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僕は不登校だった。かと言って、引きこもりなわけではなかった。家にずっとこもっているのは好きではないのだ。かと言って、学校に行く気もしない。
僕はある日突然、学校に行きたくなくなってしまったのだ。進級して間もない頃である。行きたくなくなった理由は定かではない。勉強が嫌だったのか、クラスの人と関わるのが嫌だったのか、先生たちと関わるのが嫌だったのか、登校するのが嫌だったのか、はたまた学校という環境自体が嫌だったのかは自分でも分からない。とりあえず、僕は制服を着て、家を出て、通学路を通っている途中に突然学校に行きたくなくなったのだ。
その日から、僕は学校に行かなくなった。
家の人は僕が学校に行っていない事は知らないはずだ。
母親は毎朝朝食を作り、昼食用の小遣いをくれる。そして、僕は制服を着て通学カバンを持って家を出る。
そんな、学校に行っていた頃と全く変わらない風景があったからだ。
母親は僕が学校に行って、友達と楽しく話して、授業を聞いて勉強し、食堂で昼食を食べ、普通に家に帰って来ていると思っているのだろう。
だが本当は、家から出るとカバンに入れていた私服に着替え、町をぶらぶらし、暇を持て余し、コンビニで昼飯を買い、下校時間になったあたりで家に帰るのである。
そんな日々が、一ヶ月くらい経っていた。
僕はこの日、昼食を食べた後近くの土手に仰向けに寝転んでいた。特に何を考えていたわけでもない。ただ寝転んでいただけである。
ただただ時間だけが流れていった。
そんな僕に土手の草を踏む足音が聞こえてきた。
僕はその足音のほうに顔を向けた。そこには、女の人が立っていた。
「君、いつもここにいるよね」
彼女は僕にそう話しかけてきた。
「学校とかには行かないの?」
何も喋らない僕に彼女は近づきながら質問攻めをする。
「君、いつも暇してるよね」
そして彼女は僕のすぐ隣まで近づき、上から見下ろすように僕の顔を見る。
「ねぇ、ウチに来ない?」
それが、僕と彼女の出会いだった。