第二章 Cランクのプライド(その4)
ゴミ拾いは演習場で散々行ったブロック拾いに似た作業だ。オペレーターであるユミディナがセンサーでゴミを探し、オレ達パイロットがHUBで拾い集め、最後は母艦に回収する流れだ。
『取り敢えず、今日の所は浮遊している人工物を見つけたら、この籠に入れておけ』
アズライトの後に母艦から射出された籠を一つHUB越しに手渡される。籠は肩掛けが着いていて、背負う形だ。はっきり言って……
「格好悪い」
『うるせーぞ、いいから背負ってゴミ拾え』
『籠の口は基本的に閉じておいてくださいね。折角拾ったゴミが、またどこかに行ってしまいますから』
折角格好いい機体なのに、変な籠を装備しただけで台無しだ。
ゴミはその辺に浮かんでいたり、衛星の陰に隠れていたり、様々だ。
ユミディナもブロック拾いで慣れたのか、分かりにくそうなゴミを次々に見つけて、こっちに座標を送ってくる。ネジのような小さなものから、昔廃棄されたであろう宇宙船の一部まで、実に様々だ。
HUBの手でゴミを拾うのは大変だが、これはブロック拾いで鍛えた、それに、宇宙空間という足場の悪さも、安い演習場のぐちゃぐちゃな足場に近いものが有る。
『ウィング1より、各機へ。ゴミ拾いはこの辺にして、一度母艦周辺に集合するぞ』
ゴミ拾いを開始して一時間ほど経過したところで、フラムから通信が入る。籠も半分近く埋まったし、一回ここで休憩するのかな?
籠の口がちゃんと閉じてあるかを再確認して、母艦へと向かう。
『ウィング3、遅いぞ』
集合地点には既にフラムとシャンス先輩が待機していた。座標的にはオレが一番近い筈なのに、どうして二人はこんなに早く着けるんだ?
『おや、随分沢山見つけたね』
シャンス先輩がオレの籠を受け取って、感心したように呟く。
「でも、先輩達の半分くらいですね」
そうなのだ。フラムとシャンス先輩の籠は既に一杯だった。
『だが、リサイクル出来るもの以外はここで、焼却処分だ』
「え? そうなの?」
『ええ、母艦もゴミで一杯になってしまいますからね。今から仕分けをしますよ。こちらの籠が持ち帰り分。こちらが焼却処分用の籠にしましょう』
そう言うと、フラムとシャンス先輩はテキパキとゴミの仕分けを始める。
『ヴァン、コツを教えるからこっちに来い』
「あっ、ああ」
『まず、こうして派手に焦げた痕があるのはダメだ。あと、液体が付着しているもの。宇宙空間なのに、付着してるって事は危険なものである可能性が高いからな。逆に、良いリサイクル品になるのは、金属だな。あと、色が派手な石。これはたまに凄い値段になる。……他には……』
説明しながら次々に仕分けを行っていく。
オレも見様見真似で手を動かす。
焦げたらゴミ、金属はリサイクル。
うんうん、何とかコツが掴めてきたぞ。ただ、これは本当に宇宙軍士官学校生の仕事なのか?
まぁ、深く考えるのはよそう。
「ん? 何だこれ?」
そんな中で一際綺麗な金属パーツを見つける。大きさも結構あるし、あんまりゴミって感じがしない。
『ああ、それな。ちょっと離れた所で拾ったんだ。それはリサイクル品な』
フラムが作業をしながら説明する。まぁ、綺麗なパーツならリサイクルポイントもたんまりもらえると言うことで、それ以上はこのパーツについて検証せずに、作業を再開する。
三十分程で仕分けも終わった。
持ち帰るのは全体の三分の一程度だった。オレの持ってきたものは殆ど焼却処分籠に入れられているのがちょっと悲しい。
『焼却処分でも、ちゃんと拾った分のポイントは入るから大丈夫ですよ』
「そうなんですか?」
『ええ、ゴミ拾いは収集ポイントとリサイクルポイントを合計したものが付与されますから。その場で焼却処分したものは収集ポイントのみ。リサイクルしたものは収集ポイントの他にリサイクルポイントも付くという仕組みなんですよ』
『そういう事だ。じゃあ、焼却作業始めるぞ』
「ああ、燃やすのか?」
『何言ってるんだ、これも訓練の一環だ。今からシャンスに手本を見せて貰うから、真似してみろ』
そう言うと、フラムは焼却処分用の籠からゴミを幾つか取り出し、遠くへと放り投げる。
「あっ、折角拾っ……」
思わず口にした文句を言い終わる前に、ゴミに緑色の光線が重なり、姿を消してしまった。シャンス先輩が、ドラバイトの右手に装備されたロングレンジキャノンで、ゴミを撃ち抜いたのだ。
『はい、こんな感じです。出力は最小値で大丈夫ですよ』
何故だろう、HUB越しなのにシャンス先輩の歯が白く輝いて見える。きっと二号機は歯が光るように出来ているんだろう、シャンス先輩の機体だしね。うんうん、そうに違いない。
ウィングスに仮入部してから、細かい事を気にしても始まらない事にうっすらと気づき始めたオレは、右手にフェノメノンライフルを装備する。
『おおそうだった、フェノメノンライフルは、射程が短い代わりに連射できる速射モードと、威力と射程に重点を置いたスナイプモードを使い分けが出来るぞ。ライフルのレバーで切り替えるが良い』
カノン先輩が通信で説明してくれる。ってか、それはもっと早めに言っておいてよ。
「まぁ、この場合は連射モードだよな」
レバーを切り替えて、連写モードにする。
『ヴァン、そろそろ始めるぞ。打ち洩らすなよ』
「おう!」
フラムが投げてくるゴミを次々に撃ち抜いて……いきたいんだけど、なかなか当たらない。オレが撃ち洩らしたゴミは、シャンス先輩が次々に命中させていく。くそっ、どうして当たらないんだ!?
『ヴァン、ゴミは動いてるんだ。コンマ秒先の座標を予想して撃ってみろ!』
あまりに当たらない様子に業を煮やしたフラムが、オレのモニターに割り込む。
コンマ秒先……。
今、フラムが投げた大きめのゴミは右肩上がりに移動しているのだから、オレが狙うべき地点は……
「ここだ!」
フェノメノンライフルから青い光線が飛び出す。狙い通りにゴミは光線に吸い込まれ姿を消した。
「よし、当たったぞ!」
コツが掴めれば、何とか当てることは出来る。ただ、シャンス先輩のように次から次へと命中させるのは難しい。一つ一つ座標を計算しながら当てている感じだ。それでも撃ち洩らしたものはフラムやシャノン先輩が始末してくれる。フラムも何だかんだで射撃が上手い気がするが。
「ん? 何か変な数値が……」
ゴミを撃ち抜くのにも少し慣れだした時、計測器が見慣れない数値を表示した。
『一〇秒後に重力震が来ますわ。全員、その場で待機してくださいませ』
ユミディナから通信が入る。
重力震とは宇宙空間の波長と波長がぶつかり合って起きる地震のような現象だ。自然現状だし、基本的に、過ぎ去るのを待つくらいしかできない。コロニーに直接被害が出そうな場合は、コロニー全体をシェルター化させて防御にあたるそうだ。まぁ、そんな酷い重力震は経験したこと無いけどさ。
ユミディナの計測通り、一〇秒後に宇宙空間が少し揺れ始めた。幸い軽い重力震だったので、オレ達は特に被害もなく、揺れが治まるのを見届けた。
『この辺で重力震が起こるなんて珍しいですね』
『ああ、そんなに強くないから良かったけどな。今日は早めに作業を終わらせた方が良さそうだな、ほら、ヴァン急ぐぞ』
フラムとシャンス先輩がそれぞれ心配そうに周囲を見渡して、作業を再開する。
「ああ、了解」
重力震で一回作業が中断したこともあって、結局オレ一人では焼却しきれなかった。いや、言い訳かな。きっと中断しなくても時間内では難しかった気がする。
最終的にはフラムとシャンス先輩がまとめてゴミを撃ち抜いて、無事時間内にコロニーへと戻ることが出来た。