になると特徴が現れるのだそうだ。だったらもっと早く教えて欲しかった。
妹はとっくに両親に教えられていたらしい。
何世代も前から住んでいるらしい。
僕が女の子だったら「ネコむす……。」まあいいか。妖怪の類では無いらしい。ゲームなんかに出てくる種族。獣人に近いらしい。
自分がファンタジーだったとは。
両親や妹が幻影?を解いて見せてくれた。親父はズラを取っただけだったけど。お袋の耳はしゃんとしていて。妹の耳は丸くて可愛かった。
親父のズラがばれない訳が無いと思う。
その後ケーキを食べながら、色々教わった。耳の動かし方、隠し方。耳を見えなく出来るのは狸族とキツネ族固有の能力らしい。ネコだけど両親の能力は受け継いだ。子供まで受け継げるかは分からないそうだ。これからしばらく練習すれば今までの様に暮らせそうだが、年末年始は特訓するので遊びに行くのは禁止だと言われてしまった。
あの日ラッキーマウスに噛り付いたのも、特にマウスが好きという事では無いらしい。ネコ族は隠れるものを見つけたり動くものを捕まえるのが好きなんだそうだ。
そういえばラッキーもダンスしてたっけ。
夜な夜な屋根裏で変なものを捕まえてくるような事が無さそうで安心した。
この町には仲間は居ないが、別の町には居るのが分かっているのだそうだ。そのうち合ってみたいが、合って見分けが付くかは、まだ分からない。
これって、康平たちには……言えないよなぁ。
おわり
異世界勇者は帰り道を探す URL: https://ncode.syosetu.com/n0092fe/ もよろしく。
異世界イベントで異世界へ URL: https://ncode.syosetu.com/n1469fe/ もよろしく。
コンビニの裏は魔界だった URL: https://ncode.syosetu.com/n1911fe/ もよろしく