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異文化クリスマスを成し遂げよ!

あの、おてんば魔女が帰ってきた!?


クリスマス期間中のみの更新予定。

お楽しみください。

「クリスマス? 何よそれ」

「ですから、異文化といいますか。そういう行事が別の世界ではあるそうですよ」


 銀の長い髪を腰あたりまで伸ばした青年の瞳は、紅色に輝いている。ひと目で「イレギュラー」な存在ということは、うかがいしれた。青年と炊事場で家事をしているのは、黒髪黒目と、これといった特徴の無い女性だった。黒い髪は外にハネる癖がある。髪質は固そうだ。二重の目は、猫のような印象を与える。


「で、それがどうしたのよ。そんな異文化の話されたって、ピンとこないんだけど」

「リズラルドとレーゼさんが、興味を持っているんです」

「……それで?」


 黒髪の女性にとって、リズラルドのことは正直そこまでこだわってはいなかった。それでも、今は一緒に暮らしている身。蔑ろにはしていない。ただし、実際に血族であるレーゼは可愛い弟である。レーゼが何かに興味を持つことは、それほどなかった為、その「クリスマス」というものの実体によっては、祝ったり何かをしてもいいと、姉は興味を持ちはじめた。

 銀髪の青年は、かつては「魔王」としてこの世を暗闇に陥れた存在。しかし、此処に居る「女性」によって、その力を放棄することに成功した、色々な意味で「イレギュラー」な存在だった。今は、「魔王」でもなければ「魔術士」でもない。ただの「人」でもない。

 女性は、その強靭な力を持ったことから世界から「魔女」という二つ名を与えられた。これもまた、「イレギュラー」な人間である。

 元魔王、魔女、そして新たなる魔王に天士、正しい成長を遂げなかった魔術士と、此処には「普通」は通用しない存在が集っていた。魔女、ルイナはこの家のものを一言で「家族」と言いくるめていた。


「せっかくの機会です。僕たちで、ひとつのツリーを作ろうと思うんです」

「ツリー? 木を作るって、何。どれだけの期間を考えて物を言ってるのよ。相当時間がかかるわよ? 苗木から?」

「いいえ、違いますよ。言葉足らずですみません。木は、適当に切って持ってこようと思います。後は、飾りつけが出来ればいいかな、と」

「飾りつけ?」

「そう、こんな風に」


 そういうと、銀髪の青年「セルシオン」は書物を開いた。そこには、緑色の針葉樹に球体やスティックのような飾りが施され、一番上には金色に輝く星が飾られた、きらびやかな木が描かれていた。


「これが、ツリー?」

「はい、そうです。クリスマスツリーというようですよ」

「へぇ……で、これの飾り付けをするっていうわけ?」

「はい」


 ルイナは、しばし腕を組んで考える。この辺りは砂で覆われた大地。このような木は、生えていなかったのだ。それでも、大切な弟の好奇心は、大切にしたいと思うのだ。


「姉さんもセルシオンも、暇人だねぇ」

「何よ。クレー」


 手に、高さ十五センチほどあるコップを持って、ひとりの長身の青年が中へ入って来た。短髪の黒髪に細い一重の黒い瞳。服も黒で統一し、真っ黒という表現が似合う。

 サレンディーズ三姉弟の長男、クレーである。魔王となり、十年ぶりに平和なヘルリオット王都を揺るがした張本人。今は、魔女によってその能力は失われている。それでも、優秀な魔術士のひとりであることに、違いはない。


「アンタも付き合うのよ」

「僕が? 嫌だね。面倒くさい」

「じゃあ、コーヒー半年間禁止令を発動するわよ?」

「何それ。姉さん……コーヒーで僕が釣れるとでも思っているのかい?」

「コーヒーで釣れるとも。アンタみたいなカフェイン中毒者は、一日と持たないでしょうね」

「はいはい」


 そう言いながら、クレーはコーヒーメーカーで豆を挽きはじめる。それを見て、ルイナは「あ!」と声をあげ、その瞬間にコーヒーメーカーは炎に包まれていた。短く叫んだそれが、魔術を発動させるための「詠唱」となっていたのだ。


「何だい、姉さん。壊すことないだろう? 僕の愛用品だったのに」

「手伝うって言うんなら、新しいの買ってあげるわ」

「だから、物で釣れると思っているワケ? 本気で。僕はいい大人なんだけどなぁ」

「だったら、四の五の言わずに手伝え」


 クレーは、軽くため息を吐いた。

 クレーは、内心では本気で手伝いを拒んでいる訳ではなかった。正直なところ、後ろめたさを持っていたからだ。姉には命を救われた借りがあり、弟には懺悔してもしきれないほどの罪を、犯してきたと思っている。リズラルドこと、リズーとも結果対峙することとなったのだ。

 クレーは、このアンバランスな一軒家の中で、ひとり居場所を失くしていた。ルイナもレーゼも、リズーもセルシオンことセルシも、誰もクレーを今もなお恨んでいるというものは居ない。それが余計に、クレーを追い詰めていた。

 魔王へと覚醒したクレーだったが、根っからの悪人ではなかった。だからこそ、完治するはずだった腹部への傷を、未だに自傷してしまうほど、病んでいた。そのことに気づいているのは、セルシだけである。


「木の調達は、僕がしてきます」

「セルシ……気持ちは嬉しいけど、セルシの容姿じゃ目立ちすぎる。力仕事なんだから、クレーに頼むわ。監視として、あたしも行ってもいいけど?」

「遠慮しまーす」


 そう言って、クレーはコーヒーカップをキッチンテーブルに置くと、コーヒーが飲めなくなり名残惜しそうに燃えたコーヒーメーカーの燃えカスを見てから、深くため息を吐いた。肩を落とすと、背丈も低く見えてしまう。


「そうそう」

「何だい? セルシオン。まだ、何か?」

「飾りつけは、二十四日の夜にしたいと思います。ですから、それまでに木を調達してきてくださいね」

「……それで?」

「二十五日には、子どもたちに贈り物をします」


 セルシの説明を聞きながら、眉を寄せるクレーは、これからの数日間が、とてつもなく面倒くさそうな日になりそうなことを覚悟しなければならないと、天を仰いだ。此処まで日程を決められていては、もはや逃げられないだろうとも、自覚している。セルシも姉ルイナも、自分よりも優れた能力者だった。ふたりを本気で怒らせないことは、必要だった。


「はいはい。じゃあ、木の調達に行ってくるよ。あーぁ、冷えるのになぁ」

「いってらっしゃーい」


 ルイナは上機嫌で、クレーに手を振って見せた。それを見て、ますますクレーは肩を落とすのだった。

 玄関ドアを開くと、そこで緑の髪に金色の瞳の青年と、黒髪黒目の少年とすれ違った。背丈は、異質な容姿の青年が百七十ほど。黒髪黒目の少年は百六十ほどだった。やせ細った身体で、どちらも髪は長く伸ばしている。前者がリズラルド……天士という天界からの使者。そして、後者はレーゼ。ルイナとクレーの実の弟だった。


「あ、なんや父さん。これから出かけるん?」

「クレー、外。寒いですよ? もっと、厚着しないと」


 リズラルドが赤子だったときに、拾ったのはクレーとレーゼだった。リズーはクレーのことを「父さん」と呼び、レーゼを「先生」と呼び慕っている。

 余談だが、ルイナのことは「魔女さん」と呼び、少し距離を置いているところがあった。


「そう思うんなら、余計なことに興味を持たないで欲しかったなぁ」

「?」

「何のことや?」


 クレーは、応える気にはなれず、手をひらひらと振って挨拶をしてから、そのまま外へ出ていった。その様子を見守ってから、ルイナは「クリスマス」というものについて、より知識を高めるために、書物に目を通すことを提案した。


 ダレンス。


 ラックフィールドから少し離れた場所にある村。そこで、物は調達していた。サレンディーズの姉弟とセルシ、リズーは「家族」となり、今、ラックフィールド再建に努めている。しかし、他に村人は居ない。皆、「元魔王」によって滅ぼされてしまっていたからだ。それを、今更どうこう言うつもりは、ルイナには毛頭無かった。失ったものを悔やんでいても、戻ってくるはずもない。それならば、取り戻せたものを大切にして生きたいと強く願ったのだ。


「ラックフィールドに、クリスマスツリーを飾る伝統をつくったら、来年もまた、楽しめるかもしれないわね」

「そうですね」

「え、何や? クリスマスツリー、本気で作るん?」


 ルイナとセルシの会話に食い入るように、リズーは入って来た。姿は青年だが、まだ、この世界に生み落とされて十年だ。思考回路は子どもと受け取ってもよかろう。年齢詐欺をしていたレーゼもまた、まだ子どもである。お祭り行事を好む性格には思えなかったが、それでも成人しているルイナやクレーよりは、はしゃぐ心があってもよい。


「みんなで、クリスマスよ!」


 ルイナは、得意げに言い放った。「家族」としてまとまるには、ちょうどよい行事だとも考えていたのだ。

 もちろん、セルシの狙いもそこにあったということは、言うまでもない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] その気になれば家族だけで世界の全てと戦えてしまう実力なのに、脱力する程、和やかな感じが良いですね! やっぱりクレーさんは心の痛みを引きずっているみたいだけれど、あれだけの事をして平気なの…
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