プロローグ~第一章 最凶のCランク(その1)
こんにちは、かんならねと申します。
今日から新作をアップしていきます。
この作品も、前作同様、完成したものを5,000位で区切ってアップしていきます。
一応、毎日更新予定です。
部活モノに憧れて書いた話なんですが、何故か仕上がったらロボット部活モノになっていました。
しかも舞台は宇宙。
……自分の中の部活観に我ながらビックリです。
でも、色々考えすぎてしまう主人公は、書いていて大変だったけど楽しかったです。
良かったら、お付き合いくださいませ。
ほかの完結済み作品も見て貰えると、嬉しいです♪
↓ ↓ ↓
その勇者、盗賊につき
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※2016/10/28 完結
SSS ~スペシャル・スペース・スペクタクル~
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時空交差点~フタリノキョリ~
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プロローグ
*
夕方の公園。
三人の影が伸びる。
「リッちゃん、怪我してない?」
「うん。それより、ヴァン君は大丈夫?」
リッちゃんが心配そうにオレを覗き込む。その優しい言葉に、さっきまでの恐怖や色んな感情が蘇り、涙が零れだす。返事もできないオレの頭を、後ろに居たフッ君が撫でる。
「ヴァン君。もう泣くなって」
「だって、オレ……ひっく」
ちゃんと喋りたいのにしゃっくりが止まらない。さっきまでオレたちよりずっと大きな小学生たちと喧嘩をしていたのだ。
フッ君はオレより沢山怪我をしているのに、力強く微笑む。
「リッちゃんを守ろうとしたんだな。偉かったぞ」
その言葉でまた泣き出してしまう。
「うぅぅ。でもオレ、もっと強かったら良かったのに……」
リッちゃんが小学生たちに虐められているのを、怒鳴りつけたところまでは良かった。でもその後、オレは袋だたきにされてしまい、駆けつけたフッ君が小学生たちを追っ払ってくれたんだ。
泣き続けるオレの肩をフッ君が力強く掴む。
「じゃあ、強くなろうぜ。俺、おっきくなったらスペアカに入るんだ!」
「すぺあか?」
聞き慣れない言葉に、涙で滲んだ顔を上げる。
「宇宙軍士官学校の事よ。宇宙軍で働きたい人はその学校に行くと良いんですって。市民を守るヒーローなのよ」
ハンカチでオレの顔を拭きながら、リッちゃんが答えてくれる。可愛いピンクのハンカチが泥色に染まってしまう。それが無性に悔しかった。オレがもっと強かったら良かったのに……。
折角リッちゃんが拭いてくれたのに、オレは自分の泥だらけの腕で一気に涙を拭う。
「オレもそこに行くよ! そんで強くなってリッちゃんを守ってあげるよ!」
「じゃあ私も行くわよ!」
オレの泥だらけの顔を見てリッちゃんが微笑む。
「そしたら守ってあげられないじゃん」
「そんなこと無いわよ。それに、私も一緒に戦うわ」
オレとリッちゃんの言葉を聞いて、フッ君が嬉しそうに笑う。
「そんじゃあ、三人で大活躍だな!」
「「うん!」」
……その直後、リッちゃんは違うコロニーへ引越しをしてしまった。程なくしてオレも親の仕事の関係で、コロニー内ではあったが、他の地域へと引越しすることになった。
あれから十年。
引っ越して以来、フッ君ともリッちゃんとも会っていない。
だけど、オレは第三宇宙軍士官学校へと入学した。
だって、約束したから。
大丈夫、絶対会える。
第一章 最凶のCランク
*
「何でこんな目に遭っているんだ?」
浮遊型ボート(フロートボート)のハンドルを握りしめながら、後ろを確認する。後方からは同じ学校指定の浮遊型ボートが、凄まじいスピードで追いかけてくる。
浮遊型ボートは反重力の板に、ハンドルが付いた学生御用達の乗り物だ。
加速は体を前方に傾けることで行う。減速はハンドルのブレーキを使う他、後方に重心を逸らしても可能だ。あくまでも速度より安全性を重視して作られている代物だといえる。
「ってか、あのスピードあり得ないっつーの」
いくら下り坂とはいえ、相手のスピードは速すぎる。
確かに浮遊型ボートは重心を前にかければ、その分加速する。だから、浮遊していて車輪がないとしても、自然と前傾姿勢になる下り坂は速度を出しやすい。そうは言っても、普通はコーナーになればスピードを落とす。それなのに後ろから追いかけてくる奴は、絶妙なコーナリングを見せる。どんどん距離が詰まる。
「これが噂に聞いていた暴走野郎か」
全く余裕は無いが、もう一度後方を確認しながら舌打ちをする。
一年生を追いかける変な上級生が居る。
晴れて宇宙軍士官学校に入学したばかりのオレ達一年生の間では、そんな噂が広まっていた。謎の上級生はゴーグルで顔が隠れているし、圧倒的なスピードで走り去ってしまう為、正体は分からない。だからなのか、一年の間では暴走野郎と呼ばれている。聞いたところによると、浮遊型ボートの操縦が上手い奴ばかりが追いかけられているらしい。
オレはいつも大した速度も出さずに操縦していたので、暴走野郎の噂話も他人事だと思っていたが、今日はたまたま寝坊してしまったのだ。全速力で学校に向かっていたら、いつの間にかこんなことになっていた。
学校まで残り半分という地点で、とうとう抜かれてしまった。
「!」
抜き去る際に暴走野郎が唇の端を釣り上げて微笑んだ。
本当はこんな奴なんか気にしなければ良いんだ。
自分でいうのも何だけど、中学の頃は何でも一生懸命取り組んでいた。勉強も運動もしっかり頑張った。だけど、本当に自分でいうのも気が引けるんだけど、真面目すぎたのがいけなかったのだろうか?
オレの周りには硬派な男子ばっかりが集まった。いや、女子にもてたい訳じゃ無いんだ。別にそう言うんじゃなくて……まぁ、もてたらもてたで嬉しいけど。って、話が逸れた。とにかく、クラスで男子とも女子とも仲良くして、勉強も運動もそれなりにできて明るい奴ら。そういうのに憧れたし、目指してみたんだけど、中学時代のオレにはどうしてもできなかった。
そんなオレだったけど、折角憧れのスペアカに入ったんだ。明るくて今時な性格になって、小さい頃にわかれたきりのリッちゃんに再会したいんだ。
今時の奴はこんなことでいちいち熱くなってはダメだ。「ふぅ、やれやれ。あんなの相手にしてられないさ」とかクールに肩なんか竦めちゃって、教室で今流行の音楽とかの話で盛り上がる。そんな感じだ。
落ち着け。落ち着けオレ。
別に今のスピードを維持していれば遅刻せずに済む。
それで良い……
「んな訳あるか! 何だあれ! 舐めやがって!」
道で抜かされて、小馬鹿にされてそのままでいられるだろうか?
否、いられないだろう。この前まで受験生だったので、倒置法なんて使ってみる。
いかん。やっと受験勉強から解放されたというのに、まだ頭が切り替わっていない。
とにかくクールな今時男子学生を目指すのは学校に着いてからだ。取り敢えず、あの暴走野郎を抜き返さないと始まらない。
体温とスピードを上昇させて暴走野郎を追いかける。
とはいっても、このままただがむしゃらに追いかけても仕方ない。コーナーで確実に差が広がってしまう。
「何がそんなに違うんだ?」
ぴったり後ろに付いて、コーナリング時の暴走野郎の動きを観察する。
よく見ると全くスピードを落としていないという訳ではない。緩やかにスピードを落とし、それに合わせてコーナーの内側に浮遊型ボートの先端を向け、後部で円を描くようにしている。まるでコンパスで円を描く感じで、最低限の距離でコーナーを曲がりきっているのだ。
見よう見まねで同じ動きをする。
コーナーの内側に浮遊型ボートの先端を向ける。スピンしてしまいそうで怖かったが、何とか曲がる方向とは逆にハンドルを傾けて調節する。これならどうにかできそうだ。
実は結構器用な方だと自負しているだけあって、何でも直ぐにそこそこのレベルで出来る。
「飛び抜けて出来るモノはないけどな」
自嘲気味に微笑んでしまう。自分でも分かっている。器用なのではなくて器用貧乏なのだ。ある程度まで行くと限界が見えてしまう。才能という壁の前に凡人は引き下がるしかないのだ。それが、オレの一五年で得た残酷な現実という奴である。
「そんなこと考えてる余裕は無いな」
思考を切り替える。何度かコーナーを曲がるうちに、コツが掴めた。コツさえ掴んでしまえば、最初からこうやって曲がった方がスマートだったのではないかとさえ思えてしまう。認めたくないが、それだけ目の前を走る、暴走野郎の腕は確かだったということか。
しかし、幾つかのコーナーを曲がるうちに一瞬だけ暴走野郎の姿勢が僅かにずれた。重心を傾けるタイミングをほんの少し外したのだろう。コーナー内側に僅かな隙間が生じる。
丁度、浮遊型ボートが通れるくらいの隙間。
「今だ!」
オレは一瞬生じた隙間に入り込む形でコーナーに滑り込む。
二台の浮遊型ボートが同時にコーナリングする。
お互いにぶつかることなくコーナーを曲がりきる。当然内側を回ったオレの方が先に直線に入る。
「よし」
ハンドルを握っていなければガッツポーズをするところだが、危ないから呟くだけにしておく。このままさっきのコーナリングを繰り返せば、まず負けないだろう。
次は急なコーナーだ。コーナリングのために、ほんの少しスピードを落とす。すると、後ろから暴走野郎がスピードを落とさずに突っ込んでくる。外側からじゃあ抜けないだろう。
「何!?」
何が起こったのか一瞬理解できなかった。
だけど、抜かれる際に視界の端に映るっている光景を、認めざるを得ない。
壁を走っている?
「曲芸かよ!」
悪態をついてみるが、当然抜き返す隙なんて無い。
小さなコーナーはコンパスのように曲がる方が、効率が良い。内側で綺麗にコーナリングされたらどうしようもない。離されないようにくらいつくだけで精一杯だ。
チャンスは学校手前の大きなコーナー。だけど暴走野郎も当然、より早く曲がれる壁走りで攻めてくるだろう。
勝つにはもっと攻めるしかない。
でも、危険な方法しか思いつかない。失敗したら入学早々大怪我は避けられない。果たしてそこまでのリスクを冒す必要があるのだろうか?
「!」
まるでオレの迷いをお見通しといわんばかりに、暴走野郎が浮遊型ボートの後部を挑発するように揺らした。
「くそっ、やってやるよ!」
ここまでされて引き下がれるか。
オレが決心を固めている間に学校へ着実に近付いていた。
「うわっ! すげースピード」
「みんな、避けとけ!」
「暴走野郎と互角な奴が居るぞ!」
そろそろ先に寮を出た他の奴らにも追いついていた。道が混んでいる。オレと暴走野郎は器用に避けながら猛スピードで駆け抜けていく。周りの奴らも感嘆や驚愕の声を上げながら道を空け始める。
いよいよ最終コーナーだ。道路沿いのミラーを確認したら幸いなことに人は居ない。勝負を賭けられる。それは暴走野郎にとっても同じだろう。だが、後ろから抜かなければいけないオレは当然よりリスクを伴う方法に出るしかないのだ。
「すげー! 壁走りだ!」
「映画みたいだな」
周りの声が耳に入る。暴走野郎は、予想通りスピードを落とさないで済む壁走りを選択した。勿論、オレも壁を走らないとまず抜かせないだろう。だけど、同じラインをとっても始まらない。よりハイスピードで、より短距離でコーナーを曲がりきる必要がある。
オレは全くスピードを落とさずに壁に向かう。
「バカ! 壁に突っ込むぞ!」
初めて暴走野郎が口を開く。
「きゃあ!」
「危ないぞ!」
他の奴らの叫び声も聞こえる。だけどここで止められないだろ。
「やってやるさ!」
そのまま暴走野郎よりも地面スレスレの位置で壁走りをする。
「壁ドリフトだと!?」
暴走野郎が驚きの声を上げる。
オレは先ほどまでのコーナリングを活かして、コンパスのように内側を中心に最短距離で曲がりきる。同時に最後の直線に入るが、当然内側に入ったオレの方がゴールに近い。全くスピードを緩めることなく、そのまま学校の校門へとゴールする。
「ゴール!」
校門を潜り浮遊型ボートを止めたオレの目の前で、女子生徒が満面の笑みを向けてくる。
「…………」
時間が止まった様に女子生徒の事を凝視してしまう。
さらさらと風になびく肩まで伸びた桃色の髪。まん丸くて大きな翡翠色の瞳が印象的などえらい美少女がそこに立っていた。いやいやいや、どえらい美少女は言い過ぎかも知れない。結構可愛いくらいかな?
あっ、でも、街で見かけたら確実に振り返るね、オレは。やっぱりどえらい美少女だ。少なくともオレにとっては。いやいやいや、そういう事じゃない。可愛いとか可愛くないとかはこの際どうでも良いんだ。可愛いけどさ。
だって、ずっと会いたかったんだ。
「リッちゃん……」
恐る恐る名前を呼ぶ。目の前の美少女は見間違えるはずもない。十年前にわかれたきりだった幼なじみのリッちゃんだ。昔から可愛かったけど、すっかり成長していて驚いてしまう。
名前を呼んだら、尚更懐かしくなってしまった。本当はリッちゃんに駆け寄りたいところだけど、いきなりそんなことしたら驚かせてしまうかも知れない。そもそも十年も経っているんだ。オレのことなんて忘れている可能性も決して低くない。ぐっと堪えて、リッちゃんを見つめる。
「ヴァン!」
どうやらリッちゃんもオレを覚えてくれていたみたいだ。オレの側に駆け寄ってきてくれる。忘れられていなかった事に感激してしまう。
「約束したもんな。一緒にスペアカに入ろうって。でも、リッちゃん何組? オリエンテーション中に全然会わなかったよな? ってか、フッ君も入学してるのかな?」
もう一人の幼なじみも、この難関と言われるスペアカに合格しているのか心配になってしまう。すると、リッちゃんがクスッと笑う。
「フッ君……フラムにはもう会っているでしょ」
「ん? フッ君ってフラムって名前だったっけ? 同じクラスには居ない筈だけど……」
「お前、結構薄情だな」
後ろから肩をポンと叩かれる。
「え?」
振り返ると、さっきの暴走野郎。
「よう」
「……まさか?」
恐る恐る声をかけると、暴走野郎がゴーグルを外す。ちょっと釣り目がちで真っ直ぐな紅茶色の瞳は、十年前と全く変わっていない。それに相変わらずツンツンで手に刺さりそうな深緋色の短髪。
「ヴァン君……ヴァン、久しぶりだな」
君付けも照れるからなのか、フッ君がオレの名前を呼び捨てで呼び直す。
「あっ! 何だ、最初から名乗ってくれれば良かったのに。久しぶりだな、フラ……」
オレも呼び捨てで呼んだ方が良いかなって思った瞬間に違和感に気づく。
暴走野郎は入学したばかりのオレたちを追いかける変な上級生だ。
で、フッ君がその暴走野郎だった。
って事は、フッ君は……
「フラム……先輩!?」
「はは、先輩って言われるのは何か照れるな。なあ、リラ」
フラム……先輩が頭をかきながらリッちゃんに話しかける。そう言えば、リッちゃんはリラって名前だった。フラム先輩の首元で揺れるネクタイが目に入る。色は緑。二年生の色だ。因みにオレは青。三年は赤だ。
「私たち、ヴァンが入学するの待ってたんだよ」
そう言って微笑むリラ……
「……先輩?」
彼女の首にも、フラム先輩と同じ緑色のネクタイが揺れていた。