work 1-3
シスナから受けた説明曰く、このヒノシタ国では中世から続くダンジョンがまだ健在らしい。
御伽噺では、ダンジョンから溢れた魔物達が街や村を襲うというのがよくある話だ。
人里離れた山奥の地下と言うのはまだ分かるが、驚いたことに化け物の類はダンジョンの外に出ていないという。
だが見つかる兆候は必ずある。無害ではあるが、その地方には居ない生き物が見つかること。
例えば温暖な地方にしかいない鳴き声の違うセミだったり、模様の違うシカだったり。
季節外れの生き物が見つかったとSNSに投稿された小さな異常から見つかることが多いのだそう。
表沙汰にならないのは、教会の刃がそれらを悉く処理してきたからだという。
そして見つかった今回のダンジョンは東北地方の廃墟の古井戸にあった。私達は廃屋の入り口に車を停め、装備を着て調査に挑む。
「さて、シトリン。アンタ銃剣は使える?っつっても標準装備だから聴いても仕方ないけど。」
「廃タイヤを突く体験ぐらいなら…遊び半分だったけど。」
「上等よ。」
手渡されたのは大陸産のカービンライフルに銃剣が付いたもの。世界中で知名度が高い、私の仮想敵国側の銃だ。
シスナ達も同じもの。ライトの付け方や銃剣の構築、銃身長、スプレー塗装のカラーリングはほぼ同じで統一されている。
シリアル番号は消されていて、セレクターの文字が違うものがある。
それぞれ製造された国が違うクローン品なのだろう。紛争地帯からかき集めた密輸品の中古の突撃銃を丁重に整備したものだ。
防具の類もお手製のモノだ。
ヘルメットもバイク用のジェットヘルメット。黎明期時代の戦闘機パイロットが使う様な、ラグビーメット型の丸いデザインのモノ。
ポリカーボネートを追加で分厚く重ねたシールドに、口元側にはスナップとベルクロで脱着出来る防塵・防毒マスクを手渡される。
必要ない時は、ベルクロを剥がして後頭部側に上下入れ替えて張り付けて固定する。後ろから見ると、顔が上下反転していて変なデザインだ。
持ってみると、少し重たい。
裏地を見ると、発砲スチロールは取り除かれ、ガラス繊維のスパッタシートが建築用ボンドで何層にも塗り固められていた。
インナーのEVAフォームは市販で買えるとはいえ、徹底している。狩猟用のホローポイントなどは貫通しないだろう。
ナイトビジョンはネックバンド型で首にぶら下げる形だ。
防弾ベストの胸のところに、巻き付けて包むカバーが付いている。接眼レンズへの異物保護と同時に胸元に固定出来る。
使用する際はバイザーシールドを上げて使う。
動物観察用の赤外線ゴーグルを分解し、配線を変えて3Dプリンターで作った筐体に入れた、液晶タイプのデジタルナイトビジョンゴーグル。
本物の軍用には遠く及ばないが、月明かりなども入らない夜間の屋内や森林では肉眼よりは遥かにマシ。
カメラは単眼だが、液晶は双眼かつ視野角も広めにとられて意外と見やすい。
チャンネルを変えると、片目がレールに乗せられているガンカメラに変更出来てコーナーショットも出来る優れものだ。
防弾ベストはエアソフト用。小さめだが肩アーマーまでついている。
防弾ベストの中身も、3ミリ厚の焼いた鋼板とマーブル色のプラスチックを2枚重ね。市販で購入できるアラミド繊維で巻いてある徹底ぶり。
プラスチック部分はレジ袋や灯油のポリタンク、ブルーシートに使われている、高分子ポリエチレンを溶かして固めている。
(ミルクジャグプレート……)
軍用の超高分子ポリエチレンには及ばないが、3cm以上の厚みになると民間用の狩猟や競技射撃用の拳銃弾や散弾では貫通しない。
ソフトアーマーのアラミド繊維に焼き入れした鋼板と合わせて併用しているため、ボディ―アーマーの方は軍用弾でも数発は貫通しないだろう。
私はシスナ達を見た。手製の密造品にしては、かなり考えられて出来た装備だ。
ミランダは違うと言っていたが、シスナとリラは装備を慣れた手つきで着込んでいる辺りは軍隊出身だろうか。
この装備でテロ事件を起こしたらと思うと、気が気ではない。
いや、それ以上に、この装備が必要なダンジョンとは何なのか。
私は固唾を飲んだ。
「準備出来た?」
「えぇ…まぁ。」
歯切れの悪い返事で返すと、彼女は私の背中を叩いて少し息を合わせ深呼吸してくれた。
周りを見ると、リラとミランダも同じ真剣な面持ちに変わっていた。
皆、緊張していないわけではない様だ。
目を合わせ、お互い数回頷くと、全員は電子機器のスイッチを入れる。
シスナはGPSを見て、無線とレコーダーに聞こえる様に、ハッキリとした声で口に出した。
「北緯42.415411、東経171.463463。2032年、9月26日、天候晴れ。時刻1540。作戦開始。」
全員が腕時計のスイッチを同時に押す。
「井戸に降りるわよ。アメス、先行お願い。」
私達は井戸に吊るしたロープから、ダンジョンの入り口に降りて行った。




