005
「畜生! 時間がない! このまま直進だ。目標は敵母艦。コッペリア、自動操縦に切り替えるからな。他のコッペリア達と編隊を組んで一気に母艦を攻め込むぞ」
コッペリアの充電切れまであとわずか。そして凱の肉体と精神を切り離して操縦できる時間もあとわずか。本部に戻りコッペリアを充電させ、それから負荷のかかった凱の脳に休息を与えるため交代要員のパイロットの意識がコッペリアに登載されるはずだ。けれどそれが凱には我慢ならなかった。どうせ戦うのなら間島が手塩にかけて育てたこのコッペリア一号機でなければ嫌だった。過去何度か他の機種に搭乗してみたが、この一号機ほど同調性も戦闘能力も上がらなかった。ウマが合うとでも言うのか。どうしても一号機でなければ駄目なのだ。彼女と共に行きたかった。それが何故なのかはわからない。間島と自分とコッペリア。ガイノイドの誕生を共に喜び、共に訓練を重ね、喜びも苦しみも二人と一機、いや三人で共有してきたその想いがあるからなのか。
馬鹿な。と凱は独りごちる。それはまったく自分だけの思い込みだ。このガイノイドに感情などあるはずもなく。ただ単にその時の自分のコンディションによるものなのだと言い聞かせる。
「行くぞコッペリア」
コッペリアの瞳を通して宇宙空間を見る。先に発射されたコッペリアシリーズ四陣がようやく追いついた。進路変更の指令は各機に伝わっていたのか、麗しのガイノイド達は徐々に集中しはじめ編隊を組んで真っ直ぐに敵機群を突破しようとしている。一機のコッペリアに一人のパイロットの意識。人類の、地球の存亡を賭け、人間とガイノイドが今想いをひとつにして敵陣に飛びこんだ。
「こんの野郎ォォォー!」
推進力を最大に上げ凱の喉から野獣のような咆哮が迸る。
──はかせ!
コッペリアの人工音声が聞こえたその時、突然凱の視界が遮断された。意識が闇に突き落とされあっけなく気を失った。
「……っ痛……。皆大丈夫か? 怪我はないか? 被害状況を報告しろ」
間島はよろよろと起き上がった。凱との交信中に受けた本部の爆撃被害はかなりのものだ。通信系統に相当のダメージを受けたらしい。
発射直後の第五陣は爆撃をモロに喰らい、先陣と合流することなく、コッペリアも搭乗していたパイロットの精神も瞬時にして蒸発し塵へと消えた。各ブースに残る彼等の肉体は宿る魂の無い人形同然。いわゆる脳死状態となった彼等を呆然と眺めながら間島は成す術もなく歯噛みする。
眼鏡はどこかに吹っ飛び、こめかみに冷たいものがするりと流れる。汗かと思い拭った手が鮮血で染まる。見渡せばあちこちに負傷者や爆撃の犠牲となった無残な死体が転がっている。どこかで火災が発生しているのか焦げ臭さと共に悲鳴と怒号はさらに酷くなり、本部はさらに混乱を極め修羅場と化している。
「凱、聞こえるか? 応答しろ!」
インカムに向かって必死に叫ぶが応答はない。行き場の無い怒りに間島はそれを床に叩きつけたと同時にタイマーの音がする。はっとして腕時計を見る。時間だ。三十分が過ぎようとしている。第一陣が戻ってくる時間だ。間島は慌ててその場にいる技術者と交代のパイロット達をかき集め、各ブースに待機させ受け入れ準備を整える。技術者もパイロットも圧倒的に数が足りない。しかし素早くコッペリアに充電しパイロットを交代させなければならない。しっかりしろ。うろたえ自暴自棄になっている場合ではない。パイロットとコッペリア達は前線で戦っているのだ。間島は冷静さを取り戻し頭を振って凱の肉体が待つブースへ戻り、全身コードを繋がれた彼を確認する。息を整え気を落ち着け端末を操作しようとしたその時。
「玲……コッペリアが……」
聞こえるはずのない凱の声。コッペリアと共に戻ってくるはずの意識。間島はぎょっとしてナビシートに座る凱の肉体を凝視する。ビクビクと全身が小刻みに痙攣したかと思うと、両腕がゆっくりと動き始め、無数のプラグに繋がれたヘルメットを外しはじめた。




