表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第6話 余裕

 レイルに起こされることなく自分で目覚めると、今度は俺の胸の上で彼女は精体のままスヤスヤと眠っていた。

 そして感覚でわかる寝すぎた感じ、窓の外を見てみると空はオレンジがかっている、夕焼けだよね?まあいいや、とりあえず彼女を起こそう。

「レイル〜」

 つんつんと突っつきながら優しく声をかけてみると。

「ハッ!!」

 私は別に変なところで寝ていませんと言わんばかりに飛び起き空中を漂うが、彼女も感覚で寝坊を察したようで。

「寝てしまいました……」

 空中で肩を落としがっくしと項垂れている、抜けてんなーこのチョロイン、別に用がないからいいけど時間も指定してなかったし、朝にも増してシュンとしてしまっている。

「特にやることもなかったし大丈夫だよ、ゆっくりするつもりだったしね」

「すみません……」

 トホホとベッドに降りてきて膝をつき愕然としている。

「レイルは悪い子です!レイルは悪い子です!」

 とか言いながら突然ベッドの枕に額を打ち付け始めたが、ボフボフいってるし絶対痛くないだろそれ、パフォーマンスが過ぎる。

 微笑ましい様子をしばらく見ていて、ちょっとは制裁をしないとダメそうかなぁと思った俺は。

「レイル」

「なんですか?がはっ!」

 優しくデコピンをお見舞いしてあげた。が、仰け反って彼女は仰向けに倒れてしまった。およよ?

「何するんですか痛いじゃないですか!」

「あ、ごめん痛かった?優しくしたつもりだったんだけど……」

 つーーー、とおでこをさすっているレイル、力加減ミスったか?精体だし人より痛く感じるのかも?えー、どうしようとアワアワしていると。

「冗談です」

「んなっ!」

 彼女はしてやったりと言わんばかりにニンマリと笑っていた。やられた!

「そもそも精霊は物理攻撃無効です!」

「な、なんだってー!!」

 わざとらしく驚いてみせ、また得意げにフフンと胸を張っているレイル。しかし物理無効か、それは聞いてない。でもあれでしょ?魔法は倍ダメージを食らうとか。意地悪だが必要な情報だ、ちょっと試してみよう。

 パチチッ。

「いぃったっ!!何するんですかぁ!!」

「いててて、ごめんごめん!」

指先から静電気ぐらいの雷魔法を仕掛けてみると、結構痛かったみたいで鬼の形相で両手をぐるぐる回してポコポコと殴られた。

「ぷんです!ぷんっ!」

 ベッドに胡座をかき俺に背を向けてかなりご立腹なご様子、の割には体の大きさもあってやってることがめちゃくちゃ可愛いので全然怖くない。

「もう、元はと言えばレイルが悪いんだよ」

「それとこれでは訳が違いますっ!レディーにいきなり雷魔法とか聞いたことがありませんっ!」

 いやー、怒ってんなー、興味本位とはいえやりすぎたか?

「静電気だよ静電気」

「この部屋は湿度55%です!静電気は発生しませんっ!」

 なんでそんなの無駄に分かるんだよっ。

「ごめんって、夕食にパンケーキだっけ?甘いヤツご馳走してあげるから」

「パンケーキ!」

 ニコーッ!と笑ってこっちに振り返るがすぐに我に返り首を左右に大きく振ってプンプンしてる。チョロインが珍しく葛藤しているな。

「ほら、ミルクもつけるから」

「ミルク!」

 お、もう一押しか?

「フルーツもつけちゃうぞ!」

「フルーツ!」

 わぁ!と目はキラキラしていてつい一秒前までプンプンしていたのが嘘みたいだが、ギリギリ何とか我に返ったみたいで、うーんと唸りながらしばらくの葛藤の末。

「ゴホン、とりあえずお互い様ということで、パンケーキとミルク、フルーツの盛り合わせで手を打ちましょう」

 いつも通りのチョロインで安心した、結局喧嘩にはこの手に限るな。


  ●

 

 擬人化したルンルンレイルの先導の元、昨日とは違うログハウスみたいなカフェっぽいところについた。昨日通り掛かりに、美味しそうだねー、と話したところなのだけれどこんなに早く来るとは思わなかった。てか、わざわざ擬人化してるってことはたらふく食べる気満々だな?精体ならちょっとしか食べれないと思ったから、俺のを分けてあげようと思っていたのに。

「二名様ですね、窓際の席にどうぞ」

「わかりました!」

 顔が緩みまくっているレイル、二人掛けの席についてメニュー表をパラパラ捲ると彼女はすぐに注文する。

「パンケーキひとつと、ホットミルクひとつ、あとフルーツの盛り合わせをください!レイジさんは?」

「あ、えっとー、パンケーキとホットコヒー?で」

 コヒーと言うのはコーヒー的な何かかな?こんな所に激マズな飲み物とか置いてなさそうだし、これにしてみよう。

 一息ついていると、周りの席の女性たちから何となくヒソヒソ話が聞こえる。

「あの女の人スタイル良くない?」

 とか。

「美人だねあの人」

 とか。

「男の人と似つかわしくなくない?」

 とか……。

 それを聞いているであろう自称地獄耳のレイルはニヤニヤしていた。多分、守護のドレスの効果「魅了+1」が関係していると思うけど、本人が嬉しいならそれでいいか。

 ふと外を見ると日は完全に陰り、ランタンや魔法街灯に照らされている人が忙しなく歩いていて、時々レイルみたいな妖精も視界に入ったと思えばどこかに飛んでいってしまう。

 改めて見ると異世界だなー、今まで何不自由なく生活してたから完全に溶け込んでいたけど、改めて見ていると不思議な感じだ、確認のために人差し指を顔の前に出して念じてみるとボッ!とライターのように青い炎が出現した。弱い魔法なら詠唱とかも必要ないみたいだな。

 しばらく外を見てぼーっとしていると。

「むごっ!」

 レイルに人差し指で頬を突つかれた。

「どうしました?レイジさん」

「んあ、ごめんごめん、ちょっとぼーっとしちゃってたよ」

 するとなんだか両手の人差し指を合わせてツンツンするレイル、ん?と思って首を傾げると。

「……元の世界に帰りたいですか?」

 あー、その事か、彼女を不安にさせてしまったみたいだ。

 んー、と少し背伸びしながら考えすぐに返す。

「今は考えてないと言うか考えられないね、レイルに帰り方聞いたところで分からないでしょ?」

「はい、申し訳ないです……」

 別に君が責任感じなくていいのに。

「レイルもいるし帰ったりはしないよ、俺の傍に一生いてくれるんだろ?」

「はい!」

 だんだん元気になってきたレイル、素直でよろしい。

「じゃあ、もうその心配はしなくていいよ」

「はい!わかりました!」

 本当に、いい意味でチョロくて機嫌が取りやすくて助かるよ。

「お待たせしました」

 おっ、丁度注文の品が届いた。世界観に似合わず古民家カフェとかで出てきそうな見た目の美味しそうなパンケーキだ。

「美味しそう!いただきまーす!」

「うん、いただきます」

 あ、ちなみにこの世界には特定の国を除いて食事前にお祈りとかする習慣がないらしく、野営地で鹿もどきの肉を食べる時にいつもの癖でそう言うとレイルが反応し、食事前にいろんなものにありがとうを伝えるおまじないみたいな感じさ、と教えてあげるとその言葉を気に入ったみたいでそれ以来「いただきます」を使ってくれている。

「甘くておいしー!」

「そうだね」

 俺も食べると思っていた三倍は甘い、重いなーと思いながら口直しのために思った通りの黒茶色をしたコヒーを啜ると。

「ゴホッゴホッ!」

 思った十倍苦かった、コーヒーはコーヒーっぽい味なのでこれエスプレッソじゃね?それをコップ一杯とか多いなおい。

「そんなに不味かったですか?どれどれ……苦ーい……」

 見た感じ苦いの分かるだろ、彼女はうぇー、としてホットミルクをガブガブと飲んでいた。

 そんなカップルみたいなことをしながら団欒し、いい時間になったので宿に帰った。昨日の大衆食堂みたいに大声で話したりする人もいなかったし、今日の情報収穫量はゼロだけど、この街を納める弁務官?ドイツ的なこの国の行政区の長の敷地に図書館があるらしいので今度そこに行ってみようという話になった。


  ●


 翌日。

 クエストをこなすためにレイルと朝イチで街を出て、郊外の山中を散策していた。既に森の精霊に鹿もどきの生息地は聞いているのでそこに向かうだけ、途中で薬草を採取しながら歩いている。

「順調ですね!」

「そうだねぇ」

 こんな余裕ぶっこいてていいのだろうか、順調も順調で薬草もこの調子だと取れすぎてしまうので、図書館に調合表とかあれば借りてこようかな?

 学校や仕事してる訳じゃないしやりたいことが出来て、元の世界にいた時より充実している気がする。

「そろそろヤールの生息地です」

「よし、足音を立てないように」

「浮いているので大丈夫です!」

「あ、そうだったね」

 気をつけてって感じで言ったんだけど素直なレイル、そのまま捉えられてしまった、今度からちゃんと言うようにしよう。そして、茂みを音を立てないようにかき分け、獣道みたいなところに出ると早速三頭の群れというか家族というかグループがいた。

「どうします?」

 耳元で囁くなむず痒い。

「そうだねぇ、銃を使ってもいいけど状態がいい方が高く売れそうだし、雷魔法で失神させようかな」

 頭がないヤールを差し出すよりも、綺麗な状態で納品した方がもしかしたら追加報酬が貰えるかもしれない、やってみる価値はあるかもだ。

「わかりました!では私にお任せ下さい!」

「え?大丈夫?」

 レイルが狩猟?いきなり?大丈夫?別に信用してないことは無いけど、不安や心配が勝ってしまう。やりたいならやらすけど大丈夫かな?

「はい、レイジさんの精霊なので」

「どんな自信だよ」

 ちょっと鼻で笑ってしまったが、彼女は「行ってきます!」と言って黄色っぽいポヤポヤに変身すると、ヤールの所に漂って行き。

するとちょっと強めな「パチン!」って音がしたと思うと二頭のヤールがドサッとその場に倒れた。

「ほえ?」

 どゆこと?と考えていると。

「終わりました!」

 ふぁ~と戻ってくるや否やボンッ!と精体に変身しドヤァ!といつものように胸を反るレイル。何がどうなってるんだってばよ?

 首を傾げていると。

「あ、魔法はイメージって言うじゃないですか、だからレイジさんに電撃を食らったおかげで簡単な雷魔法が使えるようになりました!なので、ちょっとお試しでやってみたらいけましたね」

「え?そんな簡単に?」

 いくら魔法はイメージとはいえそんな簡単に習得できるものなの?水なんていくらでもイメージできるけど、俺全然水魔法使えないよ?

「精霊なので!」

 ドヤァ!

 まあ、精霊には精霊の魔法補正があってもおかしくはないか、彼女がどんなスキルを持っているのかは全然分からないけど、そういうことにしておこう。

「そ、そっかぁ。とりあえず、クエストはこれで終わりだから日は高いけど納品しに帰ろうか」

「はい!余裕でしたね!」

「そうだね」

 まだ昼前、こんな余裕でいいのかな、レイルがいるおかげでヌルゲーな気もするけど、まだまだ中ボスがどんなのかも全然分からない、油断だけはしないでおこう。

 そして、失神と言うか多分死んでるヤールを担いで帰る訳にもいかないので、風魔法で宙に浮かせて街に向けて帰っていると。

 ドンッ……。

 と地面が揺れた気がしたと思うと、森の中にいたであろう小鳥たちがバサバサバサと飛び立って行った。

「魔物の気配がします」

「そうだね、どうしよっか」

 オオカミの魔物とは比べ物にならない気配がゆっくりだがだんだん近づいてきていて、地面の揺れも大きくなってくる。

「レイジさんに任せます!」

 たまには意見して欲しいものだ。

「確認に行こう」

「わかりました!」

 また誰かが魔物に追われていたらいけないし、無理なら逃げればいい、距離も近そうだし俺たちは何の魔物なのか確認に向かうことにし、MP消費を抑えるため走って現場に向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ