第三者
初めまして。
水無月といいます。
自分は今までに小説を何作か書いたことがありますがそれはどれも趣味で書いていました。
気まぐれな性格なこともあり、これから投稿していく作品はジャンルがバラバラになっていくと思います。
なので作品にこめている自分の気持ちのテーマは各小説によって違うと思いますが、そのたびに感動とともに大切なこともみなさんに伝えていけたらいいと思います。
よろしくお願いします。
風通しがいいからか涼しくて心地がいい風が入ってくる。
少し消毒液のにおいが混ざっているがそれも今ではどうでもよくなっていた。
今日も、明日も、明後日も、この窓からの景色を眺めることになるのだろうか。
一人で死ぬことは怖いとは思わない。
ただひとつの心残りはある。
でももう気づいても遅いということはわかっていた。
「元気で」
そうして、静かな病院の静かな病室で少女はたった一人で静かに息をひきっとった。
「忍くん、司くん。本当に他に親戚はいないの?」
このとき、教育団体の清水雄太は何かこの二人にはあると感じていた。
「「いないよ。」」
金色に光る髪。
どこか陰のある紺色に色あせた瞳。
ただひとつ違うのは、前髪の分け方のみといってもいいのかもしれない。
「唯一僕らを育ててくれてた祖父は2年前に死んだし、他に親戚はいないよ。でも心配しないで、金だけは無駄にあるし僕ら二人でも暮らしていけるよ。」
忍と呼ばれた少年が答えた。
「しかしね、中学生の子供二人だけで生活させるわけにはいかないんだよ。大人として君たちをほっとくわけにはいかない。」
―――大人がそう言うたび、僕らはオトナが嫌いになる―――
「姉は祖父が亡くなってからずっと僕らを育ててくれたんだ。だから僕らは姉にはすごく感謝してるんだよね」
今度は、司と呼ばれた少年が答えた。
そんなときも二人はずっと手を繋いでいた。
それはまるで、二人と他人、他人と二人をあらわしている結晶のようだった。
「、、、ねぇ、忍。本当にやってよかったの?」
どうにか教育団体から逃げた二人は家に向かって誰もいない道を歩いていた。
「ああするしかなかったのは司もわかってるだろ。あれが姉ちゃんの願いだったんだよ。」
これからはいつだって二人は一緒。
二人で生きていくんだ。
それから二人は学校に行かなかった。
「わかってるだろ、司」
「わかってるよ、忍」
僕らは自分たちしか信じない
すべてのローンはすでに払い終わってた。
それにしても、二人だけで住むには広すぎるくらいだった。
「ただいま」
「お帰り、忍。今日はスパッゲッティだよー」
「おお、ありがとー」
「なにさ、あらたまって。食器は忍が洗ってよね」
「はいはい、そーいうと思ったよ」
二人には広すぎる部屋、二人には広すぎるテーブルで、僕らはこれから暮らしていく。
二人だけでいることを苦痛だと思わないのはきっとまだまだ僕らが大人じゃないからだと思う。
そんなこと一番わかってるのは僕らのはずだから。
だからこそ、二人でいなくちゃならないんだ。
そのころ、教育団体の清水はある事件について知るために一人パソコンに向かっていた。
「雄太、もうみんなで飲みに行くぞ、ほらコーヒー」
コーヒーを持って仕事仲間の前田和久が声をかけた。
高校からの仲のことがあってで清水の好きなコーヒーの苦さを知っている前田にコーヒーを入れてもらうのは清水の日課になっていた。
最初は嫌がってた前田も今ではなれたようだ。
「さんきゅ、わりーけど今日はパス。どーしても気になることがあんだよな」
「例の双子か?」
「ああ、俺にはどうしても双子のねーちゃんが病気のくせして自然死したとは思えねーんだよ」
いつにもまして真剣な顔つきの清水にに前田はため息をついた。
こうなった清水はもう何を言っても聞かないことを知っていたからだ。
「勝手にしろ。けどな、職場の仲間との付き合いも大事にしろよ」
「わかってるって」
前田が出て行って静かになった仕事場で清水はコーヒーを一口飲んでからまたキーボードを打ち始めた。
「ごちそうさまー」
大量にあったスパゲッティーをたいらげて司と忍はごろごろしていた。
不意に司が口を開いた。
「忍」
「ん?」
「ねーちゃん」
「…………」
「墓参りいこっか」
コートとマフラーと手袋をして一週間ぶりに外に出かけた。
一週間前はこんなに寒くはなかった。
[aika]と彫られた墓石の前には葬式のときに置いた花が枯れてもなおおかれたままだった。
花を変えてから手を合わせたが二人とも特に思うことはなかった。
ただ葬式のときと違うかったところは、
「あれ?」
「何?幽霊とかいって脅かそうとしても……」
「手紙が入ってる……」
そこにはまぎれもなく手紙が入っていた。
あて先も送り主も書いていない封筒をあけてみると[tukasa and sinobu]と書いてあった。
「これだけ?」
「これだけ……だな」
一応持って帰ることになり、またもと来た道を歩き出した。
途中にあるベンチに一つか二つ年上だと思われる女の子が座っていた。
こんな時間のに?と思いつつ前を横切ろうとすると女の子はこっちに気づいたのか笑顔で近づいてきた。
「こんばんは。」
「君誰?こんな時間に一人でいたら危ないんじゃない」
すると何が面白いのか無邪気に歯を見せて笑うと
「へーき、この近くだから。それより、私あなたたちとずっと喋りたかったんだよね」
と言ってきた。
「少なくとも僕らは君と喋りたいとは思ってないよ、早く帰りなよ」
思いっきりにらんだつもりだったけど彼女にはまったくつうじていないようだった。
「そりゃ私だってあなたたちみたいな失礼な歳下のガキと話したくなんかないけど」
「じゃあこっちくんなよ」
そのときだった。女の子の目がかわったのは。
変わったというより、まじだ、この目は本気だって感じ。
「私、見たのよ」
その言葉に司と忍は自分たちの心臓の動きが加速していくのがわかった。
「見たって……なにを?」
「あなたたちのお姉さんが亡くなる日よ、お姉さんと三人でいたでしょ?」
あの時、あの病室にいたのは司と忍、そして姉のあいかだけだった。
言葉が出てこないでいる二人を少女は何をするわけでもなくただじっと見ていた。
何分沈黙が続いただろう。
「私、そろそろ帰るね。見つかったらやばいし。またしゃべろ」
じゃあ、と一言言ってその子は走って行ってしまった。
「見られてた……のか?」
忍は呆然とつぶやいた。
「そーみたいだね」
双子は考え方も似てると言うけど、司のこういうところはわからない、と忍は心の中で思った。
自分にとって最悪なことが起こったときほど冷静になれる。それがいいことなのか、悪いことなのかはわからないけれど忍からすれば司に対しての疑問に思うところのひとつではあった。
「わからないって……あのことが見られてたってことなんだぞ!」
「わかってるよ。でも今あせったてどうすることもできないだろ」
「それはそうだけど……」
どうすることもできないってことは自分自身が一番よくわかってることだった。
「とりあえず帰ろう」
「そうだな、帰って考えればいい」
その日はちょうど初雪の日で、双子の気持ちとは裏腹に透きとおるように白い雪がはらはらと降っていた。
ジリリリリリリリリリリリリリリリ
ありえないほど大きいアラームの音とともに双子の一日は始まる。
「う…るせぇ……」
最初に起きるのはいつも司。
アラームをとめて眠い目をこすりながら洗面所に行き、顔を洗う。
何も変わらないいつもの日常。
「あれ…木曜…だっけ、学校をずっと休んでいたら日にちの感覚までなくなるのかもな」
なんて、ぶつぶつとつぶやきながら卵焼きを作っていたら階段のほうからどたどたと足音がきこえてきた。
「きたか」
バタン!とドアが乱暴に開けられたかと思うと忍が荒く息をしながら立っていた。
「司!今日は日曜か!?それとも水曜!?」
やっぱり、考えていることは同じだった。
「たぶん土曜。卵焼きとサラダ作ってるから一緒に食べよう、早く顔洗ってこいって」
「ん…」
何も変わらないいつもの日常。それでもこんな日が続いてほしいと考えているのは司と忍、二人だったりする。
何かあるより、危機感もない日常のほうが楽だ、ずっとそう考えてきた。
今日を除いてはだが
「どうするよ」
いつにもまして完璧な形をした卵焼きを口に運びながら忍は尋ねた。
「何が」
「昨日のことだよ」
「調べた。今日会いにいこ」
「は?早くね?」
「物事は早く終わらすのにこしたことはないだろ」
さすが、司だった。
「あいつって家どこらへんなんだろ、名前聞くの忘れたし、家さえわかればなー」
「……忍もよくしってるよ」
「え?俺、他人の家とか入ったことないぞ」
出かけようとしている司に忍はあわててついていった。
―――――歩いているとき、司がどんな顔をしていたか俺はよくわからなくて。早足になっている司についていくのが精一杯だった。
「ここ……」
ついたのは忍もよく知っているところだった。
風通しがよくて、消毒液のにおいが鼻につく。
「そー、ねーちゃんの病室」
「なんで?」
「調べたんだよ、そしたらここの病院の患者で」
体が重かった。あのときのことを思い出したくなかった。
「入ろう」
前まではたてつけが悪くて開けにくかった病室のドアも直されていて少しの力で開けることができた。
「あ。司君、忍君」
前にあったときと同じ笑顔で少女は笑った。
それはとても病気とは思えない笑顔だった。
「こんにちは」
この少女は知ってしまったんだ。
僕らの秘密を。




