処刑
その日、処刑が行われた。
僕はただ、それを見ていた。
広場は静かだった。列は乱れていなかったし、叫ぶ者もいなかった。
処刑は予定通りに進み、予定通りに終わった。
処刑が始まる前から、
終わる時刻は知らされていた。
時計を見なくても、
その通りに進んでいることが分かった。
遅れも、早まりもない。
それが正しい進行だった。
僕は人の流れに逆らわず、終わりを確認してその場を離れる。
それが正しい振る舞いだと、昔から教えられてきたからだ。
周囲の人間も同様に、処刑の終わりを確認して立ち去ろうとする。
一斉に動きだす足音が揃って聞こえた。
誰も「合わせている」意識はない。
足音が揃っていることに気づいたとき、
僕は一瞬、自分の呼吸を意識した。
乱れてはいなかった。
それを確認して、安心している自分がいた。
人々は小声で話していた。
内容はばらばらのはずなのに、耳に残る言い回しはどれも似ていた。
「……こうなるとは思っていたけど」
「……仕方ない、のか」
「……分からないな」
それらは怒りでも、悲しみでもなかった。
かといって、無関心とも違う。
ただ、今ここで口に出すには適切だと感じられる言葉だった。
僕も、彼らと同じように一つ呟こうとして、やめた。
言わなくても問題はなかったし、
言ったところで、何かが変わるとも思えなかった。
広場の外では、すでに片づけが始まっていた。
立ち入りの線が引き直され、配置が変えられ、人の流れが整えられていく。
その手際の良さに、驚く者はいない。
処刑に伴う暴動が起きた時のために、
広場のそばには最初から柵が用意されていた。
使われるかどうかは、その日の進行次第だったはずだ。
結果として、誰も触れなかった。
柵はそのまま、元の位置に戻されていく。
僕は自分の歩幅が、さきほどからほとんど変わっていないことに気づいた。
速すぎず、遅すぎず、立ち止まる理由もない。
ここでは、そう歩くのが一番自然に見える。
先のことが分かっているわけではなかった。
それでも、このあと何が起こるかが、大きく外れるとは思えなかった。
僕は自分の制服の袖口を整え、視線を上げた。
次に合図のある場所へ向かう。
そうしていれば、流れは滞りなく続く。
それが、間違いのないやり方だと感じていた。
ーーー「間違いのないやり方」という言葉を、最初に覚えた場所がある。
石造りの建物で、朝は鐘の音で起こされた。
それ以外の起き方を、僕は知らなかった。
目を覚ます時間も、身支度を終える順番も、あらかじめ決まっていた。
廊下に出ると、子どもたちはすでに同じ向きを向いて立っている。
僕の少し前にはいつも同じ後ろ姿があった。
背筋が伸びていて、足の位置がずれない。
教官が来る前から、その姿勢は変わらない。
周囲が小さく動いても、そこだけが固定されているように見えた。
正しい位置に立っている、というより、
位置そのものが、その人に合わせて決まっているようだった。
名前を呼ばれると、はっきりとした声が返る。
それを聞いて、大人たちが一度だけ頷く。
その反応を、僕は何度も見てきた。
その子が叱られているところを、僕は一度も見たことがなかった。
教官の視線が列をなぞるとき、
そこだけは確認する必要がないようだった。
誰かが並び直しを命じられると、
その分だけ、周囲が小さく動く。
けれど、その後ろ姿は、最初から最後まで動かない。
何かを我慢しているようにも見えなかった。
努力しているようにも見えなかった。
ただ、そこにいるだけで、
求められている形になっていた。
僕はときどき、自分の足元を確認した。
位置がずれていないか、
姿勢が崩れていないか。
そうしている間に、
教官の声が響く。
「――次」
名前が呼ばれる。
その声に、迷いはない。
はっきりとした返事が返り、
大人たちはそれ以上、何も言わなかった。
それで十分だという反応だった。
僕は、その様子を見ながら、
なぜか安心していた。
ここには、
正しい形がちゃんと用意されている。
そう思えたからだ。
それ以上、考える必要はなかった。
夜になると、灯りは同じ時刻に落とされた。
眠れなくても、目を閉じる。
眠っていても、姿勢は正す。
隣の呼吸が、少しずつ揃っていくのを聞きながら、
僕はいつも天井を見ていた。




