第8話 パーティー結成
「暫定ですがレイルさんは冒険者ランクCと認定します」
やっぱり全部割れたらBだったのかな?なんだか疲れた顔をしている受付のお姉さん、なんかすいませんでした。
そして、早々に出来上がったギルドカードをウヒョー!とニヤニヤしながら両手に持ち、挙げ眺めているレイル、これだけ見ていれば可愛い。でもCかぁ、となかなかに悔しがっていた。
後で甘いものでも奢ってあげよう。
「それではレイジさん、レイルさん、こちらにパーティー名をご記入ください」
「パーティー名?」
用も終わったし帰ろうと思ったら受付に呼び止められ、それを催促された。一緒に行動するなら身分の保証等でパーティーへの所属が必要なのだと、確かにジルたちも「紅の片割れ」だっけ?なかなかに臭いパーティー名していたし、この世界ではチームを組むと名前をつけるのが普通なのだろう。その方が分かりやすそうだしね。
「うーん」
チラッとレイルを見ると目をキラキラさせて待っている、彼女が考える気は無いようだ。
これは悩ましいなぁ、そんな気軽に変えれるもんでもなさそうだしどうしたものか。今後パーティーのメンバーも増える可能性はあるし、でもレイルのことは無下にしたくないし。
うーんと、終始唸りながら少しその辺をぐるぐると歩いて考える。俺は雷魔法がどっちかと言うと得意だし、レイルは水魔法が得意そうだよな。雷と水……。
「雷鳴の水鏡」
急に天から降りてきたその言葉、どうかな?と隣のレイルを見てみると。
「さすがです!」
と全肯定モードになっていた。
「わかりました、ギルドカードに刻印しますので、こちらにもう一度カードを提出してください」
と、レイルは貰ったばかりのギルドカードを机に出し、俺もポケットから出すと、受付のお姉さんはそれに手をかざす。
魔法陣が形成されると、すぐさまギルドカードに文字がレーザー刻印のように刻まれていく。
「「おー」」
子供のように二人でワクワクしながら見ていると、ものの五秒位で刻印は終わり。
「ギルドカードをお受け取りください。また、今後メンバーが増えることがあれば、なるべく早く最寄りのギルドにて追加の申請を行ってください」
「あ、わかりました」
「それでは以上になります」
深々とお辞儀されたので「じゃ」と言って受付を離れ、特に新しくクエストを受けるつもりもなかったので、冒険者ギルドを後にした。
道を歩いているとずっとギルドカードを眺めているレイル、余程嬉しかったんだろうな、欲しいものを買ってもらった子供みたいだ。
「ちゃんと前見ないと危ないよ」
「魔力感知があるので大丈夫です!」
「そうじゃなくてね」
まあいいか本人が楽しそうなら。てか魔力感知か、便利そうだな今度教えてもらおう。
「そうだ!」
「わっ、びっくりした」
急に何かを思いついたように止まると大きな声を出したレイル、普通にびっくりしたが急にどうしたというのか。
「ダンジョンに行きませんか!ダンジョン!」
「ダンジョン?」
よく何階層とかいってどんどん深く潜って行き、モンスターが強くなってお宝が拾えたりするやつ?この世界にもあるんだな。
「近くにあるの?」
「交易路の反対側に小さいのがあるらしいですよ」
「へぇ」
ということは今日居た森とは反対のところか、この辺の地理も詳しくなりたいし腕試しがてら行ってみるのもありかな、この世界で特にやりたいこともまだ無いし。
「今度行ってみようか」
「明日行きましょう!」
なんだかずっと目をキラキラさせているレイル、怖いぐらい食い気味だな、どうしたというのだろうか。
「あ、明日?別にいいけど、どうしたのそんな急いで」
「だって私たちパーティーになったんですよ!?ほら、連携の確認とかあるじゃないですか!?お互いの強さを確認するのは大切なことだと思います!」
うーん、なんだかそれっぽい理由つけて俺と冒険っぽいことがしたいだけな気がするが、気が付かなかったことにしておこう。私たち結婚したんですよ!?ぐらいな勢いだったし。
「それなら行こうか」
「やった!!」
嬉しそうに彼女は何故か俺の腕に抱きつき腕に頬擦りしてくる、こらこら、結構おっきい柔らかいのが当たってるというか押し付けるな。歩きづらいのでさりげなく振りほどくと。
「そうと決まれば買い出しに行こうか、二、三日は入りっぱなしになるでしょ?」
「そうですね!でも、レイジさんならすぐ終わると思いますよ!」
だからその無条件の信頼を辞めてくれ、スキルのせいにしても程があるぞ。
そしてそれから俺たちは市場に必要なものの買い出しに行き、回復薬やら非常食等必要なものを買い、宿に帰る頃には外は真っ暗になっていた。
それから、よほど疲れたのかレイルは擬人化したままベッドに倒れ込むとそのまま寝てしまった。
「擬人化したままだと魔力消費きついんですけど?」
でも寝ちゃったしな、無理やり起こすのも悪いし、こっちから供給止めるのもなんだか申し訳ないし、とりあえず今のうちにステータスの確認でもしておこう。
『ステータス』
Lv.20
HP160/160
MP70/500+20
『装備補正』
魔法攻撃力+5
HP自然回復量+1
『スキル』
ソーサラーⅢ
ガンナーⅡ
マルチスキルⅤ
自然治癒Ⅱ
信頼Ⅲ
精霊の加護Ⅱ
うおっ、魔力総量結構増えたけどギリギリじゃん、危ない危ないもうちょっとで道端で寝てしまうところだった。でも、街に帰ってきた時にもギリギリだったはず。レイルは俺の魔力を使って擬人化しているはずなのに消費している感じがないぞ?
今考えてもよく分からない、MPが無くなれば強制スリーブするだけだし、明日起きてから残MPがどうなったかで考えるとしよう。
「俺も寝るかな」
既に寝息をかいているレイル、俺は起こさないように隣に横になり布団を被った。
「おやすみ」
●
翌朝。
目を覚ますとてってり腕にまとわりついて寝ていると思っていたレイルの姿は隣には無く、なにやらキッチンでゴソゴソしていた。
「おはよー」
目を擦りながら体を起こすと彼女が振り返る。
「あ、おはようございます!目が覚めたのでサンドウィッチを作ってみました、もうすぐできますので顔を洗ってきちゃってください!」
朝から元気な声だなぁ、と思いつつ寝ぼけ眼で洗面台に向かい水瓶から桶に水を取りパシャッと顔を洗う。うん、冷たくて一瞬で目が覚める。
ついでにMPの残量を確認してみると520/500+20となり全回復していた、あれ?レイル擬人化してたよな?と不思議に思いつつもとりあえずダイニングに戻る。
寝癖のついた髪の毛を水に浸した手でぺたぺたと直しながらリビングのソファーに座ると、お皿にサンドイッチを乗せたレイルが横に座る。
「ハムと野菜を挟んでみました、お口に合えばいいですけど」
「ありがとう」
ニコッと笑って受け取り一口。
「うん、おいしいよ!」
やっぱり日本の食パンとは違い少しパサついているが思ったより美味しかった、ニコニコと食べているとレイルもニコニコしながらサンドウィッチを頬張る。リスみたいで可愛い。
「なんだか新婚みたいだね」
何となくそう思ったので、特に何も考えずにそう言ってしまうと。
「はい!新婚です!」
否定されずむしろ肯定された、どうしよう、地雷踏み抜いた?と目をパチパチしているとレイルは俺の目を見て首を傾げる。精霊的にパーティーを組むのは婚約と同意義なのか?しかし、そんなことを彼女に聞くほど空気が読めない訳じゃない。
俺的にはレイルは全然タイプだし、むしろ願ったり叶ったり、次何か結婚指輪とかせがまれたら覚悟するとしよう。
とりあえず作り笑いすると彼女はなにか安心したのかサンドウィッチをペロッと食べてしまった。食事を美味しそうに食べる美人ほど可愛いものはないな、眼福眼福。
●
街から歩いて一時間程のところに小さな洞窟のようなダンジョンがあり、入口に受付と書かれた小屋に入ると、簡素な鎧をまとった細マッチョな兵士が椅子に足を組んで座っていた。
「お?ようこそ『レリニアダンジョン』へ、ギルドカードの提出と、誓約書にサインを」
「あ、はい」
高圧的、でもないがこの世界で兵士に出会うのは初めて、緊張しているとレイルに視線で心配されるが二人でギルドカードを渡すと。
「冒険者ランクBとC?」
「あ、はい」
その成りで?と言わんばかりに全身を舐めるように観察されると。
「ここは初心者用のダンジョンだ、推奨ランクはD。帰れとは言わないが楽勝だと思うが?」
あ、そうなの?規模が小さいだけだと思っていた。でも、ダンジョンそのものは初めてだし説明すれば大丈夫かな。
「えっと、ダンジョンに入るのが初めてでして、それにパーティーの連携確認とかで手慣らしの為にと」
「初めて?」
妙に怪しまれて冷や汗をかく。
「そういうことならまあいい、初めてなら簡単に説明するぞ。ここよダンジョンは二十五階層まであり、特に特別な秘宝とかは取りつくされていてほぼ無い、魔物から拾えるアイテムはここで売ってもいいし、街まで持って帰ってもいい自由にしてくれ。あと瀕死の状態になるとここに自動的に転送される魔法陣が組んである、即死しなければ死ぬ心配は無いが、向こう半年は出入り禁止になるのでそのつもりで」
おー、さすが初心者用ってこともありそんな簡単には死なないようになってるんだな、即死はさすがに無理そうだけど回復薬もたんまりあるし、自然治癒力もそれなりだしちょっとは安心かな。
「んじゃ、入場料一人200ギルとこの誓約書にサインな」
「分かりました」
入場料はレイルの『空間保管』に入れてあるお金から払って持って、俺は誓約書をスラスラと読む。
内容的にはよくある死んでも責任とらないとか、管理者の指示に従ってもらうとか、PvP禁止とかそんな感じ。
「レイジ・アンサラーっと」
署名して兵士に手渡す。
「レイジ・アンサラー?お前か、最近話題の新米冒険者って言うのは」
おや?もしかして有名人になってます?
「あ、いや、話題かどうかは分からないですけど」
キョドっていると終始しかめっ面をしていた兵士が頬を緩めて恐ろしいことを言ってきた。
「この国の皇帝『魔王リーシェ』さまがお前のことを気にしてるって駐屯師団で噂になってるぞ」
「ま、マジですか……」
非常にまずい!有名人にならずに平穏に暮らしていたかったのに!もう魔王まで話が言ってるの!?もっと弱い振りをしておけばよかった!
「まあ風の噂だ、リーシェ様も人柄がいい、そんなに怯えるなって」
「わ、分かりました」
ダンジョンなんでどうでも良くなるような話しだったが、お金も払ってしまったしとりあえず気晴らしのためにレイルとダンジョンの中に入った。魔王軍が出待ちとかしてないよね?まあ、成るように成るか。
●
『レリニアダンジョン』、一階層。
「ダンジョン、ダンジョン♪」
俺の隣をめっちゃ楽しそうにスキップしながら歩くレイル、うん、楽しそうでなにより。
「暗いから気をつけてよ」
「魔力感知があるので大丈夫です!」
「だから、そうじゃなくてね」
洞窟という訳ではなく遺跡のような石造りの通路をどんどん進んでいく、歴戦の痕跡だろうか足場は結構悪いので気をつけて欲しいのだが彼女は聞く耳持たずルンルンしている。もうちょっと怖がってくれてもいいのだけれど。
「初心者用って言ってたけどどんな魔物が出るのかな?」
「そうですね、手始めにスライムとかダンジョンスパイダーとかですかね?」
スパイダーと聞いて昨日のことを思い出す。グサッとやられたな、あれは結構トラウマだ顔を引き攣らせていると。
「大丈夫ですよ、フォレストスパイダーが召喚した小グモぐらいの大きさです」
ふぅ、それなら大丈夫そうかな、数で押されたらきついけど。
「ちなみに魔力感知によると私たちが強すぎるせいかこの階層の魔物は逃げてますね」
マジか、どおりでダンジョンに入って数十分何の魔物にも出くわさないわけだ、魔物も無闇矢鱈に突っ込んでくるわけじゃないんだな。
「魔物に出くわさないとなんにもならないし、どんどん進もうか」
「分かりました!」
そして、魔物に出くわすことも無くついに五階層の休憩部屋に来てしまった。消化不良すぎる。
この休憩部屋はセーブ部屋と言うべきか魔物は入ってこないらしく、文字通り休憩するための部屋であり、どこのダンジョンにも基本的にはあるそうだ。
「ダンジョンってこんなもんなの?」
「普通はもっと出てきます!」
「だよね」
どうしたものか、これじゃただ金払って遺跡探索に来ただけだ、「んー」と頭を捻っていると。
「レイジさんは普通の人よりMPが多く、制御もいまいちなのようなので、溢れているMPを抑え込めるようになったら魔物も怯えずに出て来れなくなるんじゃないですかね?」
あー、やっぱりMP多いよね、それに溢れちゃってるの?それでこの回復量なら制御出来たらやばいのでは?レイルもずっと擬人化してるけどMP減らないし。
「そういえばレイル擬人化してるけどMP全く減ってないんだよね」
「え、そうなんですか?どおりで精体に戻らない」
本人も自覚がなかったみたいだ、これについては原因不明だな。
「それなら尚更MPを制御できるようにした方がいいですね!やってみます?」
「どうやってやるの?」
「まずは自分のMPを感じとってください!魔力感知も応用でできるようになりますよ!」
「いきなりムズいな………」
生き字引のようにほとんどなんでも知っているレイル、彼女に言われるように色々試すこと数時間経っただろうか。なんだか雰囲気でわかったような気がしてきた。
「こ、こうかな?」
「おおっ!さすがレイジさん!先程よりだいぶ抑えられています!」
できた感はあんまりなけど多分できているのだろう、MPを可視化出来たらいいんだけど、魔力感知もふんわりした感じでしか感知できないみたいだし、ないものねだりをしても仕方ないか。
『スキル、魔力制御を獲得しました』
『スキル、魔力制御により魔力感知Ⅲを使用できるようになりました』
おっ、新しいスキルも意外と簡単に取れるんだな、早速スキルを確認するためにステータス画面を展開する。
『スキル』
ソーサラーⅢ
ガンナーⅡ
マルチスキルⅤ
魔力制御
自然治癒Ⅱ
信頼Ⅲ
精霊の加護Ⅱ
しっかり魔力制御が追加されている、ついでに魔力感知も発動してみると。
「え、すご」
念じるだけでなんて言うか魔力が見えた、気の流れみたいな感じで魔力の流れというか説明が難しいが見えるのだ、魔眼でも手に入れたのか?と思うほどで、レイルを見てみるとしっかり制御されていて外にはほとんどMPは漏れておらず、また俺から少量のMPが送られているのも見えた。
「どうしました?あ、私もステータス見ていいですか?」
「あ、うん、いいよ」
わざと彼女は俺の肩に頬を乗せ無駄にくっつきながら俺のステータスを見る。
「え?多くないですか?」
「やっぱり?」
だろーなーとは薄々思っていた。
「しかも、転生してから増えてますよね?」
「ま、まあ、そうね」
こいつ気持ち悪って感じで引いた目で見られてしまう。だってねぇ、転生者補正ってやつなんじゃないの?それぐらいのハンデがないとこの世界で生きていけないと思う。
「さすがレイジさんです!」
結局そこに落ち着くのね、変に疑われなくてよかったよ。まあ、疑われたところで彼女も俺のスキルだしどえしようもないけどね。
「よし、じょあ次行こうか」
「はい!」
魔力感知も魔力制御もできるようになったし、さっさとこのダンジョンを踏破してしまおう。