明かりを灯せ!
いよいよ、クリスマスツリーに飾りつけ!
最後に残したのはてっぺんに飾る星。
それを託されたのはレーゼ。
しかし、レーゼはそれを拒み……?
二十五日、朝。リズーは机に伏せた状態で目を覚ました。そこには小さな赤い箱が置かれている。レーゼは、寝室で目を覚ます。枕元には、緑の箱がちょこんと置かれていた。
「クレー。アンタには、これ」
「姉さん、行動が早いねぇ」
ソファーでくつろいでいたクレーに、クレーが愛用しているコップを持ってくる。中身は勿論、コーヒーである。新しいコーヒーメーカーを、ルイナはすでに用意していた。
渡されたコーヒーを一口飲むと、クレーは半ば満足したようだが、姉に向かって注文をつけた。
「姉さん。味が薄すぎるよ。ミルクまで入ってるし」
「アンタは濃すぎるのよ、いつもいつも。たまには粘膜保護でもして飲みなさい」
「はいはい」
文句は言ったが、この味も悪くはないと思いながらクレーはそのコーヒーミルクを堪能していた。
庭では、セルシが「真実の森」からふたりが持って帰ってきた木を植えて、地面にならしていた。昨晩の大雨の影響で、地面がやわらかかった。そのため、難なく地面を掘り起こし、植木が完成した。
「父さん、魔女さん。帰ってたん?」
「おはよう、リズー」
「なんや、これ?」
リズーは、目の前に置かれた小さな赤い箱に目をやった。自分たちが作った飾りの一部かとはじめ思ったが、こんなものは無かった。
「さぁ? なんだろうねぇ」
「開けてみたら?」
「開ける?」
リズーは首を傾げている。そこへ、同じく小さな緑の箱を持ったレーゼが、寝室から居間へと歩いてきた。
「おはようございます」
「おはよ」
ルイナがミルクを火にかけた。もちろん、自分のためではない。レーゼに冷えた朝、身体を温めてもらうためにホットミルクを飲ませようとしているのだ。
「姉さん、クレー。こんなものが落ちていたんですけど……」
「サンタクロースの落とし物かなぁ?」
「サンタクロース?」
「なんや、それ」
「とりあえず、開けてみんしゃい」
ちびっこふたりは、顔を見合わせながら、不思議そうな顔をして蓋をあけた。リズーの箱の中には、シルバーで出来たイヤリングが入っていた。レーゼの箱には、紅色の石が目立った指輪が入っている。
アクセサリーを身に着ける習慣は、このふたりには無かったので、余計に疑問符が浮かんでいた。
「イヤリングやけど……俺、せぇへんで?」
「私のは指輪ですね」
「両方とも、魔力の制御に関係しているのよ」
「魔力の制御ですか?」
ルイナは、レーゼにミルクを渡してから話の続きをはじめた。
「イヤリングは、高い魔力の制御をしてくれる。その、人間離れした容姿を再び、黒魔術士レベルに下げてくれるはずよ」
「黒髪黒目に?」
「そう。アンタも、自由に外を回れる」
「ほんまに!?」
「えぇ。レーゼ。アンタのは、護衛用。それで、魔力を高めてくれるはず。本来のアンタの力までは及ばないかもしれないけど、それに近い力なら、出せるようになるはずよ」
「…………この、指輪で? では、これらは姉さんが?」
「違うわ」
ルイナは、空を指さしてにっこりと微笑んだ。多少の「魔女」っぷりが見受けられる笑みだった。
「サンタクロースからの、贈り物よ」
「だから、それは誰ですか?」
「子どもたちの味方……とでも言っておこうかしら」
「皆さん、起きましたか? 飾りつけ、しましょう?」
玄関ドアを開けると、セルシが飾りを手に一杯にもって待っていた。それを見て、ルイナたちは外へ飛び出していく。
日当たりのよい南のところに、大人たちの腰あたりまでしかない小さな木が、植えられていた。
「ちょっと、そっちに偏り過ぎじゃないの?」
「姉さんこそ、そこ、引っ張りすぎ」
「リズラルド、その箱とってくれますか?」
「え、どれや?」
「なんだか、にぎやかでいいですね」
飾りつけだけなのに、何だかんだで昼まで続いた。ひとつを残し、すべての飾りをつけ終わると、最後に木のてっぺんに星のモチーフを飾ろうとした。
「これで、最後です」
セルシから、星を渡されたのはレーゼだった。しかし、最後のひとつのピースをはめるというのは、なかなか重要なこと。レーゼは、しばし悩んだ。
「何悩んでんのよ。それで最後よ?」
「最後は、姉さんかクレーか、いえ、私以外のものが付けた方が……」
「何で?」
「これは、希望のはじまりなんでしょう? 私の余命は、もう、幾つあるのか……」
それを聞いたルイナは、レーゼの背中をポンっと軽く叩き、木との距離を縮めさせた。
「姉さん?」
「だからこそよ。アンタは、これからも生きるの。あたしたちと一緒に。ここで、木の成長を見守りながらね?」
「…………姉さん」
「さ、完成させてください。レーゼさん」
「……わかりました」
そして、その木に星がともった。
※
サレンディーズが、再び結集し。家族そろっての行事となったクリスマス。今宵ももう、あと僅か。窓の外には、確かにツリーが存在している。レーゼが飾った星も、落ちることなく輝いている。
満足げに、ルイナは濃い味のコーヒーを飲みながら、そのツリーを観察していた。
「まっず! 相変わらずアンタの淹れるコーヒーは!」
「だから、文句を言うなら飲まないでよ」
ルイナにとって、からかうことのできる弟がいることもまた、幸せなことだということを実感していた。ずずっと最後の一口までコーヒーを飲むと、セルシに目配せをした。
「みなさん。ケーキの時間ですよ」
「ケーキ!?」
「セルシの手作りですか?」
「えぇ」
これからが、サレンディーズ一家のクリスマスは、本番なのかもしれない。
来年のこの時期には、きっとまた。
ツリーに星を灯すのだろう。
こんばんは、はじめまして。小田虹里といいます。
「クリスマスの短編とか、書かないんですか?」と、言われました。そのときは、書く気力も思い入れも何もわかなくて。今年は、死んだようにだらーっとしておりました。
小田のママが亡くなって、まる三年となりました。小田のママは、イベントごとを大事にして。手料理とか、すごく上手で。自慢のママでした。ケーキも手作りだったし、そのケーキはどこで買ってくるケーキよりも、小田は大好きでした。
今なんて、買って来たケーキしか食べれなくって。食べると、リバースしてしまうんですよ。もったいない。
クリスマスツリーは、ママが大事に大事にしてくれていて。亡くなった年は、二十四日が告別式だったので、とてもツリーは出せなかったんですけど、その翌年にツリーを出すと、ママからのメッセージカードが出てきました。Twitterの固定に貼ってあるメモが、それなんですけど。ママの、あったかさが伝わって来て、涙が止まらなくなりました。
イベントは、大切にしたいけど……どうしても、ママを思い出してしまって。辛くなります。だから、今年は特に三年という節目であったので、どんよりしてしまっていました。それでも、ツリーだけは早々と出していました。何としてでも、ツリーは毎年灯そうって、決めたんです。
パパと、ふたりっきりになってしまった一軒家。小田は、大概自室にいるし。パパは、居間でひたすらテレビかビデオ見ていて。交流もほとんどなくなってしまいました。
だから、家族の絆とか……そういうものを、書きたいと。残したいと思いました。サレンディーズのみんなは、一度はバラバラになってしまった姉弟です。でも、こうしてまた、家族として歩みはじめた。それを、大切にしたいと思ったのです。
毎日の更新は、今の小田にはなかなか大変でした。それほどの文字数ではありませんが……でも、書いてよかったって思っています。
読んでくださった方のこころに、明かりが灯りますように。
いつまでも、いつまでも。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。 2017.12.25 小田