人生の締め方
夜。
廊下の自販機の前。
久瀬は缶コーヒーを買って、ベンチに腰掛けてた。
そこへ、桐生が無言で来て
隣に座る。
しばらく沈黙。
桐生が言う。
「…役目、替わろうか」
久瀬、目を細める。
「は?」
桐生は真正面から見た。
「俺が爆弾背負う。
お前が操縦やれ」
久瀬は、鼻で笑った。
「何でだ」
桐生は静かに言う。
「子供に、未来を見せたいからだ」
久瀬は、コーヒーを一口飲んで
缶を置いた。
「俺もそうだよ」
桐生が眉を動かす。
久瀬が続ける。
「俺は“教科書の端っこ”でいい。
だけど載る。
“こいつらが救った”って。
…それでガキが、明日を信じられんなら、それで充分だろ」
桐生:
「だが、死ぬのはお前だ」
久瀬は不敵に笑う。
「お前も、散々死ぬ目見てきたろ」
桐生、黙って睨む。
久瀬は立ち上がり、桐生の胸倉を掴む。
「俺の“終わり方”に口出しすんな」
久瀬が殴りかかろうとした瞬間。
桐生の正面ストレートが
脳天まで響く威力で、顔面を撃ち抜いた。
久瀬、そのまま膝つく。
桐生は淡々と続ける。
容赦なんて無い。
腹、顎、こめかみ。
一発ずつ、確実な場所に。
久瀬はもう、呼吸で血が泡立つ。
それでも笑う。
「……お前は……ほんっと、遠慮しねぇな」
桐生:
「お前が死にに行くって言うなら、本気で止める」
床に倒れて
頬から血が垂れたまま
久瀬は、血を吐いて、笑った。
「止められねぇよ。
俺が“教科書”に残るラストなんだ」
桐生は、俯いて拳を握ってる。
何も言わない。
けど、その沈黙は
“諦め=尊重”に変わった沈黙だった。
――――
次の朝
久瀬は、顔面腫れたまま
離陸前ブリーフィングの席に座る。
阿波野がドン引きした顔で言う。
「兄貴……顔の原形ねぇじゃん……」
久瀬は腫れたまぶたで
ギロッと前を向いて言った。
「問題ねぇ」




