work 1-1
レイチェル・テュリン
西の大陸。自由の国と呼ばれる合衆国が私の母国。
貧しい家庭だったから、18歳で陸軍に従軍し、辛みと焼肉が美味しい国に配属してしばらく。
料理が好きだったから、管理栄養食の技能兵として志願した。本国の大学への受験に合格して進学許可が下り、卒業する頃には26歳になっていた。
再び国外駐留が命じられ、いまだ耳の長い遺伝子の残り香を持つ人たちが住む『陽下国』と言う国で、勤務地に先んじて卒業旅行の最中…。
レンタカーでの移動中に大型トラックと交通事故を起こした。
目が覚めた時、裸でベッドに横たわっていた。目の前にはシスターの服を着た黒い女たちに囲まれていた。
私の眼前に迫った女性は、瑞々しい黒髪で、耳の長い妖艶な熟女。
細く白い綺麗な指で、私の頬と髪を撫でて言う。
「あぁその金の目…その金髪…その名前…まるであの人の生まれ変わりのよう…」
少し懐かしそうに涙を浮かべたが、私は動揺した。
「…金髪?」
私の髪の色はブラウンだ。そして隣を見てガラスに映った自分の姿は。
全く別の、金髪金眼の美女に成り代わっていた。
「シスナ。」
隣にいた灰色の髪の女は黒装束のフードを取った。
「はい、マザー。」
「この人はきっと将来、アナタ達を導く存在になる。アナタの部隊に入れるわ。」
マザーと呼ばれた黒髪の熟女が言うと、頷く。
「異論はありません。」
マザーはしゃがみ、私と目線を合わせて言う。
「では、レイチェル。」
「え…はい…」
「アナタはこれからこう名乗りなさい―――」
彼女はまるで名付け親の様に振る舞う。
「―――『シトリン』と。」
私はシスナと呼ばれた女に連れられ、自室になる部屋に通されて着替えを渡された。
…
混乱する私にシスナは懇切丁寧に教えてくれた。
事故に遭った私は、たまたま事故現場の目の前にあった宗教法人の教会で応急処置を受けて一命をとりとめたのだと。
私は自分の写真を見たいと問い詰めたが、彼女は躊躇う。
反対を押し切ってスマホで見せてくれた写真は、躊躇うのも納得する、吐き気を催すほどの酷い物だった。
致命傷は避けたが顔面が完全にめくれて剥げ、眼玉が飛び出てキーホルダーの様にプラついてしまっている。
しかしながら、着ている服は間違いなく私だ。
髪の色や目の色が変わってしまったのも、大部分が移植手術だったかららしい。整形手術の成れの果てが今の姿で納得がいく。
私はこれから、その費用を彼女らと共に働いて返さなければいけないらしい。
黒い修道服を脱いだシスナの姿は、ジーンズとシャツで驚くほど一般人だった。
フードから出た髪の色は、灰色とブラウンが混じった珍しいマーブル状のアッシュへアーだった。
「えっと、それで、私は何をするの?」
「化け物退治。」
「…はい?」
混乱する私に彼女は弾倉を抜いたカービンライフルの横っ腹を押し付け、手渡した。
「服見たならわかるでしょ?私達、エクソシストだから。」
「????」
「私はシスナ。シスナ・シャスチーチカ。コードネームはアゲート。作戦と無線通信中はアゲートと呼ぶ様に。アンタはさっき言われた通り、シトリンね。リラ!」
彼女は廊下に呼びかけると、私とシスナより少し背の低い黒髪の女が現れる。紫色に少し反射するウルフカットが印象的なボーイッシュな女のヒト。
「あ~い。」
「コイツはリラ。リラ・ゼニス。コードネームはアメス。」
「よろしくぅ。」
「よ、よろしくおねがいします…。」
ニカっと笑うと、彼女は部屋に戻った。その奥から着替える音がする。
「私達も着替えるわよ。」
出された着替えは、軍隊がする様な防具の類だった。
言われるがまま私は装備を着て、案内を続ける彼女に続く。
外の駐車場に出る。振り返ると私の事故現場だったところが、門の先に見えた。
商用バンの前にくると、リラが待っていた。リアのドアを開けると、衛星通信でもするかのようなコンピューターがある。
「オレンジっぽい髪のドローン操縦手はメリッサ。コードネームはタンジェ。」
「こっちのちっこい、赤目の白髪はモモ。同じくジャスパー。」
「運転席の褐色肌は、シディア。名前はミランダ。」
「はぁ~い。」
穏やかな笑みで手を振る優しそうな、褐色肌と金髪の女性だ。
「シディアには期待しないで。ヒノシタ生まれで、戦闘に関しては1年経ってもズブの素人。成長が見えないわ。」
「もうちょっと歯にもの着せてよぉ。」
「アンタの軍歴のキャリアの方が長いから期待してるわ。シトリン。」
車に乗り込み、私は連れ去られてしまった。
アゲート・アメス・タンジェ・ジャスパー・シディア・シトリン。
アゲート、アメシスト、タンジェリン、ジャスパー、オブシディアン、シトリン。
ジュエリーに興味を持った女なら誰にでも判るコードネーム。それぞれ色のついた水晶に関係する、石英鉱物の名前を冠している。
それも、髪や肌の見た目から分かるぐらい、現存する宝石の色合いに合わせたもの。
肩のパッチには、RNの文字。
ルチレイテド・ネビュラ。名前そのままルチレートクリスタルのロゼンジカット(縦長の菱形)の部隊のワッペン。
傷にも見紛う無数の金の針の、その中に天の川の様な星雲が描かれた宝石のエムブレム。
車が出て、私の事故現場を見る。施設の門は凹んだ痕が残っている以外は、綺麗になって事故の影も形もなかった。
―――
しかし、勢いに流されて、私は質問するのを忘れてしまっていた。
あれから何日経ったのか?
事故直後の写真は、自分の顔面であったが吐き気を催すほどにグロテスクなものだった。
顎からめくれ上がった顔面の皮は。髪の毛ごと頭頂部まで吹き飛んで、額の頭骨と目玉が飛び出ていた。
1週間やそこらで治ることはあり得ない。私はかなりの長期間、意識不明の寝たきりだったはず。
後に分かったことだが、事故からたった3日しか経っていなかったのだ。
何か、異常な治療をしない限りあり得ない。
私の顔は傷ひとつなく全くの別人になっている。地毛も全て金髪に変わった。
整形手術で誰かの顔面の皮を移植したとしても、無事だった後頭部に触る必要はないのだから、地毛が残っていないとおかしいはず。
私は一体何をされたのか?
―――
配属先が全く変わってしまった女だけの部隊で、私の初勤務が始まる。




