第5話 初めてのクエスト受注
宿への帰り際にまだ営業していた服屋に寄り、自分とレイルの麻っぽい何かで出来た簡素な寝間着(二着で70ギル)を買って来て、宿に着くとそれに着替えて意外とふかふかなベッドでゆっくりしていた。
レイルも俺の顔の横でくつろいでいて、タンクトップとショートパンツの寝間着なのでいくら小さな精体とはいえ目線は気にしてしまう。
「明日はどうします?」
うつ伏せで脚をパタパタさせながら俺の方をニコッと笑いながら見てくれるレイル、んー、そうだなぁ。この世界のだいたいの物の値段はわかったから(1ギルが100~200円の間)、買い出しかな。
「とりあえず買い出しかな、防具とか揃えたいし。ああ、あとダークウルフの角もギルドで換金したりしたいね。明後日にはクエストもやってみたいから、明日は買い物したらゆっくりしよう」
「そうですね!分かりました!」
元気があってよろしい、フンフンと鼻歌を歌いながら脚をパタつかせ首を左右に振っているレイル、なんかやけに上機嫌だな。
「なんでそんなに楽しそうなの?」
俺が楽しくない訳では無いが気になったので聞いてみた。
「楽しいからですよ、スキル『精霊の加護』は所持者にとってもランダムですが、私たち精霊にとってもランダムです。いい噂もあれば悪い噂もあるわけですので、そりゃレイジさんに会うまでは緊張しました」
ああそうなんだ、てっきり精霊の方が所持者を勝手に選んでいるものだと思っていた。うんうんと相槌を打ちながら聞き入る。
「そしたらですよ、レイジさんめちゃくちゃ強者ですし、私に対するリスペクトも忘れない、ていうか優しすぎます!私からしたら当たりです、大当たり!」
そうなの?てか、他の精霊どんな仕打ちを受けてるんだよ。でも、よく考えたら来たくて異世界に来た人とかそんなにいないだろうし、転生者に必須のスキルだったら八つ当たりとかで無下に扱われてもおかしくないか。
「私なんかただ元気が取り柄で時々抜けてて、役に立ってるかどうか分かりませんけど……」
脚のパタパタを止めて急に落ち込むレイル、ちょっとちょっと、君は元気が取り柄なんだからさ。
「俺もレイルが俺の精霊で良かったと思ってるよ、元気いっぱいだし、情報通だし、めちゃくちゃ頼りになってる、それに可愛いしね」
ニッと笑うと彼女は頬を赤くして視線を逸らし、体を反対側に向けてしまった。ポヤポヤには戻らないんだな。
「きょ、今日は疲れたので寝ますね!お、おやすみなさい、です!」
チョロインめ、照れ隠しかな?まあいい、俺も眠たいし寝るとしよう。
「うん、おやすみ」
暖炉とロウソクの火を風魔法を使って消し、長い一日が終わった。
●
チュンチュン。
「んー……」
小鳥のさえずり、いわゆる朝チュンで目覚めるなんてなんて爽快なんだ、雨戸の隙間から陽の光が差し込みぼんやり明るい部屋で目を開けると、美少女が俺の手を握ってスヤスヤと寝ていた、鼻息が俺の頬に当たっている。
「!!??」
一瞬心臓が止まりかけだがよく見るとレイルだった、いやなんで?どうして擬人化してるの?てかどうやって?
慌ててステータスを確認すると残りMPは20しかない、買い物しかしないにしても心もとなさすぎる。
「ちょっと!レイル、起きて!」
「んー……、あとちょっと……」
「ちょちょちょちょっ!!」
寝ぼけてるのか脚を絡めてきた、スベスベで肌触りがとても良くて……じゃなくて!
「起きて!」
「ほえ?」
肩を揺さぶって無理やり起こした。
「あ、レイジさんおはようございます。今日の天気も良さそう……で……」
寝ぼけ眼を擦って起き上がり横座りをしているレイル、だんだん目が覚めてきたのかめちゃくちゃ肌けていて、お腹も胸の谷間も丸見えな自分の姿を見て顔を赤くする。
「変態!」
「どほっ!なんでぇ!」
枕で顔面を思いっきり殴られた、ナイフとかじゃなくて枕でとりあえずよかった。
「あれ?なんで私擬人化してるんですか?」
「俺が聞きたいよ!」
すると今度は両手で胸元を隠しぷくーと頬を膨らます。
「言っとくけど触ってないから!」
もうなんで朝からこんな、ただでさえMPがギリギリなのに疲れさせないでくれ。
そして、色々と落ち着いたレイルに事の顛末を説明すると、ボンッ!と精体に戻り土下座された。
「申し訳ないです!レイジさんの大切なMPを、私寝ぼけててどうやら勝手に……」
スキル保持者のMPを勝手に吸い取るスキルがあってたまるか、今日はまだいいけどいざと言う時にこんなことされると生死に関わる、滾々と説教すると今にも泣きそうなぐらいシュンとしてしまった。言いすぎたかな?
「でも、可愛かったから今日は許す。以後気をつけるように」
俺って甘いなぁ。
「はい!気をつけます!」
まあ、元気を取り戻してくれて良かったニッコニコで俺の腕に抱きついてきて。
「今度このようなことがあったら、寝ている間なら私のどこでも触っていいです!」
「触らないよ!」
自分への戒めなのかもしれないけどさ、それってどうなのさ。
「いえ!私が私を許せません!」
「自分を安売りするな!」
「しかしですね、私はスキルなのでレイジさんとは一心同体というわけで……!」
あー朝から疲れる。こうも朝から元気だと大変だな、でも、疲れるけどなんだか楽しい、自分の口元が緩んでいるのもわかるしこれはこれでいいか。
●
朝市で買ったサンドウィッチ風な食べ物を買い、街を散策しながらそれを食べダークウルフの角の換金のためにギルドに向かっていた。
「なんかパサつかない?」
「そうですか?普通ですよ」
日本基準だとダメか、昔のパンはめちゃ固かったとか言うし高望みは禁物だな、1ボックス2ギルで安かったし。
「ところでさっき言ってた一心同体ってどういうこと?」
宿で聞きそびれたことを今聞いてみる、一応聞き流せれるような内容じゃなかったから。その質問にレイルは相変わらず俺の肩で脚をパタつかせ、最後のサンドイッチの一欠片を頬張りモグモグしながら話す。
「そのままです、レイジさんが死ぬと私も死にます」
「え、解放とかされないの?」
「されませんよ?」
え、そんなさも同然みたいにサラッと言われても。
「なので、レイジさんはできるだけ長生きしてください!」
キュルンとウインクをされた、かわいい。
しかし、ちょっと困りはしないけど困ったなー(語彙力)。
「あ、ちょっと違いますね。正確に言えば前も言いましたが私は精神生命体なのでこの体は死にはしますけど魂は死にません、なのであまり深くお考えにならなくても大丈夫です!」
困った顔をしていると付け加えられたが、そう言われてもなぁ、言いたいことはなんとなくわかるけど心の整理がというかなんというかだ。
「な、なるべく長生きするよ」
「はい!!」
とりあえず今回はこれでいいか、レイルの言う通り今深く考えても自分がどうにか問題じゃないだろうし。
そうこうしていたらギルドについたので、昨日とは違う換金専門の窓口に行き、ダークウルフの角を六つ差し出す。
「換金お願いします」
「…………ダークウルフの角が、六つですか…………」
換金のお姉さん、なんか困ってる。
「ギルドカードをお返しします、鑑定作業がありますので、お呼び出ししますのでギルド内にてお待ちください」
「あ、はい」
六つも一気に持っこられることが多くないのか、それとも偽物と疑われているのか、まあなんにせよ鑑定には時間がかかりそうだから待つしかない。ついでに明日やる予定のクエストの確認でもしておくか。
レイルと手分けして掲示板のクエストを眺めていると。
「良さそうなのありましたよ!」
早速レイルが貼ってあったクエストを持ってきた。
どれどれ。
狩猟依頼
成体ヤール二頭の狩猟(オスメス問わず)
報酬1000ギル
納品方法、屠殺し加工可、そのままでも可
納品場所、ドークの精肉店
「ヤールというのはこの前銃で倒した野生動物のことです!」
おぉいいじゃん、しかもあの肉ってそんな高いの!?今の俺達にはもってこいなちょうどいいクエストだ、どうせなら魔物の討伐とかやってみたかったけど、こっちの方が安全そうだし、初めてのクエストにはもってこいかな。
するとレイルが耳打ちしてくる、吐息が耳に当たってむず痒かったが我慢して。
「森の精霊に聞くと生息地もすぐ分かりますよ」
「おおお、レイル、お主も悪よのぅ」
「へへへ、レイジさんほどでは」
なんでこのネタ通用するんだよ、俺の頭ん中見てんな?
とか思っていると次は薬草採取のクエストをすかさず持ってきた。
回復薬草3キロの納品か、報酬は300ギルとそんなに多くは無いけど。
「森の精霊に聞けば薬草の分布地も分かりますよ」
ニヤリ。悪いなーこの精霊、こんなの狩猟と採取だけで丸儲けじゃん。
「とりあえず手始めにこの二つを受けておこうか」
途中で魔物も出てくるだろうし、自称ルーキーにはこれで十分。まずは様子見だ。
「取られちゃいけないので受注してきます!」
「あ、うん」
いやー、すごい速さで受付にすっ飛んで行った。ギルドカード持ってないけど大丈夫か?不安なので後を追うと案の定門前払いされていて受付と揉めていた。なにしてんだか、改めて俺がクエストを受注する。
レイルも冒険者登録しといた方がいいのかなぁ、擬人化した状態で行動することも今後有り得るだろうし、その方が無難か?まあ、早くても明後日だな。
「レイルも冒険者登録した方がいいね」
「そうですね、ここのギルドは融通が効きませんっ!」
怒ってる、私は冒険者ランクBの仲間の精霊なんですけど!とか傍から聞いたら訳の分からない怒り方してたけどね。
「アンサラーさん、精算が出来ました、換金受付へお越しください」
「……あ、俺か」
アンサラーって苗字なの忘れてた、慌てて換金受付に行くと、アイテムの換金率等について説明された。
「角は本物で間違いありませんでした、そのうちコモンの角が四つ、レアの角が二つでした。コモンが250ギル、レアが1000ギル、合計で3000ギルになります」
「へ?」
高くない?
でも断るものでも無いので、ずっしりジャラジャラと重い硬貨の入った布袋を受け取り、レイルに渡して『空間保管』に入れて置いてもらう。
さて、防具屋にでもいこうかな。
「思ったより高かったですね!」
相も変わらず俺の肩にいるレイル、思ったよりというかだいぶ高い、何もしなくても一ヶ月はここで暮らせるよ。
クエスト云々よりダークウルフだけ討伐してたらいいじゃないかと思うほどだ。でも、それだとゲームバランス的におかしいから数が減ったりするんだろうな。
しかし、この臨時収入のおかげで少しいい防具が買えそうだ、レイルの防具も買いたかったのでちょうどいい。
「レイルの防具も買いたいからそろそろ擬人化してて」
「え、いいんですか!?嬉しいです!」
そして、MPを送るとキラキラと光って俺よりちょっとだけ背の高い人の姿になった。歩いていたらMPはちょっとは回復したし、防具屋にいるぐらいなら何とか持つだろう。
服もいろんなところが溢れだしそうな布切れ一枚だから、なにか買わないといけないな。
●
今は防具屋についていろいろと物色している。
さすが最初の街と言うだけあって大したものが全然ない!ちょっといい防具も鉱物や採取品と交換なのでバランス調整ができすぎている。
とりあえず今使えそうないいものは。
「魔力の革手袋」魔法攻撃力+5 200ギル
「魔力の腕輪」MP最大値+20 500ギル
「生命の指輪」HP自然回復量+1 100ギル
「革の靴」疲労軽減 100ギル
んー、微妙!強いて言うなら魔力の腕輪がいいかなぁぐらいだ、あとはおまけ程度。
そしてレイル用に。
「守護のドレス」索敵範囲+5 魅了+1 1000ギル
「守護のソックス」防御力+2 100ギル
「魔力の腕輪」MP最大値+20 500ギル
「革のロングブーツ」疲労軽減 150ギル
以上を購入した。
守護のドレスは高いだけあってとても可愛らしく、青基調で胸元ガッツリ開いてるし変にスリットが入っているので黒色のニーソックスというのだろうか、魅惑的な脚をそれでちょっとでも隠してもらっているが、俗に言う絶対領域が出来上がってしまってこれはこれでどうなんだ?という感じだ。しかし、布切れ一枚より相当こっちの方が似合っているし、魅了+1のせいかな、余計に魅惑的に感じるのは気のせいということにしておこう。
「ありがとうございます!一生大事にします!」
防具屋を出ると擬人化したまま俺の腕に抱きついてくるレイル、ドレス越しに大きくて柔らかいものに腕が包まれているが気にしたら負けだ。
「機能によって買い換えると思うから一生は言い過ぎだよ」
次の街に行ったら大概これよりいいのが売ってるだろうし、普通は買い換えるよね。
「一生大事にします!ね?」
圧が凄かったのでこれ以上は言わないようにしよう。
「腕輪はお揃いですね!」
「うん、嫌じゃなかった?」
一生を共に過ごすんだったら初めてのプレゼントぐらいお揃いがあってもいいかなと思ったんだけど、時期尚早じゃなかったかな?
「とんでもない!凄く嬉しいです!」
「それならよかったよ」
俺の腕に抱きついたまま、右腕に着けた腕輪をずっと眺めているレイル。うーん、可愛いなぁと思っているとどっと疲れが出てきた。
「ごめん、そろそろ戻ってくれるかな」
「あ!すみません気が付かなくて!」
ボンッ!彼女は衣装はそのままに精体に戻った。へー、そのままとかありなんだ、確かに寝間着も着たまま擬人化してたしそこら辺は体に合わせてサイズが変わるのだろう。
「宿に戻りますか?」
「そうだね、ちょっと休憩しよう」
今度はレイルは俺の肩に座ることなく、俺の少し前を飛んで宿に戻った。
●
宿に着くと今のステータスを確認しておく。
『ステータス』
Lv.7
HP60
MP150+20
『装備補正』
魔法攻撃力+5
HP自然回復量+1
『スキル』
ソーサラーⅢ
ガンナーⅡ
マルチスキルⅤ
自然治癒Ⅱ
信頼Ⅲ
精霊の加護Ⅱ
確実にレベルは上がっているな。
ステータス画面を閉じて、ベッドに横になる。
防具屋に魔力回復系の防具とかあればよかったんだけど、まだなかったからなぁ。アイテム屋に行ってポーションとか買ってもいいけどなんかもったいないし、とりあえず今日は寝て我慢だ。
「すみません、私のせいで……」
シュンとしてしまってるレイル、君のせいと言えば君のせいだけど、反省しているなら気にしなくてもいい。
「今日は許したから気にしなくていいよ、少し寝るからいい時間に起こしてよ」
「わかりました」
そうしているとちょうど酷い睡魔が来たので、目を閉じるとあっという間に寝てしまった。寝れば回復するのはいいけど、MPの取扱量に早く慣れないとな。