第3話 初めての街へ
スドーーーン!!
勢い余って激しく着地してしまい、剣を構えていたソルジャーの男性は尻もちを着いていた。雷のエフェクト付きなので多分恐らく彼らには相当かっこよく映っていると思う。
「な、なんだ!?」
百点満点な反応、呆気にとられている間に魔物を始末する。
「助太刀します」
なんか違ったかな?まあいいや、俺は両手を俺に向かって襲いかかってきている魔物に向けると間髪入れずに詠唱する。
「ファイア!サンダー!」
両手から放たれた火球と雷撃がダークウルフを襲い、一秒もしない間に魔物は倒れ、光となって消えてしまった。うん、我ながら強すぎる。
「おっと……」
と思ったが、さすがに魔法を使いすぎたか、体が一気に脱力し地面に膝を付いてしまった。ちょっと情けなかったか、MPを確認すると残り10しかない。
『レベルが7に上がりました』
レベルが上がるのは早いみたいだな、でもMPが回復した感じはしない。まさかレベルが上がっても上限が上がるだけで回復はしないタイプのやつか、クソ仕様だな。
ハァハァと息を整えていると後ろで尻もちを着いていたはずのソルジャーが手を伸ばしてくれていた。
「大丈夫か?お前のおかげで助かったぜ」
俺はその手を取りゆっくりと立ち上がる、お前なんか居なくても俺らでどうにかできたとか言われなくてまずは良かったな。
「いえ、お節介じゃなくて良かったです」
「お節介じゃねぇよ、命の恩人だ。それにダークウルフを一撃なんて恐れ入ったぜ」
あー、やっぱりあのオオカミはそれなりに強いんだな。レイルの言っていた四匹は普通相手にしないのは正しいようだ、油断しないようにしておこう。
「俺はソルジャーのシド、このパーティーのリーダーだ。こいつはアサシンのレミ、後ろの魔法使いがリグルアだ」
「ありがとう、助かったよ」
レミという人は茶褐色のショートヘアで活発な女性と言った感じで、見えるところは見えている簡素な防具を身につけていてそんなので守れているのかと心配になりそう。魔法使いのリグルアという人は絵に書いたような陰キャみたいな感じで、紺色のロングヘア、青い瞳はちょっと目を合わせると顔を伏せてしまいちょこんとお辞儀だけされた、名前的に女性なのかな?年は雰囲気ではそんなにいっていなさそうだ。
「俺はレイジです」
レイルの紹介もした方がいいのかなと考えたが《とりあえずは信頼できる人のみにお願いします》と念話で釘を刺されたので今回は見送った。
「レイジか、この辺では見ない也だが冒険者か?」
確かにシドさんと俺の服装は若干違う、まあ、俺の服装が簡素なだけでシドさんたちがフル装備なだけだとも思うけど。
「冒険者と言いますか、迷子と言いますか……」
えっとー、と濁していると。
「その強さで迷子?ハハハッ!笑わせてくれるぜ」
結構失礼なぐらいドカ笑いしてくれるし、レミさんもくすくすと笑っている。結構というかもはや失礼だ!
「ちなみにどこに行く途中で迷子になたんだ?」
笑いを堪えながら一応聞いてくれる。
「ヤーティクルという街に…………」
そういうと彼らは目を合わす、なんかまずいこと言ったかな?ヒヤヒヤしていると、三人は何やらアイコンタクトをしている。俺どうなっちゃうの!?
「俺らもヤーティクルに行く途中だ、なんなら一緒に来るか?」
「え!いいんですか!?」
ラッキー!!さすがはラノベでよく見た展開!この人たちを助けて正解だった。
「でもな、荷車が壊れてしまってよ、こういうのにはとんと疎くて直せないんだ」
「え?見てみましょうか」
ふらつく足を何とか前に出して壊れているであろう車輪の様子を見る、馬の方は怖がってはいるが時間が経てば大丈夫だろう。
「外れているだけですね、補強すれば直りますよ」
単純に振動か何かで留め具が外れて軸から車輪が外れているだけだった、このぐらい直せよとは思ったが、ここでさらに恩を売っておくチャンスだ。
「直しちゃいますね」
「あ、ああ」
風魔法で荷車を浮かし車輪を軸に接続、近くにころがっていた留め具を火魔法で炙って焼き付けるとあっという間に荷車は直った。
「おおすごいな!あっという間だぜ!」
「いえ、お易い御用です」
なんかレイルと同じこと言ってるな、呑気にそう思うと完全に体の力が抜けてしまいドサッと地面に倒れる。
「おい!大丈夫か!?」
「レイジくん、大丈夫!?」
【MPを使い切りました10%回復するまで動けません】
うわー、やらかした。使い切ると動けなくなるのかよ、さすがに予想外だ、10%ってことは30ぐらい回復しないと動けないのか、何時間ぐらいかかるんだ?
一瞬で色々考えてみるけど時すでに遅し、猛烈な睡魔に襲われ気がついたら寝てしまっていた。
●
「!!」
ガタガタという心地よい揺れで目が覚めた。
「あ、起きた」
目を覚ますとレミさんの顔と大きな胸が目の前にあり、後頭部がなんだか生暖かい。
《変態》
レイルの冷たい念話で全てを察した俺は、生暖かい場所から飛び起きてワタワタとする。
「え、いや、あの、すみません!」
どうやらレミさんに膝枕をされていたみたいで、状況を把握すると勝手に顔が赤くなるのがわかった。
「寝顔が可愛かったから大丈夫だよ」
ウインクされた、どういうこと?
「は、はぁ……?」
と、一応納得すると。
「おお、起きたか!無理させたみたいですまねぇな。勝手に街に向かっているが良かったか?」
前の席に座り手網を握っているシドさんに背中越しに話しかけられる。もう街に向かっているのか、日の傾き具合からみて二時間ぐらいは寝ていたのかな。
「ご心配おかけしてすみません、MPを使い切ってしまったみたいで」
前の席に身を乗り出して謝る。
「謝ることは無い、リグルアが多分MPを使い切っただけだって言ってたからよ、そんなに心配はしてなかったぜ」
そうなんだ、魔法使いのことは魔法使いがよく知ってるな、後ろを振り向いてリグルアさんを見ると彼女は慌てて目を逸らしてしまった。嫌われてる??それとも人見知り?
「そろそろ日が暮れる、野営することになるが大丈夫か?」
「はい、自分もそのつもりでしたので」
「そうか、話が早くて助かる。もう少し進むからそれまで休んでていいぞ」
「あ、はい、ありがとうございます」
荷車の後ろの席に戻り、レミさんの対面の席に座ると彼女はニコニコとずっとこちらを見てきている、非常に気まずい。
《変態》
なんでそうなるかな!見ちゃいけないところは見てないのに俺が反論できないと思ってレイルが凄い煽ってくる、こりゃ二人きりになった時に説教だな。君だってなかなかに魅惑的な体つきしてるくせにさ。
「ど、どうしました?」
あまりに見てくるので、痺れを切らして俺から聞いてしまった。
「レイジくんはなんでヤーティクルに?」
いや、なんでって言われても……、他に行くあてもないし……。
「なんでって言われると困るんですけど、他に行くあてもなくて……」
濁しきれないけどこれで大丈夫か?
「はーん、訳ありさんだ」
それでいいの?犯罪者とか思われてないかな?まあ、彼女がそれで納得してくれるならそれでいいか。これも『信頼』の効果なのだろう、言うこと全部にみんな勝手に納得してくれる。なんかこのスキル怖くなってきた。
「行くあてがないつーと、街に行ってどうするんだ?」
心配してくれているのかシドさんが聞いてくれる。
「とりあえずギルドにいって冒険者登録をするつもりです、その後はクエストをこなして食いつないでいこうかなと」
隠すこともないし正直に言うと。
「そうか、お前は命の恩人だ、俺らもヤーティクルではそれなりに名の知れたパーティーだからよ、最低でも登録するまで面倒見てやるよ」
おお、それはありがたい、街の情報とか全然なかったからこれは助けた人もSSRだったなこの世界についてから運がついている。
「いいんですか!?土地勘がないので助かります!」
「いいってことよ、さて、そろそろ野営の準備だ」
山道の少し開けたところに荷車を止めて、野営道具を降ろし準備を進める、ある程度MPも回復していたので風魔法を使ってテントを広げるのを手伝ったりし、鹿肉も腐らないが腐るほど持っていたので提供すると、この辺りでは高級食材だったみたいで、なんだかめちゃくちゃ喜ばれた。養殖されたものより天然の肉がすこぶる美味しいらしい。
そして今は、日も完全に沈み、食事も済ませて焚き火を囲み四人でスープを啜って団欒している。二つの丸太にシドとリグルアが座り、俺の隣には何故かレミさんが座っている。
「ねぇ、シド。さっきは登録まで面倒を見るって言ってたけど、いっその事レイジくんこのパーティーに入れてあげたらどうなの?」
「もっ!」
何故か肩を組まれて、当たってはいけない柔らかいものが俺の頬に当たっている。
「あ?お前がそいつを気に入ってるのはよく分かるけどな、レイジにも予定とかあるだろ。確かに戦力は格段に上がるだろうけどよ」
スキンシップがだいぶ激しめなので気に入られていることは重々承知している、パーティーに入れてくれるって言うのは非常にありがたいことなのだけれど、この世界にはこの人たち以外にも沢山いる、そんなに急いでパーティーに入るものでもないと思うし。
《変態》
それしか言ってねぇな、不可抗力なんだから仕方ないだろ。なんだか機嫌の悪そうなレイルの機嫌も取らないといけないし、とりあえずは時期尚早かな。
「お言葉は大変嬉しいのですが、俺は放浪の身なので」
丁重に断っておくと。
「だとよ残念だったな」
「えー、今なら私のおっぱい揉み放題なのにぃ」
ブーーーッ!ゴホッゴホッ!
スープを吹き出してしまった。
「おいレミ!そんな淫乱パーティーじゃねぇよ!レイジが誤解すんだろ、酔ってんのかお前」
「酔ってませんーー」
「シラフでその発言はヤベーぞ!」
何だこの人たち、面白いな。
《殺す》
《こらこら落ち着け落ち着け、冗談だよ》
おいおいおい殺気立ってんな、何とか不慣れな念話でレイルを落ち着かせていると。
「……気が向いたら声掛けてね」
今まで黙っていたリグルアが喋った、一応俺のことは嫌ってないみたいで安心する。
「ああ、リグルアの言うとうりだ、俺らはヤーティクルを拠点に活動している、気が向いたら声をかけてくれ。それでいいなレミ」
「……はーい」
不服そうだが相変わらず柔らかいところを押し付けてくるレミさん、押し返す訳にもいかなし困っているとレイルの圧も凄いしどうすればいいんだってばよ。
「じゃあ明日も早い、そろそろ寝よう。交代で見張りな、すまないがレイジも見張りを頼めるか」
「はいもちろん」
そして焚き火はそのままに、レミ、俺、リグルア、シドの順番で見張りに立つことになりみんな素直に寝床に着いた。
●
そして夜中に交代で起きると、レイルの愚痴を聞く羽目になった。
《なんなのあのレミってやつ、レイジに馴れ馴れしすぎない?しかもなんなのあのおっぱい、殺してやろうかな》
全然怒りが収まっていない様子だ、おっぱいに関してはいい勝負だと思うけど。
「嫉妬してくれてるの?」
《そんなんじゃない!……多分》
およよ?そうなの?ちょっと嬉しいじゃん、俺のスキルだからほかの女にチヤホヤされるのは嫌なのかな?可愛いヤツめ。
「彼女なりの愛情表現じゃないかな?」
《あざとすぎる!》
確かに、ごもっともです。
《で、レイジはどうするの》
「どうするってパーティーの件?」
《そうっ!》
怒ってんなー、俺まで怒られてる気がしてきた。
「このパーティーには今の所入るつもりは無いよ、利害関係とかまだ分からないし、変に入るよりレイルと一緒の方がいいかな、他の人がいると出て来れないでしょ」
《そ、そう?ならいいんだけど》
またあからさまに赤くなるポヤポヤ、こいつまじでチョロインだな。まあ、嘘では無いし悪い気がしないならそれでいいか。
「じゃあそういうこと、念話まだ得意じゃないんだから変に話しかけてこないでね、怪しまれると面倒だから」
《わかった!!》
機嫌が治ると聞き分けのいい子で良かった。
そのまま何事もなく交代して朝になり食事を済ませて出発、そして夕方には地方都市「ヤーティクル」に到着した。
●
ジルと一緒にいると検問もスムーズに通過できたし、ギルドに行くついでにレミさんたちを先にギルドに行かせて街の案内もしてくれた。
道具屋武器屋、防具屋に食事処、宿舎と…………。
「ここが娼婦街だ、もうちょっとに日が暮れると賑わうぜ」
《殺す》
「行きません!!」
のほほんと着いてきた俺が悪いけどさ、なんちゅーところ紹介するんだよ!レイルの目があるんだから行かねーよそんなところ!
「そうか?命の恩人だから奢ってやるぜ?おすすめの店があるんだ」
《冗談抜きで殺す》
「行きません!絶対に!」
シドはガハハハと笑っていた。スキルに殺されそうになる身にもなってください……。
そしてレイルの殺気に怯えながらやや遠回りして。
「ここがギルドだ、建前はボロいがちゃんとしたとこだぜ」
確かに、なんかこう、石造三階建てかな?ボロい建物だ。しかし中に入ると大きく開けていて外のボロさが気にならないほどに小綺麗だった。屈強なハンターたちがゾロゾロと、ということも無く数人の職員と掲示板を眺めている冒険者っぽい人が数人いるだけだ。
「あそこが登録受付だ、俺の紹介って言えば話が早いと思う、俺はレミの所に行ってくるからな」
「はい、分かりました」
とぼとぼと受付に向かうと、制服を着たお姉さんに対応される。
「あの、シドさんの紹介で登録に来たんですけど……」
本当にこれで大丈夫なのか?オドオドと挙動不審さを抑えられないまま聞いてみると、若干しかめっ面をされる。そんな蔑まれた目で見られて喜ぶ癖はありません。
「『紅の片割れ』のシドさんですね、分かりました、こちらの用紙にご記入をお願いします」
えぇ、そんな厨二病っぽいチーム名だったの?突っ込まないでおこう、とりあえず貰った用紙の必要事項に記入していく。
クラス『ガナリーソーサラー』
名前『レイジ・アンサラー』
レベル『Lv.7』
特技『火、雷、風魔法』
こんなところ?
「ガナリーソーサラー?」
と受付にめちゃ変な顔で睨まれた。
「あ、えっと、魔法と銃を使うのでっ」
と言ってみたら渋々承認された、厨二病かと思われたかな?いいでしょ、男は死ぬまで厨二病だ。
「では認定試験がありますので奥へどうぞ」
あー、即日やってくれるんだ。案内されるがままに建物の奥について行きやや大きな扉をくぐると外に出た。フィールドみたいにのがあるから簡単な格技場か闘技場みたいな場所かな?
「試験内容はこの街の近くによく出現するダークウルフへの攻撃、対処能力の確認です。ダークウルフはCランク並みの魔物ですので無理に倒す必要はありません、過程を見ますのであまり緊張なさらないように」
え?ダークウルフ?いつものやつ?
これ本気でやってもいいのかな?変に目立つと後々面倒か?んー、どうしよう。
《全力でやっちゃってください!》
なんだかノリノリなレイル、どうなっても知らないよ?
まあでも、手加減なんて無理そうだしいっその事全力でやって見るか。
「それでは始めます」
ピーッ!と合図の笛が鳴ると、第一印象が大事だと思うのでかっこよく見せるために無駄に全身にバチバチと雷を纏い風も吹かしてみたりして、檻からでてきたダークウルフに手のひらを向けた。