第四章 弟なんて言わせない(その2)~エピローグ
フラムとシャンス先輩が道を開くのをオレはじっと耐える。
大丈夫、二人ならやってくれる。
流石、最速の矛と撃ち落とす盾なんて二つ名で呼ばれるだけある。素早く無駄のない動きで敵に切り込んでいくフラム。そしてその援護を完璧に行うシャンス先輩。何の打ち合わせもしていないのに、完璧な連携だ。これが一年間の背中を任せ合ったということなんだろう。そんな凄い二人がオレのために道を切り開いてくれている。見守ることしかできないが、操縦桿を握る手にどんどん力が入ってしまう。
やがて、フラムのアサルトライフルが限界を迎え。勢いよく爆発してしまう。
「フラム!」
しかし、フラムはすぐさまブレードに持ち替えて、突進を続ける。爆発したライフルだけではなく、ロードナイトそのものが限界に近いことは外傷や、放熱板である翼の発光が弱まっていることからも伝わってくる。否、もう既に限界は超えているのかも知れない。
そんな中、ついに女王ビーネテラに向かう道が開かれた。
『ヴァン! 今だ!』
そう叫ぶのと同時に、フラム映像がモニターから消える。ロードナイトのエネルギーが切れたのだ。
「くっ!」
フラムのことは心配だが、このチャンスを逃すわけにはいかない。オレは一直線に女王ビーネテラへ向かう。その姿を確認した護衛ビーネテラ達が襲いかかってくるが、
『ヴァン、真っ直ぐ進んでください!』
シャンス先輩の声が聞こえ、そのまま視界が真っ白な煙に包まれる。どうやら、シャンス先輩が弾幕を張ってくれたらしい。
「居た!」
弾幕の先に女王ビーネテラを発見する。
「喰らえ!」
出力を最大値にしたフェノメノンライフルを、女王ビーネテラに放つ。並の宇宙船なら余裕で吹っ飛ぶ出力だ。流石に無事では済まないだろう。
「え?」
しかし、女王ビーネテラの動きを止める事は出来なかった。
さっきまで護衛ビーネテラをなぎ倒していたロードナイトのライフルや、ドラバイトのロングレンジキャノンより、出力は上の筈なのに……。
それだけ、女王ビーネテラは格が違うと言う事だろうか。
体液が零れている様子から、全く効いていないわけでは無さそうだ。
「うわっ!」
しかし、外傷により、逆上した女王ビーネテラの発達した口から灼熱色の光線が吐き出される。
咄嗟に左手に装備したシールドの出力を最大にして何とか防ぐ。しかし、今の攻撃だけで、シールドは溶けきってしまった。
「おいおい、どんな熱量してるんだよ」
しかも、シールドで防いだとはいえ、衝撃が強すぎて、折角接触した女王ビーネテラとの距離が空いてしまう。
更に最悪なことに、女王ビーネテラが今度は後方に居る母艦に向けて口内にエネルギーを貯め始める。
「リラちゃん! みんな! くそっ、ただの攻撃じゃ効かないし……何かないのか。このままじゃリラちゃん達を守れないじゃないか」
焦るあまりにコックピットを殴りつける。すると、普段は使わない出力用のレバーが目に入る。
「あっ……」
リラちゃんとの会話を思い出す。
「実はね、フェノメノンドライブには隠しモードがあるのよ」
「隠しモード?」
「ここの出力装置を全部一気に最大値にするとね、エネルギーの過剰供給を行って、無理矢理性能を引き上げる事が出来るの。でも、隠しモードは三二秒しか耐えられないけどね」
それから、さっきのカノン先輩との会話も。
「そうだ、知っていたか。たが、あれは使うなよ。ロードナイトの隠しモードの比ではないほど、危険だ」
「同じ隠しモードなのに?」
「いや、ロードナイトに積んでいるのはフェノメノンドライブの試作モデルだ。威力は下がるが、制御しやすいし、危険性も加味して設計している。だが、アズライトの隠しモード……オーバーロードモーは三二秒しか活動できない。更に操作が今以上にシビアになる。危険すぎるから、実戦はおろか演習場でも使ったことがないのだ」
危険だと言う事は、充分忠告された。でも……
「いま使わないで、いつ使うんだ」
出力装置を順番に最大にしていく。そして、最後の出力用レバーを握りしめ、一瞬呼吸を止める。
「フェノメノンドライブ、オーバーロード!!」
叫び声と同時に、一気にレバーを押し込める。
機体が一瞬震え、アズライトの各所の翼が最大限に開く。
モニター越しにもアズライトの各部から青い光が漏れ出しているのが分かる。まるで青い鎧を纏っているようだ。
コックピット内の各種モニターには、数値が異常を示していると警告が出ており、正面右下にはカウントダウンを示す数値が表示されている。力が安定しない。
確かに操縦はしづらくなったが、何とかバランスを整えながら、出力を上げていく。
大丈夫、ギリギリっぽいけど、制御はできている。
「異常事態なのは分かっているよ」
警告音を無視して、再度女王ビーネテラの懐に入りこむ。
フェノメノンライフルを速射モードに切り替えて、怒り狂う女王ビーネテラのどてっ腹にぶち込む。
「エネルギーならたっぷりあるぜ!」
ライフルの温度と圧力が異常値を示しているが、構わずに連射を続ける。すると、女王ビーネテラの腹部の甲殻がはがれ落ち、結晶のような、内蔵のような、他の部位とは違う器官が目に入ってくる。
一気に、たたみ掛けようとした瞬間――
「なっ!」
ライフルがオーバーヒートを起こし、爆発してしまった。しかも、最悪な事に、ここでカウントが0になる。
「くそっ! ここまで来て、攻撃手段がないなんて……」
ライフルが吹っ飛んでしまった右腕から、いつまでもエネルギーが出ている。
「あれ? 右手からエネルギーが出てるって事は……」
本当はじっくり検討したかったけど、考えている暇は無い。
目の前には完全に逆上しきっている女王ビーネテラ。
口内には充分なエネルギーを溜め込んでいて、今にも発射できそうだ。
「くそっ! オレってば、何で格好いい必殺技とか思いつかないんだよ!」
レバーを目一杯押し出して、フェノメノンドライブの出力を最大にする。
限界を超えたエネルギーを放出し続ける右腕の拳で、女王ビーネテラの傷ついたどてっ腹を
――貫いた。
機体の危険ラインを示すカウントダウンはマイナスに突入し、右腕が吹き飛ぶ。コックピット内の計器達も放電し、次々とショートし始める。
砂嵐と化すモニターに、消滅する女王ビーネテラが映る。
「やった……」
安心した途端、どんどん意識が遠のいていく。
『ヴァン!』
遠くでリラちゃんの声が聞こえる。
エピローグ
*
目を開けると、大きな翡翠色の瞳が飛び込んできた。
「ヴァン!」
あまりの距離の近さに、一瞬混乱しかけるが、直ぐにオレを覗き込むリラちゃんだと気づく。
「あれ? オレは? っ痛!」
「ああ、無理しちゃダメよ。凄い怪我だったんだから」
起き上がろうとするオレを、リラちゃんが慌てて留める。
「ここは……?」
「病院よ。ヴァンったら、二日間も眠ったままだったのよ」
「二日も!? あのビーネテラ達は!?」
「大丈夫、ヴァンが女王を倒したから、残ったビーネテラは目的を失って浮遊しているところを、駆けつけた守備隊が倒してくれたわ」
「そうか。って、リラちゃんがずっと見ていてくれたの?」
「え? 何で?」
リラちゃんが顔を真っ赤にしてしまう。
「何かそんな気がしたから」
「何言ってるのよ、ヴァンったら。そうだ、目を覚ましたのをみんなに連絡してくるね」
そう言うと、リラちゃんはパタパタと部屋を出てしまう。
*
暫くして、病室を訪れたのは意外な来客だった。
「ほぅ、一応生きておったのか」
「ええ、お陰様で。ところで、何のご用ですか? ジョセフィーヌ先輩」
相変わらず意地の悪そうに微笑む、ジョセフィーヌ先輩の姿を確認して、オレは溜息を漏らす。
「随分つれないではないか」
「というか、どうしてオレが目を覚ましたのが、分かったんですか?」
寝たままで居るのも気まずいので、何とか上半身だけ起こす。髪をかき上げようとして、恐ろしく髪が乱れているのに気づく。うわぁ、こんな頭でリラちゃんと話していたのか……。
「ふっふっふ、それが由緒あるSランクの力という奴じゃ」
「……そうですか」
大方予想も付くし、敢えて突っ込むまい。多分、大量のポイントを使ってオレの様子をチェックしていたのだろう。しかし、なんでそこまでしてオレのことを調べるんだろうな?
「ところで、今日はそなたの返事を聞きに来た」
「返事?」
「何という薄情な奴じゃ、妾の率いるアルテミスに誘ったであろう」
そう言えば、そんな話もあったな。色々有りすぎて、オレの少ない記憶のキャパシティからはこぼれ落ちてしまっていたようだ。
でも、オレの答えは決まっている。
「あの件はお断りします」
「随分はっきりと断ってくれたな」
「ええ、オレの居場所がはっきりしたもので。折角誘ってくれたのに、申し訳ありません」
「誘われた事すら忘れていたくせに、心にも無い謝罪をしおって……。もう良い、リラ殿によろしくな」
そう言うと、ジョセフィーヌ先輩はオレの布団に真っ赤なバラの花束を投げつけ、病室から出て行ってしまった。背中を向けていたのではっきりは見えなかったけど、その表情は微笑んでいるように見えた。
*
入れ違いで再度リラちゃんが現れる。
「ヴァン、起きてちゃダメよ。あら? その花束どうしたの?」
「熱狂的なファンに貰った」
「何それ」
布団に転がる花束を生けながら、リラちゃんがクスクスと笑う。
「ねぇ、リラちゃん」
「なに?」
「オレ、ずっとウィングスに居るから。ずっとリラちゃんの事、守るから、だから……」
オレの言いかけた台詞は最後まで伝えきれなかった。
「リラちゃん!?」
いきなりオレに飛びついて泣き出すリラちゃんに、どうしたら良いか分からない。ただ、その小さな肩があまりにもか弱いものに感じてしまい、そっと抱き締めようと手を伸ばした瞬間――
「おい、ウチの大事な指揮官を泣かせるな」
不機嫌そうな声のした方を振り向くと、釣り目がちな瞳でオレを見据えるフラムの姿。
「お姉様を泣かせるなんて、歯を食いしばりなさい!」
「フラム、ユミディナ、やっと起きたのにまた眠らせたらダメですからね」
「やはり貴様はわざと泣かせる性癖か。どれ、一度我輩と膝を交えて語り明かすとするか」
「兄貴! 自分を差し置いて語り明かすなんて! 自分のことも混ぜてくださいっス!」
……賑やかな面々が次々に病室へ入ってくる。どうやら、みんなで揃ってお見舞いに来てくれたらしい。
少し落ち着いたところで、フラムがオレの目を真っ直ぐ見つめる。
「ヴァン、良くやったな」
てっきり頭を撫でられると思ったのに、肩を掴まれた。
「フラム?」
「これじゃあ、弟扱いできないな」
これって、ちゃんと一人の男として認めてくれたってことだよな。思わず頬がほころんでしまう。
「全く、私だって弟はフラムだけで充分よ」
「なんだよ、リラだってずっとヴァンのことも弟扱いしてたじゃ無いかよ」
ああ、やっぱり弟扱いしてたよね。うん、わかってたけどさ、……って、今何か凄く重大なことを言った気がするんだけど。
「弟?」
オレが目を見開くと、リラちゃんが慌てて訂正する。
「年下だし、確かにちょっと弟扱いしてたかも知れないけど……」
「ううん、オレの事じゃなくってさ」
「え?」
「今、弟はフラムだけで充分って」
「ええ、あんなに手がかかるんですもの。弟なんて一人で充分よ」
「弟って言っても、俺たち双子じゃないか。リラが姉らしいとも思えないけどな」
「あっ、ひどい」
何やら二人が楽しそうに言い合いしてるし、他のメンバーも微笑ましそうに見てるんだが……。
「双子!? ってか、他のみんなもなんで驚かないの?」
「どうしてヴァンが驚いているのかが理解しかねますわ」
ユミディナが不思議そうな顔をする。
「どういうことだ?」
「だって、以前フラム先輩とお姉様の話になった時に、幼なじみだからわかっているって仰ったじゃない」
「あれは、二人が昔から凄く仲が良かったことをわかってるって意味で……。あれ? でもなんで二人は苗字が違うじゃん」
「リラは母方のばーちゃんの家を継ぐことになったから養女になったんだ」
フラムがあっさり応える。そうか、だから子供の頃にリラちゃんだけ引越しをしたのか。他のメンバーも双子だってことは知っていたみたいだ。校内で大ぴっらにはしていないが、チーム内では公表していたそうだ。そして、リラちゃんとフラムもまさかオレが、二人が双子と知らないとは思わなかったらしい。
「あー、なんなんだよ。もう!」
思わず大声を上げてしまう。
そりゃあ双子だったら今更風呂を覗いたって気にならないだろうし、双子だったら仲も良いだろうさ。
そう、顔は似てないけど、表情はそっくりだって何度も思ったじゃないか。
なのに、全然気づかなくて、勝手にヤキモチ焼いて、オレはどれだけ格好悪いんだよ。全く。
「ヴァン……」
リラちゃんが心配そうにオレを覗き込む。確かにオレが勝手に勘違いしてたんだ。気づけなかった自分が情けないだけで、これ以上リラちゃんを心配させられない。
「ああ、驚いたけど、そんなに心配そうな顔しないでよ。オレ、これからもこのチームで頑張るよ」
「……そうか」
その言葉を聞いてフラムがほっとしたような表情を見せる。そして、嬉しそうに一枚の紙をオレに見せる。
「ん? 何だこれ?」
「新しい依頼だ。いつも同じゴミ拾いばかりでは流石に気の毒だしな。それに、この前の戦闘でお前の腕が上がった事もよく分かった」
「……フラム」
オレはフラムから差し出された新しい依頼用紙を受け取る。
「どうだ、これなら文句ないだろ?」
「……フラム? これ、ゴミ拾いって書いてあるけど……」
「何言っているんだ、ちゃんと読め。今までよりもっと沢山のゴミを回収する依頼なんだぞ! 何と言っても、まず支給される籠のサイズからして違うんだからな!」
「そういうのは、変わったって言わないんだ~~~!!!」
病院中に、オレの心からの叫びが響き渡り、程なくしてオレごと追い出されたのは言うまでもない。
――END――
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
何だか急に部活モノに憧れて書いてみた話ですが、蓋を開けてみたらロボット物で自分でもビックリです。
この話は一人称で男の子主人公という所が一番大変でした。
書く前は心理描写で苦労するかと思っていましたが、書き始めて一番大変だったのは視線の高さです。
自分の身長がものすごく低いので、平均的な男の子の目線で色々イメージするのがとにかく大変でした。
途中からは少し慣れてきてホッとしました。
ではでは、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。
ありがとうございました!
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