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「自己紹介をしようか」
僕は彼女に提案してみた。
彼女の家に呼ばれた理由が分かったものの、それ以降会話が出来ずにただ黙々とお茶会が催されているだけだった。結構な量積まれていた茶菓子はほとんどが彼女の胃の中に吸い込まれていき、ようやく「茶菓子って普通このくらいでしょ」っていう量になった。
「じゃぁ、私から」
彼女が宣言する。
「私の名前は、山吹日向。友達とかからは『ひなた』とか『ひーちゃん』って呼ばれてる。年齢は……二十一。高校の時に文学賞とって、そこの出版社の専属で文筆業をやってる」
「ん、じゃあ、日向さんって、呼んでいいですか?」
僕がそう尋ねると、彼女は少し間を空けてから口を開いた。
「……姉さん」
「え?」
「姉さんって呼んで。私、弟とかいなかったから、姉弟ってものに憧れてたの」
「え……、あぁ、分かりました。じゃあ、姉さん……で」
「タメ口でもいいよ。だって君は弟で、私は姉さんだもん」
「あ、分かった」
この人のノリはいまいちつかみにくい。
「で、自己紹介。君の番だよ」
「あ、そうです……そうだね。じゃあ、僕の名前は如月優也。僕はあまりあだ名とかないから自由に呼んでかまわないよ」
「んー、じゃあ優也で」
「オッケー。で、年は十七。高校二年生だけど、今学校一ヶ月くらい行ってない」
「うん。分かってる」
「って、そんな感じかな。自己紹介することといえば」
「だね。あ、そうだ。自己紹介と関係ないけど、一つ言う事忘れてた」
彼女……姉さんは今自分のマグカップの紅茶を一口飲んでから喋る。
「あのさ、優也は毎日暇なんでしょ?」
「うん。まぁ、そうだけど」
「じゃぁ、これから毎日ウチに来ない?」
これもこれで突然の誘いだった。