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姉さんは、よく食べる。
僕が作る料理を片っ端から食べていく。まるでブラックホールだ。
姉さんは、本当によく食べる。
なのに、体格は普通な感じだ。全く太るような気配は無い。
姉さんは、僕よりもよく食べる。
特に運動はしていない。週に一回散歩をしに外へ出る程度だ。基本的に外出しない。
そんな姉さんの補助というか、お手伝いをしているのが僕である。
買出しに行かない姉さんの為に買出しに行ったり、ろくに料理も出来ないのに大食漢な姉さんの為に朝昼晩の三食を作ってあげたり、外に出たがらないくせに寂しがり屋の姉さんの話し相手になってあげたりと、色々なお世話をしているのだ。ほとんど、家事なのだが。
僕がここに通わなかったら、一体姉さんはどんな暮らしをしていたのだろうか。
「ん?ふゅうやふぁふぁべないふぉ?」
姉さんは食べながら言った。たぶん、考え事をして食事に手を付けていない僕を心配しているのだろう。
「いや、食べるよ。それと姉さん。食べながら話さないでよ」
「……んぐ。……はぁ。ごめんごめん。気をつけるよ」
結構おっちょこちょいなところもある姉さんと出会ってから、もう一年経つ。
あの頃は、僕はまだ姉さんを姉さんと呼べる存在ではなく。
姉さんも、僕を弟と思える存在でなかった。
――春が過ぎてそろそろ暑くなってくる季節に、僕は彼女に出会った。
『君と出会ったこと、無かった事に。』 心の壁