7 break time1-1
量子コンピューターを教団本部に持ち帰り、私達はマザーと会合する。
彼女は穏やかな笑顔で迎えてくれた。
「滞りなく、よく帰ってきましたね。」
「レイチェルには期待できそうよ。」
「そうみたいね。たった一回の出動で顔つきがもう別人だもの。」
私は真っ直ぐ彼女を見て問う。
「ここがカルト組織というか秘密結社で、ダンジョンが本物なのも分かりました。太古の超技術の遺物だというのも。」
「えぇ。」
「ここにいる皆知ってるんですか?」
「勿論。挑めば嫌でもデータベースが頭の中に入るもの。」
「目的は?一体なぜ、こんなことを。」
私の問いに、彼女は微笑む。
「嬉しいわ~。よくぞ聴いてくれて。」
「え?」
私はシスナ達を見るが、皆興味なさそうだ。誰も聴いたことがなさそうという顔をしている。
「ちょっと待って、皆聴いた事なかったの?」
「ろくでもなさそうだし。」
リラは爪の垢を放り捨てて言う。
「お前は知り過ぎた~とかなりそうだから、ちょっとね…」
ミランダは愛想笑いして敬遠している。
「失敗して摘発されたら司法取引でアンタを切り捨てる気でいるわ。」
ハッキリとマザーに向けてシスナは言い放った。
「え~ん、ちょっと酷いわ~シスナ~。」
「密輸に窃盗、クラッキングと死体のすり替え、散々犯罪の実行役を担わせてよく言う。親密な関係になんてなりたいと思わないのが当然のはず。」
彼女は強い足音で踵を返した。
「聴く気はないから私は失礼させて貰う。金と仕事さえあれば、私はそれでいい。」
「隊長かっこい~、っつーわけでウチも。」
リラも彼女に続いて行くと、モモとメリッサもアクビをして出て行ってしまった。
おどおどしているミランダと、呆気にとられた私だけが残される。
「まぁシスナはああいう子だから。ドライだけど仕事はきっちりするいい子よ?」
「いいんですか?アレで……」
「いいわ別に。名前の時点で、プライベートな関係には期待はしてないもの。」
「名前って……人となりと名前は別では?」
「そうでもないわよ。特にレイチェル、アナタに関してはね。来なさい。」
マザーが振り返ると、私は彼女についていく。ミランダも続いた。
「ミランダ、アナタまで聴かなくてもいいのよ?」
「いや~気になってたからちょっと……」
「そう……。ふふ。」
彼女は私とミランダを見て、何故か微笑ましそうに笑む。
「じゃあちょっと、ショッキングな話かも知れないけど。」
物置らしい頑健な鉄のドアを3人で開ける。
目前に現れたのは、オレンジ色の巨大な水晶の中に閉じ込められた人間だった。
長い真紅の髪。気が強そうな顔つきだが、穏やかで優しい表情で目を閉じ、両手を合わせ祈る様に眠っている。
そしてケーブルで結晶に繋がれているのが、今まで回収してきただろう量子コンピューターだ。
「これは……!」「人間……?!」
私とミランダは息を飲む。
「そう。私の大事な人。」
そっと水晶に手を振れた。
「娘さん……とかですか?」
ミランダが聴くが、マザーは昔を懐かしみ、そして悲しげな顔をして顔を横に振った。
「私の娘ではないわ。遠い昔、私がもっと仲良くなりたかった人の娘。」
「名前は?」
「クレア。母の名をミランダ。父をアナトリー。」
「……私と……同じ名前。」
「リラがアナタがを連れて来た時、あの人とは似ても似つかないのに、なんだか運命を感じてしまってね。放っておけなかったの。そしてレイチェル……。」
マザーは私の手を握る。
「この子の母親のミランダには、血は繋がりこそないけど、強い絆で結ばれていた義理の妹がいるの。」
このクレアと言う人の親は恐らく同じ赤髪だ。
マザーは変貌した私の金髪を見て、『あの人にそっくり』と言った。
『シトリン……』
「そうよ。アナタの名前を聴いて、私は運命を感じてしまったわ。」
手を強く握って彼女は跪いて涙する。
「シトリンには師匠がいた。レイチェル・テューリン、あるいはラケル・トリーノ……」
合衆国の読みではレイチェル。ラケルの読みは別の国の名前だ。それは西方の教会の本国の名前。
「私が……殺した。大聖堂の18階で……シスナとリラと、もうひとりと共に……」
「マザー……」
「……ごめんなさい。別人とは分かっていても、どうしても……」
涙を拭い、彼女は立ち上がった。
「取り乱してごめんなさいね。しっかり説明するから。」
マザーは立ち上がり、シスターのヴェールを取った。




