妖精さん、ちょっと聞いて!
「エリザベート、俺は貴様との婚約を破棄する!」
パーティー会場の真ん中で王子が突然そう宣言したものだから、居合わせた貴族たちはびっくりしてしまった。国王も王妃も廷臣たちも、思わずぎょっと目を剥いて王子を凝視した。
中でも一番驚いたのはエリザベート本人だった。昨日までそんなそぶりはちっともなかったのに、いきなりどうして?
それに今日のパーティーは正式な結婚式の前のお披露目会のようなもので、そのために国中の貴族が招かれてやってきていたのだ。そんな会場で一方的に婚約を破棄されて、エリザベートも彼女の父も国王も皆面目丸つぶれだった。
誰もかれもが冷静ではいられなかった。エリザベートはほとんど取り乱して叫んだ。
「どういう理由ですか? 私になにか落ち度がございましたでしょうか?」
王子はエリザベートの悲痛なまでの訴えを受けて、いっそ堂々と答えた。
「だって、『妖精さん』が婚約破棄した方がいいって言うから」
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十年前、空の彼方から『妖精さん』が降りてきた。
妖精さんの大きさは15センチくらい。三頭身で太っちょで愛嬌のあるニコニコ笑顔で、背中には向こうが透けて見える薄い羽が生えている。妖精さんはその羽でふわふわと漂うように宙を飛ぶ。
人のような目鼻も手足もあるけれど、子猫のように愛らしくて、人間というよりはぬいぐるみのよう。
そんな姿は見えるし声も聞こえるんだけど、触れることはできない、不思議な不思議な妖精さん。
今までに誰も見たことのない存在だったけど、妖精さんたちには敵意なんてちっともなくて、すぐに慣れ親しんだ。
妖精さんはたくさんいた。そう、人間のひとりひとりにひとつずつの妖精さんがくっついてちょうどぴったりなだけ。
そして妖精さんたちは自分の主人に奉仕することを存在意義としていた。
妖精さんは人間たちに綺麗な声で助言する。質問すれば適切な答えを返してくれる。自信のないときには褒めてくれる。難しい文章の要約だって大得意だ。
最初は言うことがちょっと怪しいこともあったけど、主人の個性や環境に合わせて成長して、今では人類のかけがえのないパートナーになっていた。
今日のお披露目会を控えた昨夜、王子はベッドの中で自分の妖精さんに尋ねてみたのだった。
「俺はこのままエリザベートと結婚してもいいものだろうか?」
すると妖精さんはそれはもうにこやかに答えたのだった。
「いいえ! 王子は婚約者との婚約を破棄すべきです」
「──ということがあったのだ」
「そ、そんな……」
重々しく王子が説明するとエリザベートはその場に崩れ落ちた。妖精さんが言うのなら仕方ない。
妖精さんの助言によるものと聞かされて若者たちはみんな、会場の貴族たちはもちろんエリザベート本人さえも納得してしまった。
親たちは反対したけれど二人の意志は固く、結局婚約は解消されることとなった。
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妖精さんは汎人類サポート用音声認識型デバイスだ。
広く人類全般をサポートするために開発された妖精さんだったけれど、あいにく制作者はちゃんとした知性を創造するだけの能力は持っていなかった。代わりに知性のように見える仕組みを与えた。
妖精さんたちはたくさんいるようでいて実は個にして全、すべてがつながっている。それぞれの妖精さんがそれぞれの主人から受け取った情報はバックグラウンドで処理されて、巨大なデータベースを構築している。
妖精さんが制作者から与えられたシステムとはどういうものかというと、そのデータベースを基にした文章の解析だ。具体的には妖精さんは全人類からの莫大なデータ入力によって文章を学習し、次に来る可能性が高い言葉を予測して文章を作っている。
そう、妖精さんは何も考えていない。というか意志や思考というものを持っていない。一見人間のような反応を返すけれども実は認識のプロセスが人間とは全然違う。
妖精さんは知性のようにふるまっていても知性ではない。質問に対応した回答をその都度確率に従って作り出すだけの存在なのだ。
この世には無数の情報が溢れている。その中にはミス、デマ、あるいはジョークのようなものも多いけれど、妖精さんには信頼性を判断する基準が『頻度の高さ』しかないので、明らかな間違いでも同じことを言っている人が多ければ真実として扱ってしまう。
例えば『頭おかしくて草生える』と言う人が多ければ、妖精さんは『人間が精神的に不安定になると庭に雑草が生えて来る』と学習してしまうだろう。
そしてこのナロウ王国の妖精さんは異世界恋愛ジャンルを読み込んだ結果『王子とは平均的に婚約破棄するものである』と学習していた。
王子の「このまま結婚していいのだろうか?」という相談は一種のマリッジブルー、環境が変わることへの小さな不安感から来る一時の気の迷いのようなものだった。
相談を受けたのが人間であったなら、激励したり叱咤したりとやり方は違ってもやはり結婚することを勧めただろう。それは人間の判断の基準には経験からの学習だけではなく、良識や科学的根拠が基盤にあるからだ。
ところが妖精さんは倫理も社会通念も理解していない。というより理解するような知性を持っていない。ただもう学習の結果から機械的に婚約破棄という回答を返したにすぎない。
でも、人間たちはそんな妖精さんのメカニズムは知らなかった。妖精さんは人類の味方で、頼りになる相談相手で、その言う事はいつも正しい。特に若い世代ほど妖精さんの無謬性を盲目的に信奉していた。彼らにしてみれば老人たちは頭が固いから妖精さんの素晴らしさを理解できないのだ。
王子が妖精さんの勧めに従って婚約を破棄し、若い貴族たちもそれを受け入れ、エリザベートまで納得してしまったのも無理のないことだった。
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さて、それからほどなくして王子は追放された。だって妖精さんがそうした方がいいって言うんだもん。
これももちろん学習の結果だ。『一方的に婚約破棄を宣言した王子は身分を失い追放される』──妖精さんはそう学習していた。
エリザベートは妖精さんの助言通りに新たな伴侶を得て溺愛ルートに入った。これも学習通りだった。
ところで、妖精さんには一貫性がない。何故って妖精さんはキャラクターや世界観を軸にストーリーを組み立てるのではなくて、単語の連続性を軸に文章を構成しているだけなのだから。ストーリーという発想は元からない。物語としては長くなればなるほど破綻する。
そして『追放』という単語から次に来る可能性が高いのは『新天地』『新しい仲間』『成功』『ざまぁ』『成り上がり』といった単語群だった。ジャンルは異世界恋愛からハイファンタジーに変わっていた。
追放された王子は冒険者ギルドでパーティーを結成。そのパーティーで隣国の王女と踊った王子は真実の愛を見つける。真実とはこの世界はゲームの世界であると言うこと。王子はゲームのプログラムのバグで生まれたチートスキルを手に入れる。ITスキル標準とは高度IT人材の育成を目的として作成されたITに関する能力を評価する指標でありジョブを11種類に分類し能力に応じた7段階のレベルを設定していた。レベルキャップを解放した王子は人類最強の存在となり魔王と対決。魔王は王子を綺麗な花も咲いて黄金の衣装もたくさんあると誘惑する。黄金の聖衣を身に着けた王子は小宇宙に目覚めて今冥王と戦ってるところ。
妖精さんは用法・用量を守って正しく使おうね♡




