序章――「明るかったら月夜だと思うのは僕だけですか」
僕は、源海。暴れまわっていた中学を卒業し、晴れて、真面目な高校デビュー。
だから、急に不良っぽい人に声はかけられたりしない。
「おい」
うん、だからこれは空耳だ。おい、とかそんな言葉は僕の耳には届いても心には届かない。
僕は、もう、こういった人種とは決別したんだから。
兄弟や幼馴染からはその内化けの皮が剥がれるとか言っていたが、僕はそんなミスは犯さない。悪ふざけがすぎるグループの中には一人ぐらいストッパーは必要だろう。
委員会はクラス内での立候補制だ。正直やらなくてもよかったのだけれど、図書委員に立候補した。
数ある委員会のなかでも比較的仕事が楽な部類に入るらしい図書委員は、真面目に成り立ての僕にとってちょうど良かったと思う。
いい先輩とも出会うことができた。
図書館の当番は楽しかった。静かな図書館は、僕が安心して過ごせる場所となっていた。もう、騒がしくやんちゃをしていたあの頃とは違う。
昔の自分と決別出来たかのように思わせてくれる。
部活は未所属だ。いわゆる帰宅部。暑苦しい場所は、嫌いだった。どうにも、他人の熱量にはついていけそうにないらしい。自ら熱気に飛び込むより、逃げる道を僕は選んだ。
なんて、つらつらと僕のことを書き連ねてはいるけれど、あまり必要のない設定なので放置してほしい。
なんといったって、この話で一番重要なのは、“見える”か“見えない”か、なのだから。
一般世間で僕のゆう“見える”モノは妖怪や、怪異、幽霊といった非現実的な存在だ。
この国では思いが命を得ることが多い。
そして、大抵僕らに関わるモノは悪戯好きか悪趣味なヤツか本当に殺そうとしてくるヤツだけだ。
それでも、僕はまだいい方なのだ。
当てられずに、普通に生活出来ているのだから。
僕の知っている人で、そういったモノの気配に当てられ、体調を崩す人もいる。
ただ、源家は元々ヤツらを退治する家系らしい。だから、そういったモノに耐性がある、ということだった。
長女である火憐姉さん、長男次男である双子の大地兄さんと空兄さん。そして、末の三男、海――――つまり、僕だ。そして、この兄弟全員がはっきりと“見る”ことができる。
源は母方の苗字なので、母さんの父さん、つまり、母方の祖父も“見える”人だった。母さんは勘がいい程度の霊感なので祖父も安心していたらしい。どうやらその子供、つまり孫が“見える”とは思ってもみなかったことなのだろう。
実際に祖父に知られたときは、とても驚いていたことを今でも覚えている。そして、辛かっただろうと心配してくれたことも。
現実、辛かったことや、苦しかったこともあった。だけど、僕には姉さんや兄さん達がいた。
それに、僕の味方に、支えになってくれたヤツもいたからだ。
『白蛇様』と、感覚的に呼んではいるけれど、本当の名前は僕も知らない。曰く、名前なんて気を使ったことがない、とのことだ。
だから、見た目から『白蛇様』と僕は呼んでいる。確かに白い動物は神の使いとは呼ばれているけれど、本人(この場合は本蛇?) の態度を見るに、神の使いかどうかは怪しい所だ。
蛇信仰。
『白蛇様』曰く、昔はただの蛇だったらしい。
『白蛇様』曰く、昔はただの神の使いだったらしい。
『白蛇様』曰く、昔はただの蛇神だったらしい。
『白蛇様』曰く、今は僕の守護霊――――守り神、らしい。
前に『白蛇様』に守護霊と守り神は違うと怒られたことがある。どうしても腑に落ちなかったので、火憐姉さんに違いを聞いてみた。
火憐姉さんが言うには、守護霊は霊魂――――つまり、幽霊とか魂とかで、前世の自分や先祖あたりらしい。
そして、守り神(姉さんには比較するなら守護神の方が妥当じゃないかと言われた) は神様である、とのことだ。
正直言って、神か霊かの違いかと思った。まぁ、本当にそれだけのことなのだが。
ただ、霊と神とでは次元が違うらしい。守り神はホイホイと力を貸してもらえないらしいが、その分霊とは比べ物にならない程の力を持っている。
本題に戻ると、『白蛇様』は元蛇信仰の対象で、現僕の守り神、ということになる。
火憐姉さんの話を踏まえると、神様が簡単に僕と会話ができていいのかと思うのだけれど。それは、『白蛇様』が話しかけているのではなく、僕が“見える”ことと同じように“聞こえる”から……らしい。
さっきから、「らしい」だらけで申し訳ないが、諦めて欲しい。本当に伝聞したことだらけだからだ。
腕を掴まれた。
急だったから少しビックリしてしまった……。いけない、こんなことで狼狽えては先が怪しいぜ。
「テメェ、いい加減にしろよッ!」
長く回想を跨げば流せるかと思ったが、現実は甘くないようだった。
「すいません。僕、急いでいるので」
「それが通用するのは、話しかけられた直後のみだ」
手強いな。僕は目の前の冒頭部分で絡まれた不良っぽい人にどう対応するか悩んだ。
「いいか、よく聞け。僕は鬼外雷奈。アンタを倒す者の名前だ」
これが、鬼外雷奈との運命的ではない、されど、劇的で現実的な出会いだった。
まぁ、劇的になるのは出会ったあとの話になるのだけれど。まさに、演出の狂った可笑しな舞台を見せられた話だ。
それでもこの時、去り際に殴られたことは想像に固くないと思う。
この小説は日本の妖怪や神様に留まらず、欧米の悪魔や魔物、妖精なども登場します。
主人公は一応海君なのですが、裏主人公は海君の図書委員会の先輩です。彼女の人生が海くんを通じていろいろわかってくると思います。彼女にもいろいろ活躍させていきたいと思っているので頑張りたいです。