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親指スマイル  作者: コウ
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笑顔の意味-2

 笑顔が笑顔を呼ぶ。

 いや、スマイリーがスマイリーを呼ぶ。そういう仕組みだったのか。

 東部長の右手のひらには、大きくスマイリーフェイスが描かれていた。

「君もこれ知ってるの?」

「もちろんです! 今子供たちに人気の『ラッキー・スマイル』ですよね? 私も今朝娘に――」

 急いで親指を突き立てた。はたから見れば、東部長、グッジョブ! と粋な言葉をかけているようだ。

 東部長は声を上げて笑った。そのことに、俺はまたもや驚いた。

「私はね、娘の子供にやられましてね。最初はそりゃあ叱ったものですよ。何をするんだとね」

 そっちの方がしっくりくるなと俺は頷いていた。失礼極まりない。

「それでも、何度消しても描いてくるんでね。だから、一体おまえはどんなしつけをしているんだと娘に問いただしたところ――」


(お父さん、あの子はお父さんの笑顔が見たいのよ。いっつもむっつりしてるんだもの)

(笑顔のおまじないしてあげないと、幸せになれないからって心配してるわよ)


 どこの子供も同じなんだな。俺も自然と笑顔になる。

「今日のは特大ですがね」東部長はそう言って右手のひらを眺めた。「効果は絶大だ」

「それに引き換え私のスマイリーは控えめですけど」

 俺が笑って言うと、いやいやと首を振りながら彼は優しく否定した。

「孫が聞いてきたんだよ。『おじいちゃんの指はどれ?』ってね。ほら、指を家族に例えて言うじゃないか」

 お父さん指、お母さん指、お兄ちゃん、お姉ちゃん、赤ちゃん。親指は……

「だから君の場合は親指。だろう?」


 解読困難な暗号を解いたような気分を味わった。そういうことか。

 親指にスマイリー。

 パパ、笑って。

 ゆきなの気持ちを閉じ込めた愛のメッセージ。


 東部長は、あの時とは比べようにならないほど人が変わっていた。例の名刺ビリビリ事件のことを深く詫びてもきた。そして、常に笑顔だった。

 気づけば二時間も経っていた。大半は子供のこと――東部長は孫のこと――だったが。

 俺は打ち解けてきた彼に向かって、気になっていたことを訊ねる。

「あの時はやはり虫の居所が悪かったのでしょうか?」

 他の人間にも、ああいった――ビリビリッと――やったことはあるのだろうか。

 彼はうん、というよりも……と、俺に視線を投げて口の端を持ち上げた。

「君、私のことを見た目で判断していたよね。もしくは、誰かから私のことを聞いたのかもしれないが」

 俺は思わず、目をぱちぱち。見抜かれていたのか?

「怯えているような、軽蔑しているような。そこでつい、ね。そういう気持ちは相手に伝わるものだ。気をつけたほうがいい」

 頭を下げるしか道はなかった。申し訳なさと恥ずかしさ、そして指摘してくれたことへの感謝。

 まぁ、もともと意地悪な性格なのも確かだがと、彼は笑って付け足してくれた。




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