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親指スマイル  作者: コウ
12/16

二つの再会-3

「ママ、早くおばあちゃん家に行かなくちゃ」

 けいくんの言葉で俺は我に返った。そうねと頷きながら、彼女はこちらを伺うように微笑んだ。

「あの……本当に、色々とすみませんでした」

 菓子折りを差し出して頭を軽く下げてくる。俺はかぶりを振った。

「いえいえ、なんかこっちこそすみません。重い話を初対面の方にしてしまって」

 でも。俺は続ける。

「さっきの言葉がちょっと嬉しかったんです。不謹慎ですみません」

 恋愛は一人でしているものじゃない。誰かがそう言ったことを思い出した。二人のことは第三者に相談したところで、結局解決するのは当事者である自分たちなんだと。

 だから、嬉しいことも悲しいことも、二人で分かち合ってきたんだ。

 ゆきなの成長を嬉しく思うのは俺だけじゃない。離れて辛いのは俺だけじゃない。妻だって、今でも俺と一緒に分かち合っている。そう思えたから。

「やっぱりこのマークって、『ラッキー・スマイル』っていうくらいだから運でも呼ぶんですかね」

 親指を立てて笑うと、けいくんがずいと前に顔を突き出してきた。くちびるも突き出ている。

「違うよおじちゃん。そのスマイリーはね、笑顔になる『おまじない』なんだ」

 え? と訊ね返すと、けいくんは大学教授さながら俺の目の前にでんと立ち、講義を続けた。

「笑顔が『しあわせ』を運ぶんだもん。そう歌ってるじゃん」

 そう言って、けいくんはご丁寧にもう一度頭から歌ってくれた。


 ♪♪

 ラッキー・スマイル

 ラッキー・スマイル

 みんなの笑顔はラッキー・スマイル

 しあわせ運ぶよラッキー・スマイル

 どんなにつらく、どんなにくやしく

 どんなにかなしいときだって

 みんながスマイルふりまけば

 世界はにっこり、ハッピー・スマイル

 ラッキー・スマイル

 ラッキー・スマイル

 元気になれるよラッキー・スマイル

 ♪♪


 途中から母親との賑やかな合唱に変わっていた。

 そういえば。俺は今更ながらにあの慌しかった朝の風景を思い出す。

 今朝のゆきな、妙に嬉しそうだったな。あれはこの〝おまじない〟を描いていたからか?

 そんなあいつの気持ちにも気づかず俺は……


 朝飯の用意も出来なかった。

 ゆきなの髪を結んであげることも出来なかった。

 別れ際、もっとゆきなと話せば良かった。

 そうだよ、妻の心配はどんぴしゃり、的中ばかりじゃないか。


 当然ながら、シングルパパにも子育ての限度がある。シングルママも同様かもしれないが。

 俺が至らないばかりに、ゆきなにはいつも寂しい思いや辛い思いをさせている。だが本人はいつも笑って楽しそうにして。そういうところ、ゆきなは妻似なのだろう。

 あの小さな体には色んな想いを抱いているはずなのに。それなのに。


(大好きな人、お父さんやお母さんたちの身体に歌を歌いながらスマイルマークを書くのが流行り出して)


 子供は知っているのだろうか。

 親は時に、子供の優しい想いに触れて胸を熱くすることがあるんだと。


「ありがとう、けいくん」

 言いながら俺は、軽くなった腰を上げた。約束の時間まであと五分。行かなくては。

「おじちゃんも笑顔をふりまいてくるよ」

 そう笑った俺の顔がどんなだったかわからない。ただ、そんな俺に返してくる親子の笑顔がとても眩しかった。


 公園の出入り口で俺たちは別れ、それぞれ反対方向へ向かって歩き出す。

 再び、けいくんの歌声が背中に届いた。思わず顔がほころぶ。

 みんながスマイルふりまけば、か。確かに、笑顔から笑顔が生まれるのだろう。だからそう、俺が笑顔でなければ。

 ゆきな、見ててくれよ。俺は親指を手の内で握り締めて呟いた。

 あの東部長に、とびきりの笑顔を見せてやる。




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