事の始まりは
それでいい。私を使って。あなたの為に何度も。
人気のない夜道、浅葱色のダンダラ模様の羽織を着た男が結った髪を揺らしながら歩く。
左の腰に差している刀の柄が月に照らされて鈍く光る。
「副長様直々にご苦労様です。」
「・・・終わったか。」
男は足を止めるが振り返ることなく、声の主に返事をする。ハア、と溜息を吐くと声の主の少年はニコニコと笑いながら男に近寄る。
「うわー、結構汚れてますね。これは洗濯が大変そうですね。」
アハハと笑う無邪気な笑顔の頬にはベットリと血がついている。
「明日の洗濯当番はお前か?」ニヤリと男は笑う。
「まさか。もし僕が当番ならばそんな血だらけの着物、今ここでもう洗濯しないでいいようにしますよ。死人にはもういらないでしょう?」
少年は笑顔を絶やさない。「お前には可愛げっつーもんがないんだな。」
「そうですか?僕、土方さんよりは可愛いと思うんですけどね。」
「はっ、顔の話じゃねーよ。」男は少年の頭を軽く小突くいてまた歩き出す。
土方歳三。それが男の名だ。新選組の副局長であり、鬼の副長として恐れられた男。また、色男としても有名である。
「早く帰るぞ、総司。」「はぁい。」
あどけなく無邪気に笑う少年は沖田総司。可愛らしく穏やかそうな外見とは裏腹に天才剣士と言われ、新選組の中で1,2を争う腕前だ。
・・・・・とここまでは覚えている。その後、真っ直ぐ屯所へ帰って報告書を書いている時に疲労からかいつの間にか寝てしっまていた。いや、落ち着け。絶対に部屋の中に人は入れてねぇ。ましてやこの新選組の屯所に知らねぇ奴が入るはずがねぇ・・・。
夜が明けて日が昇る刻の屯所内、自室にいる鬼の副長土方歳三は冷静に尚且つ、柄にもなく焦っていた。
「・・・スー・・・スー・・・・・」
部屋の文机の隣で規則正しい寝息をたてて寝ている女は誰なのか。