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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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ガチサバ女騎士系令嬢に喧嘩を売ってしまった自サバ女の話

作者: 悠崎(あさ)
掲載日:2026/10/21

 我らが王立学園に存在する問題児、といえば全校生徒の99.9%は間違いなくアルマ・リックマン男爵令嬢を思い浮かべるだろう。


 王立学園の騎乗武芸課程――通称・騎士課程に編入してきた、数少ない騎士志望の女子生徒の一人である。

 だがしかし彼女は男漁りにでも来ているのか? と言わんばかりに男子生徒に積極的に絡みに行く、下品に言えば娼婦のような女。それを咎められればさも当然のように「わたしってサバサバしているからさー、女より男といる方が話が合うし気楽なんだよね」と言い訳する恥知らず。


 無論、僅かながら存在する同じ騎乗武芸課程の女子生徒はもちろん、男子生徒からも白い目で見られている。なんなら他課程在籍の生徒からも。それに気がついていないのはアルマ本人だけ。そんなアルマは、とある婚約者持ちの男子生徒に目をつけ、昼休みで賑わう学園の食堂に来ていた。その男子生徒の婚約者は宮廷礼法課程――通称・淑女課程在籍だという。淑女課程の女子生徒などどうせ皆押しに弱く、ちょっと言いくるめればこちらが言い負かすことができる。アルマは騎士志望にも関わらず、相手をとてもとても舐め腐っていた。


   ■


 王立学園の食堂のとあるテーブルに、見目麗しい男女が二人、並んで座っている。同年代から見るとやや小柄な背丈に、ふわふわとしたやや癖っ毛気味のプラチナブロンドと翡翠色に輝く瞳を携えた、童話に出てくる王子の如き美男子がウィルフレッド・ストックウィン伯爵令息。傍らの女は、カーラ・ブリントン辺境伯令嬢と言った。ウィルフレッドとは対照的に、カーラはまるで令息と勘違いされるほど長身で、ウィルフレッドよりも5センチほど背丈が大きい。ヒールを履けばさらにウィルフレッドを小さく見せるだろう。カーラは彫りの深い顔立ちで、切れ長の瞳に薄い唇、つんと高い鼻と、そこらの男よりも美男子らしい容貌をしていた。そんな彼女が学園の女子制服を身にまとえば、さながら歌劇の男役女優のよう。華やかさと勇ましさを兼ね備えた、唯一無二の存在感を放っていた。


 そんな近づくだけでも相当のプレッシャーがかかりそうな二人に無防備にも近づく影があった。前述の恥知らず娼婦もどき騎士志望自サバ女、アルマである。


「ねえウィルフレッド〜、昼食、一緒に食べてもいい?」

 アルマが言い放った瞬間、食堂の空気が張り詰める。「何しやがってんだあの馬鹿」「オイオイオイ死ぬわアイツ」「あの珍獣を山に放てっ」と、アルマをボロクソに言う囁きがテーブルの間を飛び交う。幸か不幸か渦中の三人にはその声が届いていない。他のテーブルでは面白くなってきたな……と賭博師のように目をギラつかせる将来が不安視されるタイプのアホもいた。


「ウィル、彼女は誰だ?」

「ああ、カーラは知らないか。一応紹介するね。彼女はアルマ・リックマン男爵令嬢だよ。同じ騎乗武芸課程の生徒だよ。まあ、教室は違うけどね」

「なるほど……騎乗武芸課程か……」

 ウィルフレッドのやや棘を含んだ言い方にアルマは気がつかず、どこか得意げな表情をしている。

「もう、ウィルフレッドったら〜。わたし、結構サバサバしている方なんで。男の人とよく話が合うから、彼にも合同演習中とか、よくお世話になっているんですよ〜」

「アルマ・リックマン男爵令嬢か。はじめまして。私は宮廷礼法課程のカーラ・ブリントン、辺境伯家の者だ。どうやら我が婚約者殿とは同じ課程で。世話になっているとは初めて聞いたな。ウィルが迷惑をかけたりはしていないか?」

「えっ? 淑女課程?」

 アルマの素っ頓狂な声が響く。目の前の女子生徒はどう見ても騎乗武芸課程にいそうな見た目とどこか厳つい雰囲気の残る言葉遣いだが、言われてみれば騎乗武芸課程でその姿を見たことは一度もない。それなのに宮廷礼法課程? 淑女課程? ていうか、ウィルの婚約者、男みたいじゃない? 性別逆では?

予想外の流れに混乱しているアルマは、ついポロッと

「な、なんであなたみたいな人が淑女課程なんですか?」

 と、言葉をこぼしてしまった。


 カーラは思わずきょとんとした瞳でアルマを見つめた。琥珀色の視線が、アルマを強く刺す。盗み聞きをしている周囲は、ていうか辺境伯家の令嬢に喧嘩売ってることに早よ気づけやボケ、もう終わりだねリックマン男爵家、と声を顰め聞こえないギリギリを狙ってヤジを飛ばしている。もはやチキンレースだ。


「そうか……やはり私みたいなのは淑女らしくないか……」

 カーラはふう、と息を吐くと、切長の瞳を伏せた。些細な所作ですら絵になるその光景に、女子生徒はカーラ様は何をしてもお美しいわね……! と、きゃあきゃあ感嘆の声を上げる。傍らのウィルフレッドは、口を挟まずとも、手にした茶器が割れそうな勢いだ。ウィルフレッドはアルマのあからさまな色仕掛けに屈する様な軟弱な男ではなかった。カーラ溺愛のガチ勢だが、アルマは知らない。

「アルマ嬢も騎乗武芸課程にいるのなら、私みたいにならないように気をつけた方がいい」

「……え?」

 カーラは自らの太ももに視線を落とし、自嘲気味に語り始めた。



「私はね、辺境伯家、それも騎士団を要するブリントン家に生まれて、父や兄に倣い騎士になるのが当然だと思っていた。幼い頃から、貴族令嬢としての作法より、騎士としての鍛錬を中心に励んでいた。ましてや母を早くに亡くしてしまって、男家族しかいないから、なんというか、その、女の子らしいものにはあまり縁がなくてな……。気がつけば他の令嬢に男と勘違いされてしまったりすることもあったな……。そんなだから、婚約にも縁がないと思っていたが、家の事情で婚約を結んだウィルは私のことを受け入れてくれた。私も、騎士志望のウィルと肩を並べて戦える女騎士になるため、二人で鍛錬に励んでいたんだ。そんな折、ありがたいことに、騎士見習いとして王女殿下の護衛の一員に加えていただいたんだがな――」


 カーラの目に、僅かに虚ろが混じる。


「横領を働いて懲戒された元官僚が、逆恨みから王女殿下一行を襲撃したんだ。王家に不満を持つ平民たちも雇ってな。幸いにも王女殿下には傷一つつくことはなかったが、私が王女殿下を庇った際に、件の元官僚に足を剣で刺されてしまって……。あれは死ぬほど痛かった。元官僚は『王家死すべし!』と叫びながら何度も私の足を刺してきたからな。軽装備だったのが災いした。私はその時、生まれて初めて死を覚悟したよ。左足の筋肉がずたずたに引き裂かれ、感覚が失われていく。あの恐怖を上回る経験は、きっとこの先もそうそうないだろう。王女殿下の御身はもちろん、私の命もなんとか守れたが、左足はそうもいかなくてな。王家に手配していただいた腕のいい医師たちの治療のおかげで今でこそ歩けるぐらいには回復したが、騎士としては生きていけなくなった。

 ――私は生まれて初めて絶望したよ。騎士として生きていくことしか考えていなかったのに、突然騎士としての道を木っ端微塵に打ち砕かれて断たれてしまったんだ。当然、死ぬことだって考えた。だけどそんな私を、家族は勿論、ウィルも見捨てずに支えてくれた。騎士でなくとも生きていく道はある、と諭してくれた。

 ……恥ずかしいことに私は座学があまり得意ではなくてな。学園には騎乗武芸課程に推薦で入ることが決まっていたのに、特例で宮廷礼法課程に変更させてもらったが、そちらの勉強についていくのは死ぬほど大変だったな。慣れない礼儀作法に、刺繍やら詩歌やら……。

 最初は正直言って、かつての騎士としての鍛錬より苦痛だったよ。けれど、勉強をすればするほど、刺繍で細かい模様を縫えた時は“自分でもやればできる”って思えた。先生から詩歌を褒められた時は……本当に嬉しかった。こんな私でもまだやれることはいっぱいあるって……。最近は異国語の本を少しずつ翻訳して読む課題をしている。読み書きできる言語が増えていくというのも面白いものだよ。

 私は学級の中じゃ落ちこぼれだけど、皆に助けてもらってるところだ。今だって昔の口調で話してしまったから、また礼儀作法のやり直しだな……。でも、いつかウィルに相応しい淑女になれるように努力しているところさ……」


 カーラの長い長い身の上話が終わると、聞き入っていた周囲の生徒たちは、こらえきれずに涙を流し始めた。

「カーラ様ぁ……! 貴女の思い、胸に響きましたわ……!」

「カーラ様が最高の淑女になれるよう、わたくし達も僭越ながら手助けさせていただきます!」

「やはりお二人の愛は本物ッ……! 後世に語り継ぐべきですわーッ!」

「ひぐっ……! ウィルフレッド……! やはり貴方は男の中の男だ……! 俺は貴方を見習わせていただく……!」

「む……! 無性に我が婚約者殿に会って抱きしめたくなってきた! そうと決まれば早速会いにいくか!」

「おい午後の授業サボろうとしてる馬鹿いるぞ」


 ウィルフレッドはカーラにふわりと笑みを浮かべる。

「ね、カーラ。君が騎士じゃなくても見捨てる人はいないし、失望されちゃいないだろう?」

 二人は互いの手を握り合う。触れ合う肌にお互いの体温が伝わりあう。カーラはその熱を自覚した途端、年頃の少女らしく、頬は薔薇のように色づいた。

「ありがとう、ウィル……。まだ淑女には遠いが、必ずウィルに相応しい淑女になるから、少し待っててくれないか?」

「もちろん。僕はいつだって君だけを愛してるよ」

 ウィルがカーラの頬に口づけを落とす。きゃー! と顔を赤らめ騒ぐ令嬢令息達。貴族学園の食堂は二人を讃える声で騒がしくも賑やかだ。


 一方すでに存在を忘れ去られていたアルマはこっそり逃げ出そうとした。だが、背後を風紀委員である伯爵令嬢に肩を掴まれる。

「最近学園であなたが風紀を乱しているって話、心当たりがないとは言わせないわよ?」

 そう問い詰められ、逃げ場をなくしたアルマはそのまま大人しく生徒指導室へと連行されていった。




 その後アルマは実家から勘当された挙句学園を退学させられ、とある貴族の後妻として嫁がされていったが、もはや誰も気にかける者はいなかった。

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