おまけのスマイル
家に戻ると、居間で義母が俺の帰りを待っていてくれた。
テレビにはバラエティ番組が映し出されていて、賑やかな笑い声が部屋に響き渡っている。
「あら、おかえりなさい。今日肉じゃが作り過ぎちゃって、うちから持ってきたのよ。ゆきなちゃん、もう食べちゃったから」
テレビの音量を少しだけしぼり、義母はよいしょと腰を上げる。
「お鍋に入ってるから、温めて食べてね。私は帰るから」
微笑む彼女に俺はお礼を言いつつ玄関まで見送った。義母の家は、ここから徒歩一分もかからないご近所さんなのだ。
靴を履き終えた時、そうそうと思い出したかのように義母は口を開く。
「ゆきなちゃん、今日は一段と動き回ったのか六時半には寝ちゃったわよ」
玄関の壁に掛かる時計を見ながら教えてくれた。時計は七時四十分を指している。早寝だな、ゆきな。風呂には入ったのか?
「それじゃあ、また明日ね。おやすみなさい」
ふっくらとした手を振りながら扉を閉める。
その手のひらに、小さく描かれたスマイリーに俺は気がついた。が、わざわざ引き止めるほどでもない。俺は一人、心のうちで微笑んだ。
ゆきなの顔を一目見ようか迷ったが、俺は先に風呂と晩飯を済ますことにした。後でゆっくり眺めに行こう。彼女はぐっすり夢の中だ。今は邪魔したくない。
上着を脱いで、そういえば明日クリーニングに出した上着を取りに行かなきゃなと考えつつ、風呂場へと向かう。
追い炊きボタンを押した後、ネクタイを外して一息ついた。
明日はちゃんと朝飯を用意しよう。
ゆきなの髪も可愛く結ってあげよう。
そうして、いっぱい笑いかけよう。
そう自分に約束をしながら。
そんな和やか気分に水を差したのは、鼻をつくツンとした臭い。
出所は俺の二日間履き続けた靴下のようだ。営業マンはそれほどまでに歩き回り、足の裏に汗をかく。
さっさと脱ぎ捨てて洗濯機へ放り込もう。そう思って右足を脱ぐと、俺は慌てて左足も脱いだ。
改めて凝視すると、不覚にも俺は一人脱衣所で声を上げて笑ってしまった。そうして、次の瞬間には踵を返していた。向かうはゆきなが眠る寝室だ。
今は何よりもまず、ゆきなの顔を見たくなったから。
階段を駆け上がる俺の足の先っちょで、二つのスマイリーが笑っていた。
了




