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8 break time1-2

艶やかな黒髪と長く尖った耳が靡く。


「私はリーシャ。リーシャ・イェルマック。今から500年前、教会の刃によって歴史から抹消されたルメリア王国の辺境に存在した大ダンジョンに挑んだ冒険者の1人よ。」


にわかには信じられないが、彼女の眼差しには嘘偽りがない。


「レイチェル。もう分かると思うけど、交通事故で死んだアナタを勝手に生き返らせたのは、他でもない私の指示よ。勝手なことをしてごめんなさい。」

「……やっぱり死んでいたんですね、私。」

行方不明になっているなら、今頃は誰かが私を探し回っているはずだ。

世間は完全に死亡を確認して、どこかしらでシスナ達が遺体をすり替えたかして生き返らせたのだろう。


「あの写真も確かに本物。でも顔だけしか見せていない。アナタのミゾオチから下は、完全に潰れてなくなっていた。即死だったの。」


目の前のクレアと繋がれている量子コンピューターを見れば、おのずと答えは出て来る。

「判ると思うけど、ここもダンジョンよ。でも安心して、完全にクレアの支配下にあるから防衛装置や魔物の類も出ない。」

「その力で蘇生して、今の私の姿になった……と。」

「そういうこと。ギリギリ敷地内で死んだから、アナタの意識をクレアが拾ってくれたの。ただ…補填されて生まれ変わった器はシトリンのモノみたいね。」


ようやく腑に落ちて私は自分の体を受け入れることにした。

どちらにせよ、前より美人だ。仕事は危険で妙なモノだが、整形費用を考えれば儲けもの。


「ダンジョンで死んだ時、妙な裏世界に行ったでしょう?」

「はい。あれはコンピューターの電脳世界で、このペンダントが繋ぎとめていたんですよね?」

マザーは頷いた。


「そうよ。そのペンダントは緊急用のバックアップストレージ。アナタの意識情報とクレアのダンジョンボスの権能の一部が入ってる。最も、ダンジョン内でしか使えないけど。」


「あの世界で見た、黒いモヤみたいなのは…」

「有史以前、まだ保存されている古い人の魂ね。」


あのアゾフカとかいう自立人形の知識が入って来た辺りで、なんとなく察しはついていた。


「機能不全のダンジョンで死ねば、意識や記憶が欠落して取り込まれるの。防衛装置として再召喚されて、もう一度死ねば更に崩れ行く。画像をダウンロードしてはアップロードし続け、画質が劣化していく様にね。」


何度も死んで正気を失っていくなんてダークファンタジーではよくある話だ。


「防衛装置の召喚機能を乗っ取って、そのダンジョン内では再召喚リスポーン出来る……。」

岩の中から出て来たアゾフカと同じ様に、私も岩の中から現実に戻って来た。

「そういうこと。よくできた"転生システム"でしょ?」


シスナが電脳世界で負けるなと言ったのは、自分自身のデータが破損すると記憶を欠落させてしまうからだろう。

やっていることはハッキング/クラッキングと同一。


だが、問題点がないわけではない。ひとたび入り込めば、否が応にも彼らの破損したデータを頭の中に叩きこんでしまう。

知識は増えるが、自分の中に別人が入って来る感覚がする。何度も続けたら、元の自分が誰だったか分からなくなってしまいそうで怖い。



このペンダントの力には、頼らないに越したことはないだろう……。



私は少し俯いた後に、マザーを見た。


「ダンジョンコアを……量子コンピューターを集めてどうするつもりなんですか?」


「勿論、人を生き返らせる為よ。」


マザーは即答で答えた。

「誰を?」

「この子の父親。私が最も尊敬している人よ。」

「アナトリー……と言う人ですか。」

「そうよ。もう無理かもしれないけど……確率がほんの数%でもあるなら私は諦めないわ。」

「どんな人だったんですか?」


「知略にも武勇にも優れた大英雄よ。街を救い、大国の侵略を跳ねのけ、始めて大ダンジョンを破壊した、"歴史から抹消された大賢者"……」


「何のために?」

「勿論この子の為。そして私の贖罪の為。彼らを死なせた原因を作ったのは、他でもない私だもの。」


彼女は大きく息を吸い込んで、振り返って私達を見た。

「以上よ。納得出来たなら、これからも回収を手伝って頂戴。一般人に輪廻転生装置がバレるのも健全とは言い難いもの。生活費も工面するし、報酬も出すわ。」

「判りました。」

「もう行っていいわ。」

私達はその場を去ろうとする。


「レイチェル。」

「はい。」

「私のこと、まだ恨んでる?」

500年も過去に縛られるほど、彼女には根深いことなのだろう。

でも、私は別人だ。合衆国に生まれた、国も言語も人種も時代も違う、ただの同姓同名で、別人の体で復活させられただけの一般人でしかない。


「…分かりません。体は知り合いでしょうけど、中身の私は別人ですから。」


私は正直に答えて、ミランダと共に部屋を出た。マザーは何も言わず、ただ私を見送った。



ミランダは私を見て言う。

「マザー、結構正直で良い人だったね。私ちょっとロマンチックで感動しちゃたかも。」

「……どうかな。」

話した理由が懺悔めいたモノであったのは間違いなさそうだ。人間的にはいい人ではある。


それを差し置いても、常備している武装はテロリストの中でも上澄みの中の上澄み。それもギャングや敵対国の援助が一切ない、独立している組織でだ。

公的機関に警戒されてない以上、初手からかなりの重犯罪が出来る。

なるべく一般人に迷惑をかけないよう心掛けているだろうが、シスナの態度を見るに、彼女の犯罪の教唆には一切の躊躇いがない。



その気になれば恐らく手段を厭わないタイプの人だ。正気で理知的で計画的であり故意犯であり確信犯。


腹の底まで見えない、最も恐ろしい人だ。



「そう?」

「500年前の人を生き返らせようなんて、悪役ヴィランのやることだと思う。」

「確かに。」

「…でも、私は続けようと思う。秘密を知って、逃げられるとも思わないし……それに……。」

「それに?」


「マザーの言っていた名前の運命、私にもただの同姓同名の偶然には思えないから。」

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