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僕は立ち読みをしていた本を閉じた。
不登校の男の子と物書きの女の人の話である。作者は山吹日向。
この山吹日向の書いた『姉さんと僕』は映画化を目的として書かれた物である。というのも、山吹日向の旦那さんが映画監督であり、新作映画の脚本を山吹日向に依頼したのである。
それの文庫版が、今日発売である。僕は本屋で山吹日向の名前を偶然見つけて全部立ち読みをしてしまった。
僕はタイトルの時点で気になっていたが、読み進んでいくと僕と姉さんの事だという事が分かった。
それはもちろん、如月優也と山吹日向の両方が本名のままだからである。
全くもって、あの人はあからさまな表現をしてくる。
まるで、僕に気がついて欲しいかのように。
僕はあの日から、毎日のように姉さんを想い続けた。
もう会えない事が分かっていても、姉さんの家まで毎日のように訪れた。
その内、姉さんの家は売家になってしまったが、僕は毎日行った。
僕は、どうしても姉さんとの事が『無かった事に』出来なかったからである。
そんな時に、この小説を見つけてしまった。
映画としても結構話題を呼んでいる作品なのだけれど、わざわざ山吹日向の名前で出しているところを見ると、明らかに僕になにかしらメッセージを送っている事になる。
「『無かった事に』とか言っておいて……、結局自分だって無かった事に出来てないじゃないかよ」
涙がこぼれないように僕が見上げた空で、姉さんの笑顔が見えた気がした――。
Fin.