第7話 強さとは
走って向かっていると木々の合間に魔物が見えた、思っていたより結構でかいぞ?それにあれは、蜘蛛か?
「あれは、フォレストスパイダーですね」
んだよ、森蜘蛛ってそのまんまだな。そんな文句を頭の中に浮かべているとこちらの存在に気がついたのか、体長約五メートルあろうかという巨体は動きを止め、六つある目がこちらを向いている気がした。
「まずいな、強さは?」
「ダークウルフよりは強いです!」
「見たらわかるよっ!」
チョロインで天然って役満だなおい、冗談じゃないだろうけどそんな悠長なことを言っている場合じゃないよ。
「えっと、スパイダー系の魔物は多少対魔法障壁を有していますので、物理が有効です。フォレストスパイダーの魔物ランクはBなので倒せないことは無いかと!」
「なるほどわかった!」
多分Bランクは普通の人からしたらどこかのボス級なんだろうけど、俺の冒険者ランクを加味したら倒せなくもないという判断なのだろう。貿易路も近いし、こんなでかいのを放っておく訳にもいかない、逃げる判断は後かな。
そして、こちらの動きに合わせて体を動かしている蜘蛛、位置は完全にバレているな、あとはこちらの動きを探っているようだ。
さて。
「雷圧縮砲!!」
ドカーーン!
「人の話聞いてました!?」
手始めにいつもの雷を圧縮した魔法を放ってみた、木々はなぎ倒され、確実に蜘蛛に命中したが雷をバチバチと纏った蜘蛛はまだ立っていた。アニメでよく見る、薄青色のハニカム構造の障壁が薄く見えたのであれで防いだのだろう。
「おーー」
「おーー、じゃないですよ!」
さすがに一撃はないか、ファンタジーっぽくて感心しているとレイルに怒られる。でもあれが俺のもてる最強の技なんだけど?火を使うにも水が使えないから延焼したら大変だし。もっと広いところに誘導するか?
どうしようかと悩んでいると、フォレストスパイダーの周囲に直径三十センチ程の魔法陣が幾つも形成されていく、おー!ファンタジーっぽい!
「召喚魔法です!」
レイルの注意喚起が終わると今度は五センチ~十センチ程の小蜘蛛の大群が現れた、親玉よりは小さいけど結構大きくてざっと数百匹、キモイ。
「キッモ!!」
「ひー!!早くどうにかしてください!」
ワラワラと後ろから結構なスピード出追いかけてくる小さくない小蜘蛛と親玉、追いつかれたらどえらい事になりそうなので風魔法で加速すると、倒れた人影が視界を掠めて行った。鎧姿だったが血溜まりが大きい、多分死んでいる。
「とりあえずこれを試すか」
手元がバチバチと光り、HK416アサルトライフルが出現、この量に実弾をつかていてはすぐに無くなってしまうので、左手に魔力で形成された弾丸か「魔弾」が装填されたマガジンを出現させ装填する、これで魔力が無くなる限り撃てるが、計画的にだ。
「無茶しないでくださいよ!」
「わかってる!前見てて」
アイアンサイト越しに引き撃ちで小蜘蛛を捉え掃射する。
バババンッ!バババンッ!
すると魔弾命中した小蜘蛛は光りになって消えてゆく、あいつはそこまで強くないみたいだ。
『レベルが8に上がりました』
『レベルが9に上がりました』
『レベルが10に上がりました』
小物とはいえあんだけ倒すとどんどんレベルが上がっていく。しかし、小蜘蛛は撃てども撃てども減っている気がしない、ていうか後ろの方で親玉が次々に召喚している。これは持久戦か?それならこっちの方がすぐにMPが無くなってしまいそうだ。
「レイル!回復薬!」
「はい!」
買っててよかったMP回復薬、頭から小瓶に入った液体を飛んでいるレイルにぶっかけられたがMPがおかげで全回復した。
「こんなじゃジリ貧だ、開けた場所まで退避する」
「わかりました!こっちです!」
前に向き直し、レイルに案内されるがまま開けた場所に向かうが、MPはどんどん減っていく。
持つかな、それよりもどうにかして一撃で親玉を倒した方がいいのでは?しかしどうやって?
頭の中でぐるぐると考えるがこっちは物理攻撃は武器がないし為す術がない、という事は魔法でごり押すしかない。
「どわっ!」
「レイジさんっ!!」
右足が何かに引っかかり顔面から地面に倒れ込むが、風魔法で激突だけは防いだ、なんだと振り向くと足首に親玉が吐いたであろう蜘蛛の糸が巻きついていた。そらゃ蜘蛛だもんな、こういうこともしてくるか。
考えている暇は無い、自身に炎を纏い蜘蛛の糸を焼き切りいざ逃げようとすると既に目の前には親玉のフォレストスパイダーが鋭い前足を挙げ、攻撃を仕掛けようとしていた。
刹那、振り下ろされる尖った前足。
グサッ。
「うぐっ……」
心臓は外れたようで間一髪即死は免れたが、腹部に激痛が走る。痛いってもんじゃない、気を抜けばあっという間に気を失いそうだ。だが、気絶している場合じゃない、絶好のチャンスだ。
激痛を我慢しながら右の手のひらをフォレストスパイダーに向け、呪文を唱える。
「雷炎爆裂砲」
ドバーンッ!
そう唱えると手のひらに二つの魔法陣がぐるぐると回りながら現れ、爆炎とともにそのまわりに雷が発生しビームというか放射がフォレストスパイダーの胴体を貫いた。
「よかった……」
思いつきの即席の魔法だが発動してよかった、遠距離攻撃が無理ならやっぱゼロ距離だよね、アニメで死ぬほど見たし。
ドサッと倒れて光になり消えてゆくフォレストスパイダー、自分の意識も光になって消えそうだ。
『レベルが20に上がりました』
「ちょっとレイジ!」
かなりテンパっているレイルがユサユサと俺を揺さぶっているのが分かる。
「何やってるのよバカ!死んじゃダメ!!」
遠のきそうな意識の中、ザバッ!と回復薬をぶっかけられる、すると段々と腹部の痛みが引いてゆく。
『スキル、自然回復を発動、回復薬との相乗効果で致命傷を即時回復します』
薄目で分かるなんだか自分が光ってる感じ、レイルは何が起こっているのか分からず唖然としているのか、微動だにしない。
すると完全に腹部の痛みはなくなり、体に力が入るようになったので上体を起こすと、風穴が空いているはずの腹部は服には穴が空いているが自分の肌が見えていた。
「おー、生きてる」
「生きてる、じゃないですよ!バカバカバカ!!」
「いてて!ごめんって!」
両手をブンブン回して結構な痛さで頭を殴られた、いや、うん、結果オーライとはいえ本当にごめん。自分でもめちゃ痛かったし軽率だったと反省してます。
「ぷんです!ぷんっ!」
また怒らせてしまった、プンスコと怒っているレイル。これは秘技を使うしかない。
「お詫びになんでも奢ってあげるから!」
ちらっと俺を見る彼女、さすがチョロインだ、靡くのが早い。
「なんでもって言いましたからね!」
ふぅ、毎回こんな感じで切り抜けられたらいいんだけどな。レイルの機嫌も取れた事だし、どっと疲れが出て再び地面に仰向けに倒れ出しまう。
「大丈夫ですか?」
「ああ、うん、大丈夫だよ」
俺の顔を覗き込むレイル、大丈夫は大丈夫だが今までにないぐらい魔力を使った。あとで一度ステータスを確認しておこう、結構レベルが上がっていたみたいだけど気にする余裕がなかった。
「心配かけちゃってごめんね」
「本当ですよもう、生きてるからいいですけど」
機嫌は治ったけどやっぱ怒ってるな、無茶は自重した方が良さそうだ。
スーッと大きく息を吸って立ち上がる。
「歩けますか?」
「うん、MPはまだある、街までは持つよ」
「無理しないでくださいね」
「ああ」
服に着いた砂を叩き落とし、フォレストスパイダーが消えた場所を見ると黒い球体がひとつ転がっていた。それを手に取り確認してみる。
「フォレストスパイダーの目ですね、換金したら結構高いと思いますよ」
「目っ」
うぇー、と思いながらレイルの空間保管で保管してもらう。ヌメヌメしてた訳じゃないけど感覚的に嫌な感じだった。
「街に帰る前にさっき見かけた遺体を拾って帰ろう」
「わかりました」
フォレストスパイダーに追われていた道を戻ると、すぐに鎧姿で横たわっている人を見つけることが出来たが俺と同じように腹部に風穴が開き既に亡くなっていた。
ギルドカードを確認するとどうやら三人パーティだったようで、レイルに精霊経由で確認してもらい捜索すると上半身と下半身が真っ二つになっている遺体、頭がない遺体をそれぞれ発見。
「…………」
「大丈夫ですか?」
「ああ」
悲しいとか気持ち悪いとかそんな感情は無かったが、なんて言うんだろう、やるせない気持ちでいっぱいになってしまった。
そして、それぞれの遺体を近くにあった大きな植物の葉っぱで包み、狩猟したヤールを回収して、木や枝を利用して簡単なソリを作り、口数少なく街に帰った。
●
『冒険者ギルド』
「遺体の回収に感謝します、確認したところ5日前に行方不明届けが出されていたパーティーと一致しました。感謝料として300ギルお納めください」
「いえ、お金が欲しくて連れてきた訳じゃないんで……」
ギルドの受付にカクカクシカジカと説明し、照合してもらうと行方不明届けが出されていたのか、ということは探している人がいたということだ、ちょっと大変だったが連れてきて正解だった。
だけど、別にお金が欲しかった訳じゃない、丁重にお断りしようとすると。
「ギルドの決まりです、探索中に死亡した冒険者の遺体は基本的に帰ってきません。なぜだか分かりますか?」
なんか諭すように質問されてしまった。
「えっと、大変だから?」
説明しづらいけど。
「大まかに言えばそうです。いい例えは1万メートル級の山で死んだ人は回収されません、余計な荷物となり自分も危険にさらされるからです」
まあ、言いたいことは分かる。遺体を運んでいて他の魔物に出くわしたら自分まで危険に晒してしまうし、そんな危険を犯すぐらいならそのまま置いて帰るだろう、今回は運が良かっただけか。
「だから基本的に遺体としては帰ってきませんし、帰ってきたとしても片身一つです。しかし今回は遺体がありますのでちゃんとした葬儀ができます、お受け取りください」
「はい、わかりました」
これ以上断るのも悪い、よっぽど遺体が帰ってくる例は少ないようなので、お言葉に甘えて麻袋に入った300ギルを受け取り、受付を後にした。
「長かったですね」
ロビーの端にある椅子で座って待っていた、擬人化したレイルに心配された。
「遺体運搬の報酬もらっちゃってね、あと別のクエストの納品も代行でやってくれるって、報酬は後日になるけど」
「そうなんですね!」
元々やってくれるのかは分からないけど納品場所は結構離れているから手間は省けて良かった。すると、座っていたレイルがひょいっと立ち上がる。
「冒険者登録してきます!」
ビシッと敬礼するレイル、してないよりしてた方がいいかと言うことで思い立ったら吉日、早速試験を受けることにした。
「うん、俺も見に行くよ」
「私の力をとくとご覧下さい!」
どっからそんな自信が出てくるのか、いつも以上に豊満な胸を反ってドヤ顔をしている。
そして、受付を済ませてギルド奥にある闘技場?につく、今回の試験内容は試験用ダークウルフの用意が間に合わないとの事で。
「簡易的ではありますが魔法障壁の貫通試験になります」
闘技場中央にいた受付の人が呪文を唱えると縦列に並んだハニカム構造の十枚の魔法障壁が出現した。これを何枚貫通できるかで、ランクを暫定的に決めるということだ。
「全て貫通させてみせます!」
すんごい自信満々、大丈夫?俺でも何枚貫通できるか分からないよ?強度分からないし。
「時間は無制限の一本勝負です、では始め」
受付の合図とともに詠唱を始めるレイル、魔法の詠唱してるのまともに見たのは初めてだ。
「水の精霊よ我に集いて力を与えよ、その集いし力を一点に集中し大いなる力を解き放たん」
なんだかそれっぽい!
一人で興奮していると障壁に向けられたレイルの右手のひらに五枚の魔法陣かゆっくり回りながら形勢されてゆく。
「圧縮水粒子砲!!」
「へ?」
バァン!
限りなく線に近い水のビーム、それが音速でも超えたのかソニックブームのようなものを放ちながらすごい速さで解き放たれ障壁に向かい一直線、パリンパリンパリンと障壁がまるでガラスのように砕け散ってゆく。
そしてあたりは霧に包まれその霧が数秒で晴れると、一枚の障壁のみ残っていた。
「なーー!!おしぃーー!自信あったのに!!」
自分の頭をわしゃわしゃと掻いたと思うと地面に膝をつき項垂れ愕然としているレイル。いや、十分な威力だと思うけど?受付の人も俺が受けた時みたいに唖然としてるし。
「わあぁ」
と、俺も唖然としていると、落ち込んだ感じでとぼとぼとこっちに向かってくる彼女。よっぽど悔しかったらしい。
「無念です」
そんなに悔しかったの?凄いと思うけど。
「そんなの撃てたんだね」
「レイジさんの雷圧縮砲を参考にしてやってみたんですけど、威力不足でした……」
ハァ……とため息を吐いている。
「いや、九枚でも十分すごいと思うけど……」
「そうですか!?」
褒めると急に元気になった、チョロインめ。
そんなこんなで彼女には暫定Cランクが与えられた、十枚撃ち抜くとBランクだったのかな?でも暫定だし今のところランクも妙に当てにならないし、俺もレイルも暫定だしまたどっかで正式な試験をしないとダメなんだろうな。
「悔しいです……」
俺より下のランクだったのが相当悔しかったのかレイルはしばらく落ち込んでいたけど、今回は俺が何かしても嫌味だし放っておくことにした。