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デルタ・スクランブル  作者: かんな らね
16/17

第四章 弟なんて言わせない(その1)

※11/12追記


11/11に第4章その1をアップしましたが、前の話が1話分抜けていました。

11日に既に読んでいただいている場合は、申し訳ありませんが、下記の話から続いていますので、ご確認いただけると嬉しいです。

12日の8時以降に読んでいただいている場合は、正しい順番になっておりますので、こちらの注意書きは気にせず、そのままお読みください。

↓ ↓ ↓

デルタ・スクランブル 第三章 血の気が多い奴ら(その4)(11/11発表、11/12更新)

http://ncode.syosetu.com/n5186dp/15/


分かりづらい更新になってしまい、申し訳ありませんでした。

第四章 弟なんて言わせない




「管制室! 至急ハッチを閉じてください!」

『しかし、君たちは……』

「あの大きいのは女王ビーネテラです。私たちが戻っている間にコロニーに入られたら一巻の終わりです。これでも士官学校生です! どうにかしますから、閉めてください!」

『わかった。生きて戻れよ』

「了解」

 ハッチが閉まり、通信が途絶える。

「お姉様、護衛ビーネテラは防衛作戦中の軍本隊と戦闘中ですわ」

「じゃあ、この女王蜂と周りの数匹だけなのね。恐らく、コロニーに侵入して新しい巣にするつもりなのね。どうにかここで食い止めないと」

「ですが、軍本隊は護衛ビーネテラとの戦闘で手一杯の状態です」

「出るぞ!」

 フラムとシャンス先輩が立ち上がる。オレも一緒に行こうと勢いよく立ち上がるが、膝から力が抜けてしまう。

「ヴァン、お前は怪我してるんだ。ここに居ろ」

「フラム……」

 違うんだ。

 これは怪我のせいなんかじゃない。

 自分が一番わかっている。


 これはただの恐怖だ。


「俺が守ってやるから、心配するな」

 頭を撫でられる。

「フラム!」

 リラちゃんがフラムに駆け寄る。そして手を握りしめる。

「気をつけて」

「おぅ」

 そしてシャンス先輩の方を振り返る。

「シャンスも気をつけてね」

「任せてください。またファンが増えちゃうね」

 軽口を叩いているが、シャンス先輩の目は真剣そのものだ。

「じゃあ、行ってくる」

 フラムがリラちゃんの手をそっと放し格納デッキに駆け出す。

 追いかけようとするが、足に力が入らない。


「ロードナイト、ドラバイト射出準備完了」

「射出!」

 リラちゃんのかけ声と同時に二機が射出される。女王ビーネテラは目前に迫っていた。

「お姉様、女王ビーネテラがエネルギーを放ってきます」

「緊急回避!」

「あいよ!」

 コーズがギリギリのところで母艦を回転させて、攻撃を避ける。しかし、背後のコロニーがダメージを受け、衝撃波がここまで届く。

「うわっ!」

 やっと声が出たと思ったら、悲鳴にもならない声だった。スクリーンにはコロニーが映し出される。ハッチがつぶれて退路を失ってしまった。しかし、エネルギー波がかすっただけだったので、コロニーに甚大な損害は与えていない。

『今は俺たちしか居ないんだ。倒すぞ』

 フラムから通信が入る。その声にリラちゃんが応える。

「……そうね。護衛の働き蜂を倒してもきりがないわ。女王蜂さえ倒せば、奴らは統制が取れなくなる筈よ」

『よし、ロードナイトのバーストモードで一気に決める。ゼロ距離なら仕留められる筈だ! シャンス行くぞ!』

『ええ』

 言うのと同時くらいの素早さで、ロードナイトとドラバイトが飛び出す。

「カノン先輩、バーストモードってなんですの?」

「ロードナイトの隠しモードである。一時的に機体の能力を限界まで酷使できるモードだ」

「それって、アズライトにもありますよね?」

 声が出たので、ついオレも口を挟んでしまう。

「そうだ、知っていたか。たが、あれは使うなよ。ロードナイトの隠しモードの比ではないほど、危険だ」

「同じ隠しモードなのに?」

「ロードナイトに積んでいるのはフェノメノンドライブの試作モデルだ。出力は下がるが、制御しやすいし、危険性も加味して設計している。だが、アズライトの隠しモード……オーバーロードモーは三二秒しか活動できない。更に操作が今以上にシビアになる。危険すぎるから、実戦はおろか演習場でも使ったことがないのだ」

「じゃあ、ロードナイトのバーストモード頼りって事ですか?」

「そうなるが、上手くゼロ距離で撃てるかどうか、出力に不安が残る上、何よりHUB二機では近寄ることも困難だろう」

「そんな……」


 言葉を失うオレ達とは裏腹に、シャンス先輩が後方からロングレンジキャノンで援護しつつ、フラムが一気に女王蜂に近づこうとする。

『くそっ、護衛が多くて近づけない!』

 いつの間にか護衛ビーネテラも女王の側に戻ってきていた。次々に襲いかかってくる護衛ビーネテラのせいでフラムは殆ど前に進むことが出来ない。

 その時――


「私が出ます!」


 そう言って、リラちゃんが立ち上がった。

 手にはアズライト起動用のカードが握りしめられている。

「リラちゃん!」

「お姉様」

「姐さん」

 オレ達一年生が次々に声を上げる。しかし、リラちゃんは決意を固めた瞳で、モニターを見据える。

「リラ、アズライトはヴァンの設定のままだ。貴様に乗りこなすのは困難であろう」

 カノン先輩が告げるが、リラちゃんは首を横に振る。

「でも、私が行かないと。ボーガン少尉達だって、あれだけの戦力で立ち向かったのよ」

「結局、殺されているではないか」

「それでも、私たちがここで止めなかったら、もっと酷いことになるわ! それに、今助けなきゃフラム達だって無事じゃ済まないわよ。三機で倒す作戦しか思いつかないわ」

 リラちゃんが指揮官席から、ブリッジの出入り口に移動しようとする。


 このまま行かせて良いのか?

 アズライトだって、オレに合せたままだし、リラちゃんの操縦はそんなに上手くないと聞いている。

 それに、リラちゃんは元々指揮官だ。

 ここで、指示を出さなくてオレたちに勝ち目はあるのか?


 ってか、そんな理屈っぽい事じゃない。

 フラムに勝てなくて、

 器用貧乏で得意なことが無くて、

 オレがいつまでも格好悪くって、

 リラちゃんに全然頼って貰え無くって、

 それでも……、

 オレは……、


「行かせないよ」


 歩き出すリラちゃんの背後から、起動カードを持った右腕ごと掴む。

「ヴァン?」

「リラちゃん」

 驚くリラちゃんの瞳を真っ直ぐ見つめる。

「オレは確かにみんなみたいに飛び抜けているものは無いよ。だけどリラちゃんを守りたくて、ここに来たんだよ。リラちゃんを守りたい気持ちは誰にも負けない。だから、オレ、頼りないかも知れないけど……守らせてよ」

 もっと格好いいことが言いたかったけど、思ったことがそのまま口からこぼれ落ちていく。

「ヴァン……」

 リラちゃんが振り返り、オレのパイロットスーツを掴む。そして、嗚咽混じりの声を振り絞る。

「知っていたわよ」

「え?」

「だって、子供の頃約束したじゃない」

「リラちゃん……」

 リラちゃんはオレのパイロットスーツを更に強く掴む。

「お願い……守って」

 短い言葉に沢山の思いを感じ、オレは大きく頷く。

「ああ」

 オレはリラちゃんの手に握られたアズライトの起動カードをそっと引き抜いて、格納デッキに向かって走り出した。



『ヴァン、遅いぞ!』

『まぁ、まぁ、では、行きましょう』

 アズライトで駆けつけたオレをフラムとシャンス先輩が戦闘をしつつ迎え入れてくれる。まるで、いつものゴミ拾いみたいだ。目の前に居るのはリサイクル品やゴミではなく、人類の天敵、ビーネテラだと言う事を一瞬忘れそうになる。

「ほら、期待のルーキーが来たんだから、安心してよ」

『自分でいうな』

『まぁ、ここで活躍したら本当に期待のルーキーですね』


『そんでリラ、作戦は?』

 右モニターにフラムとリラちゃん、左モニターにシャンス先輩が映る。

『かなり危険な作戦しか思いつかなかったわ』

『お前の作戦で失敗した事は無い。言ってみろ』

『うん。まず、ロードナイトが護衛ビーネテラを倒しつつ、女王ビーネテラへの道を作る。ドラバイトは援護。そして、アズライトで留めを刺す』

『確かに思い切った作戦だね』

 シャンス先輩が苦笑する。そりゃあそうだ。一番重要な仕事をオレに任せるなんて、リラちゃんも良い度胸だ。

『エネルギーの面から考えても一発勝負よ! 作戦開始!』

「『『おう!』』」

 ロードナイト、ドラバイト、アズライトの順にビーネテラに向かって飛び立つ。


『バーストモード発動!』

 ビーネテラの軍団と距離を縮めたところで、フラムがスロットレバーを操作するのがモニター越しに確認できた。掛け声と同時に、スロットレバー最大に押し込み、その先にある赤いボタンを押す。

 すると、ロードナイトの赤いラインが光りだした。背中の放熱用の翼を広げると、そこからは赤い粒子が光となって放たれる。

『このまま終わると思うな』

 フラムは好戦的な瞳で呟くと、赤い軌跡を描きながらビーネテラに銃口を向ける。右手に装備したアサルトライフルから赤い閃光が何度も放たれる。フラムのコクピット内には、オーバーヒートの警告を知らせる音が鳴り響いている。

 その音が、オレのコックピットにもスピーカーを通して聞こえてくる。

 けれど、フラムはそんな状態にもお構いなしに、次々に護衛ビーネテラを撃ち抜いて行く。それはまるで、真っ赤なたてがみを持つ獅子が獲物を捕らえているようだ。

 やっとフラムが空けた道を他の護衛ビーネテラが塞ごうとする。

『おっと、ウチのエースが開拓してくれた道ですからね』

 シャンス先輩のロングレンジキャノンが的確に阻止をする。

 しかし、数が多すぎる。一体のビーネテラがロードナイトの死角を突こうとする。

「危ない!」

 オレは咄嗟にフェノメノンライフルの引き金を引く。青い光線がフラムに襲いかかろうとしていたビーネテラを貫く。

『ヴァン、何やってるんだ!』

 フラムの無事を確認してほっとしたのもつかの間、当のフラムの怒鳴り声が響く。

「何って、危なかっただろ」

『馬鹿野郎! お前はこの作戦の要だ。無駄弾を使うな!』

「でも……」

『ヴァン、オレを信じろ』

「フラム」

『あと、僕のこともね』

 シャンス先輩がオレやフラムの背後に回ろうとしていたビーネテラを倒しながら微笑む。

 そうだ、信じよう。

 道を空けるフラムの事を、

 援護をするシャンス先輩の事を、

 この機体を作ったカノン先輩の事を、

 母艦でみんなを守るコーズの事を、

 探索と連絡を続けるユミディナの事を、

 そして、オレ達を指揮するリラちゃんの事を……。

「信じるよ!」


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