大勝負
打ち上げ当日。
4人は宇宙船に搭乗し、地上管制からのカウントダウンが響く。
「10…9…8…」
桐生と遥、久瀬と阿波野は互いに短く頷き合う。
宇宙船は巨大な炎を上げ、ゆっくりと浮上。
やがて無重力状態に入り、計器のライトが青白く点滅する。
東京の光は小さく遠ざかり、4人の顔に覚悟の影が落ちる。
宇宙船は予定通り軌道に乗り、目的の隕石へと接近。
桐生は操縦席で冷静にハンドルを握る。遥も補助を務める。
しかし、隕石接近の直前、遥は小さなボタンを目にする。
『ごめんね』と手書きされたそのボタンは、操縦者にしか触れられない仕様だった。
遥は深く息を吸い、ゆっくり押す。
次の瞬間、久瀬と阿波野の座席が射出される。
上半身宇宙服に80キロの爆弾を背負い、二人は無重力の中、隕石へ飛びついた。
阿波野の目が大きく見開かれる。
「兄貴、…覚悟できてます…」
久瀬は腫れた顔に笑みを浮かべ、拳を握る。
「教科書の一行、今ここに書き込む」
二人は隕石の表面にしがみつき、爆弾の装着位置を確認する。
時間は秒単位で迫る。
桐生と遥は、操縦席で自動帰還モードに切り替わり、宇宙船は軌道修正を行いながら地球へ向かう。
「自動帰還開始…」
コンソールの表示が青く光る。
宇宙船の背後、隕石にしがみつく二人。
爆弾が最終起動コードを受信する。
静寂が訪れる。
そして、静かに、光と衝撃が宇宙を裂いた。
桐生と遥は無事、地球大気圏に突入する。
彼らの顔には、安堵と悲しみが混ざる。
外を見ると、光の彼方に消えていった隕石の残像が小さく揺れていた。
遥は小さく息をつき、桐生に言う。
「…二人は、本当に、やり遂げたんですね」
桐生は無言で頷く。
「俺たちは、生き残っただけだ」




