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国家の観客  作者: 保安院
1/1

処刑

その日、処刑が行われた。


僕はただ、それを見ていた。






広場は静かだった。列は乱れていなかったし、叫ぶ者もいなかった。


処刑は予定通りに進み、予定通りに終わった。




処刑が始まる前から、


終わる時刻は知らされていた。




時計を見なくても、


その通りに進んでいることが分かった。




遅れも、早まりもない。


それが正しい進行だった。




僕は人の流れに逆らわず、終わりを確認してその場を離れる。


それが正しい振る舞いだと、昔から教えられてきたからだ。




周囲の人間も同様に、処刑の終わりを確認して立ち去ろうとする。


一斉に動きだす足音が揃って聞こえた。


誰も「合わせている」意識はない。




足音が揃っていることに気づいたとき、


僕は一瞬、自分の呼吸を意識した。




乱れてはいなかった。


それを確認して、安心している自分がいた。






人々は小声で話していた。


内容はばらばらのはずなのに、耳に残る言い回しはどれも似ていた。




「……こうなるとは思っていたけど」


「……仕方ない、のか」


「……分からないな」




それらは怒りでも、悲しみでもなかった。


かといって、無関心とも違う。




ただ、今ここで口に出すには適切だと感じられる言葉だった。




僕も、彼らと同じように一つ呟こうとして、やめた。


言わなくても問題はなかったし、


言ったところで、何かが変わるとも思えなかった。




広場の外では、すでに片づけが始まっていた。


立ち入りの線が引き直され、配置が変えられ、人の流れが整えられていく。


その手際の良さに、驚く者はいない。




処刑に伴う暴動が起きた時のために、


広場のそばには最初から柵が用意されていた。


使われるかどうかは、その日の進行次第だったはずだ。




結果として、誰も触れなかった。


柵はそのまま、元の位置に戻されていく。






僕は自分の歩幅が、さきほどからほとんど変わっていないことに気づいた。


速すぎず、遅すぎず、立ち止まる理由もない。




ここでは、そう歩くのが一番自然に見える。




先のことが分かっているわけではなかった。


それでも、このあと何が起こるかが、大きく外れるとは思えなかった。




僕は自分の制服の袖口を整え、視線を上げた。


次に合図のある場所へ向かう。




そうしていれば、流れは滞りなく続く。


それが、間違いのないやり方だと感じていた。






ーーー「間違いのないやり方」という言葉を、最初に覚えた場所がある。




石造りの建物で、朝は鐘の音で起こされた。


それ以外の起き方を、僕は知らなかった。


目を覚ます時間も、身支度を終える順番も、あらかじめ決まっていた。




廊下に出ると、子どもたちはすでに同じ向きを向いて立っている。




僕の少し前にはいつも同じ後ろ姿があった。


背筋が伸びていて、足の位置がずれない。




教官が来る前から、その姿勢は変わらない。


周囲が小さく動いても、そこだけが固定されているように見えた。




正しい位置に立っている、というより、


位置そのものが、その人に合わせて決まっているようだった。




名前を呼ばれると、はっきりとした声が返る。


それを聞いて、大人たちが一度だけ頷く。




その反応を、僕は何度も見てきた。




その子が叱られているところを、僕は一度も見たことがなかった。




教官の視線が列をなぞるとき、


そこだけは確認する必要がないようだった。




誰かが並び直しを命じられると、


その分だけ、周囲が小さく動く。


けれど、その後ろ姿は、最初から最後まで動かない。




何かを我慢しているようにも見えなかった。


努力しているようにも見えなかった。




ただ、そこにいるだけで、


求められている形になっていた。




僕はときどき、自分の足元を確認した。


位置がずれていないか、


姿勢が崩れていないか。




そうしている間に、


教官の声が響く。




「――次」




名前が呼ばれる。


その声に、迷いはない。




はっきりとした返事が返り、


大人たちはそれ以上、何も言わなかった。




それで十分だという反応だった。




僕は、その様子を見ながら、


なぜか安心していた。




ここには、


正しい形がちゃんと用意されている。




そう思えたからだ。




それ以上、考える必要はなかった。




夜になると、灯りは同じ時刻に落とされた。




眠れなくても、目を閉じる。


眠っていても、姿勢は正す。




隣の呼吸が、少しずつ揃っていくのを聞きながら、


僕はいつも天井を見ていた。

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