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第9話 平和に暮らしたかった

 なんてことは無い、ダンジョンのモンスターは魔力制御を使うことで出てくるようにはなったが、スライムに虫みたいな気持ち悪いモンスターと人ぐらいの大きさのゴーレムやスケルトンがいる程度で正に初心者用、サンダーとかで消し飛ぶ程で外で出会ったフォレストスパイダーの方が百倍強かった。

 とは言っても無駄にダンジョンは広く、雑魚モンスターを倒しながら進むこと五日、やっと最深部に到着。

「時間かかったね」

「早い方だと思いますよ?ていうか初見で踏破するものじゃないと思いますけど?」

「そうなの?」

 行きたいと言ったレイルにドン引きされてしまった、もっとゆっくり進みたかったのかな?すまないことをしたかな。だってモンスターへなちょこだったししょうが無いじゃん、レベル30で冒険の出発地点のモンスターを殺戮してるも同然だ、レベルもあんまり上がらなかったし。

「ボスとか居ないの?」

「確かこの奥です」

 レイルが指さす奥にはどうぞここにお入りください、ボスがいますよと言わんばかりの古びた大きな石の扉が佇んでいた。

 さすがに最深部にボスぐらいはいるか、無限に復活するのかな?まあ、野暮なことを考えるのはやめておこう。

「とっとと倒すかな」

「油断しないでくださいよ」

「分かってるよ」

 素手で動くとは到底思えない大きさの石でできた扉、どうやって開けるんだろうと首を傾げているとレイルはおもむろに扉に手をかざすと魔法陣が出現し、ちょっと魔力を込めるとゆっくりと扉が開き出した。


『レリニアダンジョンボス』

 やや広い体育館のような広さの広間のど真ん中に四、五メートルほどあるゴーレムが仁王立ちしていた。

 ゴーレムか、雑魚ならまだしもボスとなると雷って効くのかな?考えても仕方ないか、トライアンドエラーだ。

「牽制する、回り込んで」

「わかった」

 レイルは素早く俺から離れ、壁伝いに走って移動する。意外と素早くて彼女のスピードには結構助かっている。

雷炎爆裂砲(ブレイズカノン)

 ドバーンッ!

 牽制とは言ったが出し惜しみしても仕方ない、最初からクライマックスで、呪文を唱えると手のひらに二つの魔法陣がぐるぐると回りながら現れ、爆炎とともにそのまわりに雷が発生しビームというか放射がゴーレムを襲い、着弾と共に舞い上がった砂煙が収まる頃にはゴーレムは跡形もなく居なくなっていた。

 およ?倒した?


『レベルが21に上がりました』


 倒したみたい。

「いきなりブレイズカノンなんて危ないじゃないですかっ!」

「ごめんごめん、ちゃんと当たらないようにしてたから」

「むー!!」

 隣に戻ってきたレイルに肘打ちされてしまった、これを含めた連携の確認なんだけど、こうも一撃で終わってしまうと何をしに来たのかわかんなくなる、もうちょっと難易度が上のダンジョンに行くべきだよな。

 そして、消し飛んだゴーレムがドロップしたであろう石版を拾う。

「あっ、そのアイテムレアなので高く売れるかもですよ!」

「おー!ラッキー!」

 よくわかんないがレアアイテムをドロップしたみたいだ、受付に売ってもいいが、せっかくレイルの空間保管があるので街まで持って帰ってもいいかな、変な手数料取られそうだし。

「消化不良だけど、帰ろっか」

「そうですね、次はもっと高難易度のダンジョンに行きましょう!」

「そうだね」

「やった!」

 なんだか目がキラキラしているレイル、ダンジョン踏破が趣味なのか?まっ、これといってすることも無いし、彼女の趣味に付き合うのは全然アリだ。


   ●


 五日ぶりに俺のホームグラウンド、地方都市「ヤーティクル」に帰ってきたのは夕方。質屋みたいな所に石版とその他雑多なドロップアイテムを査定に出すと500ギルだったのでそのまま売り、今は夕食を作るのも面倒なので夜市に向けて歩いていた。

「儲かるっちゃ儲かるのかな?」

「今回は良かったですけど普通はトントンかマイナスですね」

「そうなの?」

「稼ぎに行くと言うよりは経験のためですね」

「はえー」

 まあ、ダンジョンの場所や種類にもよるだろうが、この世界ではそう言うものなのだろう。規模の大きなダンジョンとかは入場料も高そうだし、運悪ければ一階層とかでお帰り願われそうだし。

「でも、私たち強いですね!あんなあっさり踏破できるとは思いませんでした!たちと言ってもほとんどレイジの手柄だけど」

 確かに、いくら初心者用とはいえヌルゲーだった、素早いレイルが撹乱して俺が火力でぶっ飛ばす、戦術としては脳筋だがそれでどうにかなってしまった。次のダンジョンでは驕らずに慎重に行かないとな。

「レイルも思ったより頼りになったよ」

「思ったよりってなんですか!!レイジさんの精霊なんです、当然です!!」

 フォローしておくとまた無駄に大きい胸をフフンと張って見せていた、まあ、うん、すごく頼りになってるよ。

 すると、ちょうどギルドの前を通り掛かったところで見たことある人と出くわした、レミさんとリグルアさんだ。

「あれは、レミさん!」

 何も考えずに声をかけてみたが、なんだか暗いというか様子がおかしい。

「ああ、レイジくん……、そちらは?」

 そういえば前にあった時はレイルは姿を現してなかったな。

「えっと相棒のレイルです、あれから色々あって」

「レイルです『相棒』です!」

 やけに相棒という言葉を強調し、またフフンと得意に胸を張るレイル、ツッコむのはやめといて。それよりも雰囲気暗いけどどうしたのだろうか。

「どうかしましたか?ジルは?」

 軽率だった。

「死んだよ」

「え?」

 今なんと?呆気にとられて固まってしまっていると、レミさんの方が気を利かせて話を続けてくれる。

「私たちは冒険者、パーティーメンバーが死ぬことなんて珍しいことじゃない。レイジくんは優しいからね、心配してくれてありがとう」

 彼女はちょっと乱暴に俺の頭をワシャワシャと撫でてくれた。

「でも、リーダーが……」

 ほんの数回しか会っていない人だが、この世界に来て初めて会った人だし、これから仲良く出来たらなとは思っていた。それが突然死なれたら涙のひとつでも出そうになる。

「そうだねぇ、どうしよっか……」

 彼女はリグルアさんを抱き寄せるが、やはりリグルアさんは応えているらしく、今にも泣きそうにというか泣いた後のように目元は真っ赤だった。

「フラフラしながら考えるよ、じゃ、またね」

「わ、分かりました、何かあったら頼ってください」

「うん、やっぱり優しいね」

 そう言い残すの二人は夜道へと消えてしまった。

 俺をパーティーに入れてくださいなんて無責任なことは言えないしどうするのが正解だったのだろうか、死体は以前にも見たがさすがに知っている人の死はキツイな。

「レイジが考えても仕方ないよ」

「うん、そうだけどね」

 レイルに慰められる始末、ダメだダメだ、男だろしっかりしないと。

「この世界じゃこんなの日常茶飯事なんだからさ」

「わかってるっ……つもり……」

「ごめん……」

 ちょっと語尾を強めてしまった、レイルだって悪気は無い、落ち着け落ち着け。

 ふー、と大きく息を一息ついて。

「俺こそごめん」

 それから終始黙り気味で屋台でホットドックみたいなソーセージっぽいお肉が挟まったパンサンドを買いホテルに戻り、部屋の中に入ると。

「ストップ」

「ん?」

  そんなに長く住んでいる部屋じゃないけどなんだか違和感がした、念の為にと入口の扉と出窓の隙間に侵入者検知用に仕掛けてあった薄い木の板が床に落ちている。

 くそっ、早かったな。

「この街を出る」

 この部屋に来た人が友好的か非友好的かはどうでもいい、レイルとの平穏な暮らしを邪魔するやつは総じて敵だ。だがしかし、正体不明の奴とやり合うのはリスクが高すぎるし、ここは逃げ一手だ。

「誰か来てたの?」

「うん、誰かは分からないけど面倒ごとは避けたいからね」

「わかった、準備するね」

 物分りが良くて助かる、彼女もこの街には特に思い入れもないだろうしそれだけは良かったかな。


   ●


 限界はあるだろうが周囲を警戒しながらものの五分で荷造りを終え(レイルの空間保管にぶち込んだだけ)、受付のおじさんに適当な事情を簡素に説明し、すっかり日が暮れた街をほぼ夜逃げのようにこの街の門に向かって歩いていた。

「いい街だったのにね」

「仕方ないよ、面倒ごとはごめんだし」

「もしかして私のため?」

「まあね、それも半分」

「へへぇ〜」

 ニヤニヤしながら俺の腕に抱きつくレイル、レイルのためと言えばレイルのためだが、それは結果論でありほとんどは自分のためだ。

 さっきも言ったように面倒ごとは真っ平御免だし、平和に適度にクエストこなしながらゆったりと過ごしたい。

 訪問者は誰かは分からないが、俺の異常さが噂になっているようだし、来たのは魔王軍かもしれないし人間軍かもしれないしはたまた刺客かもしれないし、ただの野盗か知る由もない。

 とにかく逃げ一手なのだ。

 そして、そろそろ門に着く頃、二人の人影が見えた。

 誰だろうと目を細める必要もなく、魔力感知でそれが誰かはわかった。

「どうしたんですか?」

「ああ、レイジくん、君こそどうしたの?」

 荷物を背負ったレミさんとリグルアさんだった、どうしたと聞いたもののだいたい察しはつく。

「ちょっと急用で……、レミさんも移動ですか?」

「うん、首都に行ってみようかなって」

「首都?」

 遠くない?ざっくりとしか分からないからレイルに聞いてみると、徒歩だとなんやかんや一ヶ月はかかる距離にあるらしい。結構遠いいな。てかこの国意外と大きいんだな。

 でも首都か、気になるな。木は森に隠せって言うし首都に行くのもありかな。

「ちょっとまっててください!」

「うん?」 

 レイルの肩を組んで少し離れてヒソヒソと話をする。

「首都行ったことある?」

「ないですけど……、あの人と一緒に行くつもりですか?」

 なんだか嫌そうな顔をしている、まあ彼女にとって第一印象最悪だよね、淫乱女とか普通に思っていそう。

「そんなに嫌がらないでよ、ほら俺たち追われる身だから巻き込んだ方がなんかあった時に対処出来るかなって」

「それはそうかもしれないですけど……」

 なかなか決定打にかけるな、取っておきを使うしかないか。

「俺はレイルにしか興味無いからさ!安心して!」

「ほんとですかぁ?」

 怪しんでる、変な教育受けてそうだしね、男は誘われたら直ぐなびくとか思っていそう。それは人によるけどね。

「ほんと!この目が嘘を言っている目に見える?」

 なるべくキラキラするように目を潤させてみると。

「はい」

 ダメかよっ!ガックシとちょっとコケてみせると。

「冗談です、仲間は多いに越したことはありませんし、レイジさんも彼女達のことが心配だと思うので一緒に行きましょう」

 どっから冗談?まあいいや、俺の心情もわかってくれているみたいだし、気が変わる前にレミさんに伝えよう。

「俺も一緒に行っていいですか?俺も行く宛がないといえばないので」

「え、うん、レイジくんがいるならこっちも心強いけど……」

 申し訳なさそうだったが特に渋られることもなく一緒に行くことになった、リグルアさんもちょっとだけ安心したような顔をしているしこの選択で間違っていないはずだ。

「では、決まりということで!ちょっと飛びますんで手を握ってください!レイルは肩に乗って」

「わかった!」

 ボンッ!と羽の生えたザ・妖精の姿の精体化になって嬉しそうに肩に乗るレイル、なんだかちょっと久しぶりな気もするな。

「わ!妖精!?」

 あ、そいやレイルが相棒とまでは言ったけど妖精とまでは言ってなかったな、後で説明するとしよう。

「それでは行きますよ!」

 無駄にバチバチと雷を纏い、足元に風を圧縮すると。

 ドンッ!

「わーー!!」

「きゃーーー!!」

「ッーーー!!」

 地面を凹まし、音速をも超える勢いで空の彼方へと俺たちは飛んで行った。

「ん?首都ってどっち?」

「へ?」

 まあ、首都までひとっ飛びする訳じゃないしいっか。


   ※


「何あれ、はっや」 

「もう見えないッスね」

「どこの方向に行ったから分かる?」

「撹乱じゃないッスか?僕たちの存在気づいてたし」

「さすがにそうね、あんたの影移動でどうにかならないの?」

「夜は最強ッスけどあんなに速いのどうにもなんないッスよ」

「そう、接触はやり直しね、魔王様になんと言われるか……」

「あんな規格外、仕方なく無いッスか?」

「そうも言ってられないのよ、帰りましょ」

「了解ッス」

 影に潜んだ二人組はその影へと消えていった。

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