終わりの始まり
「清水…」
二人は以前から清水のことを知っていた。
「お前らに話があるんだけどね」
そう言うと清水はどすどすと病室に入ってきた。
「何のようですか」
そう言って忍は清水を睨む。
「そう怖い顔でこっち見んなよなー、ただ俺はこー見えて教育団体の一人だからお前らのこともっと知りたいなって思ってるだけなんだからさー」
ニコニコと笑っている清水に3人は言葉が出てこなかった。
「じゃー、さっそく喋る?お姉さんのこととか」
そんなところまで調べたのかと司は思い、焦りを感じる。
「…調べたんですか?」
「調べたって…なにを?」
この男、やはり何を考えているのかわからない。
そのこともあって双子はこと男が苦手だった。
「あー、もしかして…君たち家族のこと?」
「調べたのか…」
チッと舌打ちをして、忍はさらに清水を睨みつけた。
「清水さん、人のうちの事情を知るのは法律的にどうなんですか」
真剣な顔で言う悠里を清水はまじまじと見ていた。
「なんだー、忍に司。お前らガールフレンドとかいたのか、意外だな」
清水はこのとき、内心本当に驚いていた。
今まで誰とも関わろうとしなかった双子が他の人を仲間と見ている。しかもそれが女だったことに。
「あんたに関係ないだろ!」
シュバッ、と火をつけて清水はタバコを吸いはじめた。
さすがに病人の前だったので窓側に行き窓を開けて吸った。
「人前では敬語でって言ってんだろ、司。今日は言いたいことがあってきたんだから黙って聞けよな」
「さっさと言え」
タバコを吹き出すとタバコとは別の、ため息をはいた。
「そこのじょーちゃんの母親からだ。双子!お前らが犯した罪は思った以上に重い。だからな、もうじょーちゃんに会わないでほしいんだとよ」
やっと分かち合えた自分たち以外の人に出会ったというのに。
バカじゃないのかと言ってやりたかった、忍が口を開いた時だった。
「そんなの嫌よ!!」
そう言ったのは悠里だった。
「今まで外に出るな、友達と遊ぶなって散々言われてきた。そのおかげで友達は一人もいなかったわ。それは私のために言ってくれてることだからって我慢してたの。けど、この2人は…この2人だけはダメなの!友達だか……!!!!」
「悠里!!??」
一瞬のことだった。気づいたときには悠里が胸の辺りを抑え座っていたベッドの上から落ちて苦しそうに転げていた。
「大変だ!今すぐ先生を!」
清水はすぐに先生を呼びに病室を出た。
双子は動かなかった。というより、できなかった。
頭の中に流れるのは姉が苦しむ光景。
「悠里ちゃん!」
悠里の担当の先生が清水とともに病室に入ってきた。司と忍は病室から押し出されたが何もできない自分たちに腹が立ってまた中に入ろうとした。清水はただ二人を抑えていた。しかしいつまでもそんなことしていられないので清水は双子をかかえて違う部屋に持っていった。
「だせよ!!」
「うるせぇよ、お前らには他に話があんだから」
「いいからだせって!このままじゃ前みたいに…!悠里が死んじゃう!!」
――――俺、清水の二人への第一印象は面白い奴。何をしても動じないし人形のような、無表情の愛想のない奴らだった。そこから俺と双子の奇妙な関係が始まった。俺は週に五日、ほぼ毎日双子の家を訪れた。そのかいもあって初めは尋常じゃないほど嫌がっていた二人も慣れたのか、いつしか俺が家に来ても何もしなくなった。『しなくなった』というのは……いや、やめておこう。とにかくそれくらいやばかったんだ。確かに家族が自分たち以外いなくなるということは小さかった二人にとっては重過ぎるくらいのものだった。最初は事故だと思っていた。しかし、何かがおかしいと感じ、この双子について再び調査を行ったのだった。
そんな長い付き合いの清水は初めて人のために必死になっている二人をみた。
「あんたが調べたとおり俺たちのやったことの罪はでかい。それは一生償う。だから…だから…」
双子は初めて泣いた。それは座り込んで、あまりにもだらしなく、格好悪い泣き方だっただろう。
しかしそのとき二人にはわかったことがあった。
両親と姉が死んだとき、なぜか涙が出なかった。死んだ、大切な人がいなくなった、なのに泣けない。悲しみさえもなくなったのかと不思議で不思議でたまらなかったあの頃。
俺たちは、泣いていた。
たとえ涙が流れなかったとしても、俺たちはちゃんと泣いていたんだ。
ただただ、愛おしい人たちを想って……
そのあと、二人はすべてを話し警察に連れて行かれ、児童保護施設ですごすことになった。
心残りなんてない。でも、最後に悠里に会いたかった。
あの日から一週間後、悠里から手紙が届き、お互い手紙を送りあっていた。
そして約二ヵ月後、悠里からの返事の手紙が来なくなった。
忙しくて手紙を書く時間がと思い二人は返事が来なくても毎日手紙を書いては送った。
その三ヶ月後、悠里が死んだと連絡がきた。
葬式には行かなかった。
雨の中でひっそりと行われたらしい。
「またな」
葬式が終わってから数日して司と忍は花を墓の前に供えた。
きっと、またどこかで会えると思うと自然と笑顔になれる。
五年後。
「忍!今日は司君が来る日だって知ってるでしょ!ちょっとは片付けたらどうなの!?」
「うるせーな!お前がうるさいから昨日からずっと片付けてたんだろーが!」
「それでこれ!?あんたの部屋はごみ屋敷か!!」
大人っぽく成長した忍の隣には気が強くてきれいな顔立ちをした女の人がいた。
そのとき玄関のチャイムが鳴り、ほらーと言いながら彼女は玄関のほうに走っていった。
「いらしゃい!」
「はは、二人ともあいかわらずだね」
そう答えた優しそうな司の隣にはフワフワとした雰囲気の女の人だった。
その子は、お邪魔しますと丁寧に言った。
荷物を置くと、忍の彼女が
「じゃあ、みんなそろったことだし、私達は買い物にでも行ってくるわ」
「え、でも」
一緒に行こうかと言おうとした忍に司の彼女が
「私たちも二人で話したいことがあるんです、気にしないでください」
と、優しく、にこりと笑って言った。
二人が出て行くのを見送ると、司と忍は顔を見合わせてクスッと笑う。
「いい彼女じゃん」
「そっちもな」
今まで誰もいなかった二人の隣には自分たちのことを想ってくれる人が今はいて、それが当たり前になっている生活がとても幸せだ。
「そーいや、忍。清水さんが連絡よこせって怒ってたぞ」
「あいつは俺の親かっての。てか、司だって連絡してねーだろ」
「俺は週に一回してるけど?」
「うっわ、週一回もあのおじさんと何話すんだよ!」
二人とも笑いあった。今までとは違う、心のそこからの笑顔だった。
そして、どちらともなく空を見上げる。
今までの出来事とは似合わないくらいの青空だった。
ずっと二人だけの世界に閉じこもっていた俺たちを
『こんばんは』とか挨拶して、見つけ出してくれたのは一人の女の子だった。
そいつに会ってからは嫌なことの連発だった。
初めて自分たち以外の人に接して、初めて痛みや、喜びを感じた。
そして…、初めて人のために必死になった。
後悔なんてするわけがない。
一言でいうと、
俺たちにとって悠里はとても大切な存在だった。
今までも、そしてこれからも彼女の存在と思い出はずっと心の中に生き続けるんだ。




