004
大気圏を抜け宇宙空間で待ち受けるは蝗害のようにびっしりと視界を埋め尽くす、想像を絶する夥しい数の敵機。見下ろせば世界を舐め尽す劫火。地球表面は醜いケロイドのように焼け爛れ、紅蓮の炎は人類の文明と歴史を瞬時にして焼き払い、禍々しい黒煙が随所から立ち昇る。
「地獄だな」
コッペリアの視覚を通して観る映像に凱は思わず吐き捨てる。
「がい、じごくってなに?」
「この世の終わりってことさ」
「おわり……?」
「そうさ……っておいでなすった! コッペリア避けろ! すぐ反撃だ!」
敵機で埋め尽くされた空間の合間を縫って無数の光の束が飛来する。速度に対応しきれなかった他のコッペリアが複数体見る見る間に被弾し大破してゆく。大抵の熱線にも耐えうる強化ボディを一瞬で蒸発させるとは。想定外の強力な光線波だ。
コッペリアはボディに内蔵された銃器を取り出す。飛行し、光線波を見事に避けながら眼前に迫る敵機を巧みに撃ち抜いてゆく。
「よし! さすが百発百中のスナイパーだ!」
喜んだのもつかの間。撃ち落としても撃ち落としてもびくともしない敵機群。数に物を言わせ、こちらの攻撃がまったくの焼け石に水だ。凱とコッペリアが奮戦している間にも次々と味方は被弾し爆破・墜落してゆく。
「駄目だ……雑魚をいくらやっても限がない。狙うなら親玉だ」
「おやだま……?」
「母艦だよ、コッペリア。このウジャウジャいる戦闘機を吐き出している元凶。玲、至急母艦の位置を割り出してくれ!」
凱の思念がプラグを通して間島の許に届く。
「了解。それより凱、あと残り十分だ。第四陣が今発射された」
「全部で何部隊あるんだ?」
「五」
「それが全部殲滅させられる可能性も無きにしもあらず、だな」
「おいおい、何弱気な事言ってんだよ! しっかりしろ!」
「冗談だって。自虐的ネタですまん!」
「ったく空気読めないヤツだな。この状況でそれは洒落にならないって。よし、今位置情報を全コッペリアにインプットした。彼女達が自動的に母艦に向かって進路変更する」
「しんろへんこうかんりょうです」
「凱、充電切れの前に絶対に戻ってこいよ。無駄死にす……」
突如視界を素早く過った強烈な光線と共に間島の声がぷつりと切れた。光の束は前方を埋め尽くす敵機の後方からさらに連続して発射され、無数のコッペリアシリーズを瞬時に蒸発させながら光芒だけを残して高速で消えてゆく。おそらく今までで最大のエネルギー波の塊。
「コッペリア、あれの標的は?」
人工知能を有したガイノイドは即座に応える。
「99.9%のかくりつでぼうえいほんぶにまちがいありません」
「なんてこった! じゃ今のがモロ命中しちまったのかよ! おい、玲! 聞こえるか? 応答しろ!」
荒い雑音が凱の脳波に虚しく響く。嫌な予感が脳裏をよぎる。考えることは敵も同じ。雑魚は無視し、一気に防衛本部に直接攻撃を仕掛けてきたに違いない。
「玲、おい玲! 玲!」
応答なし。深い闇の深淵に似た不気味な静寂があるのみだ。
「がい……はかせはだいじょうぶ?」
「わからん。本部と通信不通じゃいったいどうなってるのか皆目見当がつかない。被弾したことによる一時的な通信不通なのか……それとも」
──今の一撃であっさりやられちまったのか? という言葉をぐつと飲み込んだ。
「がい、だいじょうぶ。もしほんぶがはかいされたなら、がいもここにはいないはず」
コッペリアの冷静な声が凱を納得させる。向こうに置いてきた凱の肉体と脳が粉砕されれば、コッペリア内に在る自身の意識も瞬時に消えてなくなるはずだ。
「いまのこうげきではかせ……やられたかもしれない……てき、はかせとほんぶうった……」
感情と抑揚の無い、コッペリアの唇から洩れる聴き慣れた合成音が心なしか小さく震えたような気がした。




