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第4話 過剰評価

ドカーーーン!


【スキル『ソーサラー』がレベルⅢになりました】

 

 ガタガタと揺れる地面に屋根がズレたようにホコリが落ちてくる建物。範囲攻撃の「雷嵐(サンダーストーム)」を圧縮して「雷圧縮砲(サンダーショット)」みたいな感じで、なかなかに厨二病っぽく放ってみたら思いの他威力がすごくて、魔物は檻ごと消し飛んでしまった。

 ポツンと角だけが地面に転がっている。

「あ、やりすぎた……」

《さすがレイジさん!!》

 テンションが上がっている人が約一名いるが、俺は冷や汗ものだ、やっべどうしよっ……。恐る恐る受付の人に視線をやると開いた口が塞がらない様で、口をあんぐりと開けたまま動かない。

 落ち着いた受付によると、とりあえずここではこれ以上の試験ができないということで暫定ではあるが冒険者ランクBを得ることが出来た、全体的なランクが上なのか下なのかはよく分からないけど。

 試験会場を出て、なんだかざわついているロビーでシドさんたちを見つけて駆け寄ると。

「もしかしてさっきの揺れはお前か?」

 ちょっと顔が引きつっている、無理もない。

「えっと、やりすぎました」

 経緯をかくかくしかじかと簡単に説明すると。

「「ここのダークウルフを消し飛ばした!?」」

「声が大きいですよ!」

 シドさんとレミさんは絶叫し、リグルアは目を点にしていた。

「ここのダークウルフは野生のダークウルフより試験用に訓練されていてかなり強い方だぞ、魔法も使ってくるしな、それを消し飛ばした!?」

 凄いより恐ろしいが勝ってる青ざめた表情のシド、ほんと自分でもそう思う。

「で、冒険者ランクは?」

 一方興味津々なレミさん、目がキラキラしている。

「とりあえず暫定でBです」

 はい、とカード型の身分証を見せると。

「俺より上かよっ!」

 腰を抜かしてしまうシド。え、シドってCランクなの?それでまあまあ名の知れるってことはBランクって有名人になってしまうんじゃ……。レイルの口車に乗ってしまってマジでやりすぎたか?

「まあそうだよなー、野生のダークウルフの群れも瞬殺だもんなー、強いとはいえ一匹のダークウルフなんて楽勝かぁー」

 なんかブツブツ言いながらしゃがんで床に人差し指で絵を描こうとしている。なんかすいません。

「ほら!やっぱりパーティーに迎えるべきだって!Bランクの冒険者なんでここら辺じゃ滅多にお目にかかれないよ!」

 これは有名人コース待ったナシだな、街を移動するべき?早速?嫌だなー。とか考えていたら、気がつくと俺の右手はレミさんの大きな胸を揉んでいた。

「ねっ、レイジくん!今なら私のおっぱい揉み放題つき!」

「何してるんですか!!」

 慌てて手を振りほどくとレイルの無言の圧を感じた。ちょっとマシュマロの余韻に浸りたかったけどそんな場合じゃない。

「いや、レミ、俺らは淫乱パーティーじゃねぇ。それに、こいつは俺らなんかと一緒にいるべき存在じゃない……もっとでかい組織に入るべきだ……」

「でもさ」

「諦めろ……」

「……うん」

 勝手に折れてくれたようでよかった、なんだかお通夜みたいで心苦しいけど。

 するとシドは吹っ切れたようにスタッ!と立ち上がり腰袋をゴソゴソしている。

「さて、話を変えて。ほらよ、今回の報酬だ」

「え?うわっ!」

 ジャラジャラジャラと結構な量の硬貨の入った布袋を渡された。え?どういうこと?と首を傾げていると。

「お前が居なかったら俺らは今頃お陀仏だ、2000ギルある、お前にやるよ」

 ギルと言うのはこの世界の通過の単位だろうか、多いか少ないかは別として。彼らの今回の物品輸送の報酬だと思う、それを全額?受け取れない。

「困りますよ!」

 確かに今は一文無しだしお金はいくらあっても足りないが、それは絶対彼らも同じだ。何とか返そうとするも彼は拒む。

「いいだろ、男にはカッコつけたい時だってある。お前みたいに無駄に雷を纏ったりしてな」

「うっ……」

 ありゃ、演出ってバレてたのか、今になってめちゃ恥ずかしくなってきた。

「では、お言葉に甘えて……」

 渋々受け取ると彼は俺の頭をポンポンと優しく叩いた。

「これで貸し借りなしだ。それと、困ったら何時でも俺らを頼れ、いつでもパーティーに入れてやるし、多少なりとも力になれるはずだ。その代わり俺らも助けてくれよな、持ちつ持たれつだ」

 ニッと彼はかっこよく笑う。

「分かりました」

 この縁は大切にしておこう無下にするものじゃない、時々クエストを同行するぐらいはしてもいいかもな。そうして、俺とジルはコツンと拳を合わせた。

「じゃ、俺らは次のクエストがあるからよ、明日朝イチで出発してしばらくこの街を離れるがすぐ戻る、無理するなよ」

「頑張りますね、俺も当分はこの街にいるつもりなので、何かあったらよろしくお願いします」

「ああ、当然だ」

男の友情が芽生える瞬間かな、二回りは歳が離れていると思うけど気にすることじゃない。

「じゃあ、体に気をつけろよ」

「はい、シドたちもダークウルフに絡まれないようにしてくださいね」

「うるせぇ!」

 彼はガハハハと笑い三人で街の方へ消えていってしまった。まあ、すぐ会えるだろう。


   ●


 さてと。

 宿はどうしようかな?今から探して空いてるものなのかな?

《ギルドに聞いてみてはどうでしょう?》

「ああ、そうだね」

 自分で探すよりそれが確実か、提携宿とかありそうだし。

 ギルドの中に戻って、なんだか怯えているさっきの受付に聞いてみると提携宿の地図を渡された、歩いて十分ぐらいか、素泊まりだが冒険者は少し安くなるとか。

「ここでいいかな」

《他になさそうですもんね》

 とりあえず、ギルドから出て歩いて宿に向かうと、案外早く宿に着いた。少し寂れてはいるがアニメで見たまんまのレンガ造りの二階建ての宿だ。

 恐る恐る中に入ると、これまたアニメでよく見るスキンヘッドの性格悪そうなふてぶてしいおっちゃんが店番をしていた。

「ギルドの紹介で来たんだが」

 ここは変に下手に出ると足元を見られかねない、あえて余裕を持った感じて上から話しかけると。

「あ?冒険者?ギルドカードを確認しても?」

 身分を確認されるのは当然か、さっき貰ったばかりの真新しいカードを見せると、目の色が変わった。

「Bランクの冒険者様でしたか!これは失礼をしました!」

 現金なヤツ、絵に書いたような手のひら返しだ。

「当宿舎にBランクの方が泊まるのは数十年ぶりでして、至らないこともあると思いますがご容赦ください」

 え?Bランクってそんなに人数少ないの?それともこの街にたまたま居ないだけ?どうしよう本格的にまずいぞ、レイルとのんびり暮らす予定だったのに。

「201号室をお使いください、料金に関しては割引込みで十日で500ギルになります。素泊まりのプランになりますが、ご用命があれば格安で朝夕食はお付けしますので半日前までにお申し付けください」

 へぇ、至れり尽くせりじゃん。

「そう、ありがとう」

 とすまし顔で前払いの料金を支払い、部屋の鍵を受け取り二階に上がると奥の方に201号室があった。

 ワクワクしながら開けてみると、入ってすぐのところに簡素な台所、排気口もあるので火も使えそうだ。そして奥に行くと謎にキングサイズぐらいあるベッドがひとつに大きな暖炉、二人掛けのダイニングテーブルまである。

 一人にはあまりにも広すぎる!

《ちょっと!私もいますよ!》

ボンッ!と精体化して、「ひろーい!」と部屋を飛び回るレイル、可愛いなぁと思いつつ、ロウソクと暖炉に魔法で火をつける。この世界に電気とかは普及して無さそうだしこの薄暗さに慣れるしかないな。

 ふぅ、疲れたーとベッドに座るとレイルは一通り飛び回ると、俺の肩にちょこんと座る。

「娼婦街なんてふしだらなところ行っちゃダメですよ!」

「何さいきなり、行かないよ、あれはシドの悪い冗談だって」

「そうですかー?男の人はそういうものだと聞いてます」

「誰に聞いたんだよ」

「いろいろです!レミさんに鼻の下伸ばしてたじゃないですか!」

「伸ばしてないよ!」

 ぷくーっと小さい頬を膨らませているレイル、何に嫉妬してるんだか、可愛いなぁ。チョロイン枠の方だからちょっといじってみるか。

「レイルがいれば俺は十分さ」

 ドヤッ、とキメ顔をしてみると、彼女は顔を真っ赤にしたと思うとポンッ!ポヤポヤに戻ってしまった。照れ隠しだろうけど真っ赤になったポヤポヤは全然隠しきれていない。本当にチョロインだな、扱いが楽で安心するよ。まあそれに嘘では無いし、俺としても罪悪感はそんなにない。

《愛の告白だなんでそんな、まだ心の準備が、それに私はイチスキルですし精霊ですし…………》

 念話でブツブツ言うな、丸聞こえだよ。

「あ、そうだ、体を綺麗にする魔法教えてよ」

 寝るにはまだ早いし、疲れたし今日は外食にしよう。それまで時間もあるので聞いてみると。

 ボンッ!

 彼女は精体に戻ると。

「いいですよ!」

 いつもの得意げな顔に戻っていた。

「水魔法が使えれば楽なのですが、レイジさんは今のところ使えないので、火魔法と風魔法を応用します!」

「ほうほう」

 それから小一時間、二人でああでもないこうでもないと教わっていると、なんとか物にすることが出来た。

浄化(クリーン)

 単に唱えるだけで体の周りがキラキラと光り、頭のベタつきや汗臭さまで消えていく感じがした。


【「浄化魔法」を習得しました】


 浄化魔法?もしかしてアンデッドとかに効いたりする?まあ今はいいや。 

「おお!なんか綺麗になった気がする!」

「さすがレイジさん!習得には普通何週間かかかるのに、たった一時間で!」

 そうなの?尊敬の眼差しで見つめてくるレイル。まっ、習得できたし問題ないか、これで不快な頭皮の痒みともおさらばだ。

「でも、魔法で綺麗になるとしても風呂には入りたいよなぁ」

 日本人の性、物理的に綺麗になっているんだろうけど、お風呂に入らないと本当に綺麗になってるのか信じられない、自分で洗ってこそで、贅沢に湯船に浸かりたい。

「風呂?水浴び的な何かですか?」

「え、いや、なんて言うかな……」

 どうやらこの世界に入浴という習慣はあまりないようで、一般人は水浴びや濡れた布で体を拭くのが普通。貴族でも水浴びや浄化魔法で体を清めたりするのが普通で、余程好きな人じゃないと浴場で湯船に浸かるなんてことはしないらしい。

「へぇ、娯楽の少ない世界だな」

「入浴って娯楽なんですか?」

 ノンノンノン、レイルはわかってないなぁ。

「今度試してみようか」

「是非!!」

 精霊体だとお椀にお湯を張れば簡単に用意できるだろう、明日にでもお風呂の楽しさを教え込ませてやるとしよう。

「じゃ、食事に行こうか」

「はい!近くにギルド提携の食堂があるみたいですよ」

「とりあえずそこに行ってみよう」

「はい!」


   ●


 時間的には夜8時ぐらいだろうか、宿に入る前に比べたら人通りが多い気がするし、なんか人じゃない人も多い気がする。

《魔人や魔族、獣人、人間以外にもこの街には結構いますね》

 なんか地面から浮いて移動している人もいるし。ザ・獣人、ライオンみたいな顔をしていてモフモフの体毛を纏った人、ゴブリンみたいなへなちょこそうな奴まで多種多様な人型が歩いている。

「普通な街でもこんな感じ?」

《ここは特殊ですね》

 んー、どういうことだってばよ。

 するとレイルはボンッ!とポヤポヤから精体化に変身して俺の肩に座る。

「どうしたの?」

「この街には妖精の類の小人が結構いるみたいなんで、ほらあそことか」

 レイルの指さす方向を見ると、確かに数体の妖精みたいな人が飛び回りながらどこかへ飛んでいっている。

「この姿を現してても怪しまれないかなと思いまして!」

 あー、まぁ。

「レイルがいいならいいけど?」

「はい!まずかったら精霊に戻ります!」

 本人がこの状態がいいなら別に止めることもない、俺の肩に座り両足をパタパタさせてなんだか楽しそうだし。

 そして、そのままレイルを肩に乗せたままギルド提携のいかにもな大衆食堂に入り、5ギルのハンバーガーっぽいセットの食事を頼んで食べているとと、周りの話などでこの街の状況が何となくわかってきた。別に盗み聞きした訳では無い、聞こえちゃったのだ。レイルも耳がいいみたいだし。

 どうやらこの世界は四大魔王が支配する魔物中心の魔国が四ヶ国と、人が支配する人中心の王国や帝国、共和国などが十数ヶ国程存在していて。位置関係などはよく分からないがこの地域は「魔王リーシェ」が支配する『ツェントルム魔帝国』の端にあるらしい。ツェントルムと言うだけあって真ん中にあったりするのな?まぁそれは置いといて。

 まさかの魔王の支配地域に転生してしまった、話によると単純に魔王対人間が争っているという感じではないらしい、確かに魔王と人間も争っているが、魔王と魔王、人間と人間も争っていて戦争が耐えないとか。どこの世界も同じだな。

 ひとつ良かったのは人間の勇者が一人の魔王に立ち向かい世界を解放する!というシナリオは無いということ、魔王四人もいるしね。人間と友好的な魔王もいるみたいだし、ここの支配者、魔王リーシェとかは案外友好的で敵対しない限り出入りは自由、だから街にも多くの人間や魔物が出入りしているらしい。万が一敵対しても瞬殺されるって噂らしいけど。

「どうしたものかねぇ」

 食べ終わって悩んでいると、レイルがすかさず飛んできてナプキンで口元を拭いてくれる。

「ありがとう」

「お易い御用です!……ここの魔王は人間には友好的みたいですし、急いでどこかに行かなくてもいいのでは?人間の住む国がご希望でしたら反対はしませんが」

 んー、魔王領に転生するのは予想外だったが、別に人間の国にわざわざ行かなくてもいいような気もする。行ったところでにも変わらないだろうし、それよりも。

「レイルは人間の国よりこっちの方が生活はしやすいだろ?」

 ポヤポヤから精霊体になってるし、いくら精霊体の姿が一般人に見えないからと言っても見える人には見えるというし、その姿の方が生きやすいのかもしれない。

「そうですね……、気を使って隠れたりしなくていい分、幾らかこの街の方が生活しやすいですが、これは私のわがままなので……」

「じゃあ、当分はこの街にいるよ」

「いえ、私はスキルなので……」

「もう決めたから気にしないで」

 ニマッと笑ってみせるとレイルは困った顔を緩め、笑顔になると俺の頬に向かって飛んできて。

「ありがとうございます!」

 とスベスベの肌で頬擦りしてきた、何だ何だ、可愛いヤツめ。

「よし、情報も手に入って、たらふく食べたし帰るか」

「はい!」

 レイルはまた俺の肩に座ると、細くて長い脚をさっきより一段とバタバタさせて嬉しそうにしていた。

 

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