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第23話 サキュバス対応

 昼間の疲れかクリオは押されていた。

「くそったれ、だから悪魔との戦いは嫌いなんじゃ」

「さっきまでの威勢はどうしたのかなー?あとぉ、悪魔じゃなくて『上級』淫魔ね」

 敵にはウィンクまでする余裕がある、レイルかアウルどちらかだてでも起きてくれればどうにかなるのにっ。

「下衆には変わりないわ!氷結!」

 クリオがパンッと手を叩くと辺り一面氷漬けになったが。

「意味無い意味ない、夜にそんなことしちゃってもぉ」

 周囲が凍っても影の中を移動するサキュバス、ちょとでも暗い場所があれば一瞬で移動してしまうし、いざとなれば影の中に隠れてしまう。いくらクリオは移動速度が早いからと言ってどうにかなる話ではない。

「お主も早く起きんか、みっともない!」

 んな事言われても。

「……ちょっと、…………ま、って……」

 こっちは息をするのもままならないんだよ、その中どうにか魔力をねろうとしてるんだ、罵られるより褒めて欲しい。

「おっとー、変なことはさせないよん」

 パチンと指パッチンをサキュバスがしたと思うと体が地面の中にめり込んでゆく、まずい、影の中に取り込まれようとしてる。

「なっ、辞めるのじゃ!」

「んふふふふ、それなら止めてみたらぁ?」

「ぐぬぬぬ、氷槍!」

 クリオは歯ぎしりをしつつ氷の槍を背後にいくつも、いや幾千も瞬時生成し一斉にサキュバスに向け発射するが、かすることもなく地面に突き刺さる。

「くそっ!レイル!アウルスルア!さっさと起きぬか!!」

「むだむだ、無駄だよーん、二人はまだ気持ちよく寝てるわぁ」

 ああ、ヤバい体の半分以上がが影の中に入ってしまう。

「レイジ!」

 彼女がこちらに手を伸ばすも俺の手はビクとも動かない。そして、目の前が真っ暗になってしまった。


   ※


「レイジ!」

 もう少しで彼の手を掴めそうだったのに、彼は夜の闇の中へと消えていってしまった。

「貴様っ!」

 影の中に入られてはもはや私は何も出来ない、天地をひっくり返したところで彼は出てこない、できることは淫魔のクソ野郎を涙を流しながら睨むこと。

「んふふふふ、後でゆっくり味わうとしーましょ。じゃあねぇ」

「おい、まーーっ……」

 消えてしまった。

 レイジになんだかんだと言っていたのに何も出来なかった無力感、なぜじゃ、どうしてこうなった。額をゴンゴンと地面に打ち付ける。

 そうじゃ、レイルとアウルスルアを起こさなくては、一人ではどうにかならなくても三人なら、あるいは。


   ※


 気持ちよく眠っていたのに、乱暴に叩き起されるとフロストヴェインは泣いていた。

「ちょっと、どうしたんですか!?」

 状況が呑み込めないまま、彼女の肩を掴んでを落ち着かせようとすると。

「レイジが、レイジが連れ去られた」

「えっ」

 私は咄嗟に念話を試みる、妨害はされているようだが彼の感覚はある。それにこの体は擬人化されたままだ、まだ遠くには行っていないはず。

「大丈夫、まだ遠くには行っていません。アウルを」

「そうなのか?と、とにかく起こしてくるのじゃ」

 いつもは気丈なフロストヴェインがあんなに焦っている、私が寝てしまっている間に何があったかは分からないが、レイジが連れ去られたとはどういうことなのか。急いで外に出ると、至る所に穴ぼこができ、フロストヴェインが放ったであろう氷の残骸が転がっていた。

「こんなに戦ってたのに、なんで起きなかったんだよ私」

 パンパンと頬を強く叩いて目を覚ます。

 さて、これからどうしたものか。

「なんなんだこれは……マスターは?」

 アウルスルアも直ぐに起きたようで外の状況に唖然としている。

「我のせいじゃ、我が不甲斐ないばかりに…………」

 ぺたんと地面に座り込み泣き始めてしまう氷結竜たるフロストヴェイン、彼女がどうにもできなかったんだ、私たちがどうこうできる話とも思えない。

「泣くのはレイジを助けてからにしてください、何があったんです?」

「うぅ、上級淫魔が現れてレイジが拘束されてしまい、応戦したのじゃが多勢に無勢、敵は二人組なのじゃが影移動されてはこの我でも手も足も出んかった…………」

 なるほどそういう事か、てゆうか淫魔ってまた変な悪魔を敵は寄越したものだよ、正攻法では無理だとわかっていたのかな。しかし、敵って誰だ、誰のために連れ去られた?いや、それは後でいいか。

 だが、どうすればいい…………。

 さっきも言ったがまだ擬人化は解かれていない、ということは近くにいる、だから。

「魔力を地面に向かって注ぎ込んでください!レイジならそれで何とかしてくれるはずです!」

「いや、しかし、そんな闇雲に…………」

「やって!」

「わ、わかったのじゃ」

 三人で地面に向かって魔力を注ぎ込む、HPもMPもほぼゼロだと思うレイジ、最悪MPだけでも回復してくれれば彼のことだ、どうにかしてくれるはずだ。

 って、この場にいないのに彼を頼るなんて、精霊失格かな……。

 だが、信じるしかない、そうするしかなかった。

 信じること数十秒。


紅炎(プロミネンス)


 レイジの囁くような声が聞こえたと思うと辺り一面影という影が一瞬で火の海となり、どこから現れたのか、レイジがゴロゴロと転がりながら目の前に突如姿を現し。

「よしっ」

「なにこれあっつい!!」

「あちちちちちち!」

 淫魔と仲間であろう小柄な獣人が身体中の火を振り払っていた。

「ありがとう、みんな」

 ああ、さすが私の『相棒』、なんでも自分で解決しちゃうな。


   ※


 視界は暗闇とは違う真っ暗で何が起こったか分からないうちにレイル達の魔力を感じ、闇雲に魔法を打っても仕方ないので、近接阻止魔法として考えていた全身に数万度の炎を纏う紅炎(プロミネンス)を試してみたら正解で、影の中から放り出された。

 多少魔力が回復したし、混乱している敵を仕留めるにはいいチャンス。時間があったし右手に超高電圧超高圧力超高温で氷の針を生成、自分の炎を消すのに必死なサキュバスに手のひらを向ける。

超荷電氷弩砲(クリオ・エレクトルム)

「えっ」

 氷弾は音速を軽く超え、サキュバスの片翼に命中しその翼をもぎ取った。

「貴様ァ!よくも私の翼をっ…………」

 雷を纏い、瞬時に近接した俺はサキュバスの角を掴む。炎の煌めきにより影移動できないこいつらは敵じゃない。

「くっ、離せ!離してよっ!」

 ジタバタ暴れているが俺はこいつから手を離さない。

 もう一人の仲間の方を見ると。

「動くな、動くと首が飛ぶぞ」

「ひっ…………、ご、ごめんなさい」

 アウルが首元に剣を突きつけていた、慢心はダメだがとりあえずは大丈夫だろう。アウルの方は子供のような声だけれど大丈夫かな?見る余裕もないし今心配なくてもいいか。

「うちのドラゴンを泣かせたな」

「な、何よ、弱いのが悪いんじゃない!」

 逆に捕まってるのにすごい威勢だ、まだなにか隠していることでもあるのか。

「レイジよ、鼻で息をするな、匂いにやられるぞ」

「わかってるよ」

 サキュバスの匂いはマジで危険だ、もうなんて言うか色んな性的衝動に駆られるし意識も保てなくなる。レイルのおかげとはいえよく元に戻れたよ。

「で、どうする?降参してくれたら嬉しいんだけれど」

 敵とはいえ無駄な殺生はしたくない、後味悪いし誰かが死んだ訳でもないし。クリオはボコボコにされちゃったみたいだけれど。

「降参?誰があんたなんか低級な人族に」

「ああ、そう」

 雷を右手に集中させサキュバスに雷を浴びせる、言わば電気ショックだ。

「ギャーーーーーーーー!!」

 警察を呼ばれそうな事件性の高い悲鳴だが丘に響くがこいつが悪い、降参と言うまで数秒間隔で続けてやる。いっそ殺してくれとか言われそうだけれど、俺は慈悲深いからね。

「お、お主、そこまでしなくとも良いぞ?」

「いや、俺は怒ってるから」

「そ、そうなのか?」

 らしくないやり方かな?でも俺は本気で怒ってる、異世界スローライフを邪魔されたんだ、何も苦痛を与えることなく返す訳にはいかない。

「やめるっス!お姉ちゃんから手を離すッス!」

「あ、こら!」

 隙ができたかアウルの元からスススと抜け出した獣人が駆け寄ってきてサキュバスを掴む腕にしがみつく。

「え、こども!?」

 見た目は十代ぐらいの小柄な灰色の髪をした猫耳の子供、その子がサキュバスをお姉ちゃんと慕っている、意味がわからない。

「お姉ちゃんが死んじゃうッス……」

 この子は泣いていた。

 何してんだ俺。

 俺は彼女への電気ショックをやめるが、簡単に逆らわれたら困るのである程度は痛めつけておく。

 バギッ!

「かっ、くはぁっ…………角、が……」

 左側頭部の角を力任せに真っ二つに折り、彼女を解放してあげたが、ドサッと地面に倒れ込んでしまった。

「お姉ちゃん!しっかりするっス!」

「テト…………」

 これでよかったのか?

「お主が気負うことは無い、こヤツらは敵じゃ」

 そうだけどさ。

「レイル、傷の手当をしてやってくれ」

「えっ…………わかりました、アウルスルア手伝ってください」

「は!?いやしかしだな…………あぁ、わかったよ」

 これが正しかったと信じたい。


   ●


 サキュバスと獣人の子供を客間へ連れていき、二人とも気を失っているが回復薬を飲ませるだけ飲ませてみると、どうやら効いたようで今はスヤスヤと眠っている。

 それを三人で部屋の隅に椅子を置きそこから見守っている、突然起きて暴れられたら困るしね。

 そして今はと言うと。

「本当にすまんかった、主を守れなかった、いかなる処分も甘んじて受ける」

 おでこが磨り減るんじゃないかと思うほど俺の目の前で土下座を続けるクリオ。油断してた俺も悪いしレイルとアウルも悪いと思ってるよと言っても土下座を辞めない彼女、埒が明かないので命令することにした。

「クリオこっちに来て、命令だ」

「引っぱたくなら顔以外にしてほしいのじゃ」

「叩かないよ」

 そこは気にするんだ、契約してるから命令には従順なクリオ、俺の元まで来たのでギュッと抱きしめてあげた。氷のように冷たいクリオ、しかし肌はスベスベで気持ちがいいし、すごく彼女らしい爽やかな匂いがする。

「俺のために戦ってくれてありがとう」

「お主は優しすぎじゃ」

 そういうと、見た目の年相応の女の子のようにエンエンと泣き始めてしまった。

 ただ俺は彼女をギュッと抱きしめるのみ。

 しばらくするとだいぶ落ち着いたのか。

「すまん、我としたことが大人気ない」

タオルを渡すと目元をゴシゴシと拭く彼女。

「というかじゃ、レイルもアウルスルアも起きないとは何事じゃ、サキュバスの術中に容易にはまりよって」

「うっ」

「むしろどうやって起きた」

 お、他人を叱責できるぐらいには回復してくれたかな、本来のクリオの姿になってハグした甲斐があった。元気を取り戻したクリオに痛いところをつかれて二人はタジタジしているが俺は責めるつもりはない。そんなの不可抗力だよな、サキュバスが来るとは思わないじゃん普通。

「まあまあ、みんななんだかんだ非があるんだからさ」

「う、まあ、そうじゃの」

 とりあえずは黙ってくれた。

 さてさて、それよりも温情で命は取らなかったがこれからこの二人をどうするよ?雇い主に返したところで二回目が来そうだし、かと言ってここにいられても俺の理性がいつまで保たれるか分からない。

「ガスマスクでも買ってこようかな」

「なんじゃそれは?」

 無いのかよ。

「お主、こ奴らをどうするつもりじゃ?あの時のレイジは冷酷な目をしておってゾクゾクしたが、ちと怖かったぞ」

「レイジもあんなに怒るんですね」

「やはり優しい人が怒ると怖いな」

 そんなに怖かったかな?

「家族を守るためには当然だと思うけど?」

「「「きゅん♡」」」

 なんか三人とも目がハートになってしまったが、突っ込んでいる場合ではない。家族なのは本当だ、パーティーとかいう生ぬるい関係では無い。

「サキュバスねぇ、この世界のサキュバスってどんな感じなの?」

 習性というか特徴というかそういうのは理解しとかないと、作品によって全然違うしね、本当にただのモンスターだったり本当にエッチなことにしか興味なかったりするし。

「どんな感じですかぁ、たしか、定期的に男の生気を摂取しないと死ぬんじゃなかっでしたっけ?」

 在り来りな設定だ、しかし、生気ってのが分からない、MPを吸われるってことなのか?いやでもな、普通におっぱじめようとしてたしな。

「あとは、人間の男性を食すことによってその強さは無限大ですね、強い男を食べるとそれに比例して強くなるので厄介なんですよ」

 おー、だからクリオが何人食ったか知らないと言ったのか、まてよ?食うってどっちの意味?

「食うって性的な意味?食欲的な意味?」

 一応確認しておこう。

「どっちもだと思いますよ?サキュバスはそのフェロモンで男を幻術にかけ、性的な行為を行うことでさらに支配、必要があれば食べる、て感じです」

 んー、思っていたよりえげつないな。

「しかし、レイジはあのサキュバスの翼を魔法で引きちぎり、角をまで折ったので、潜在的な魔力は半分以下になっているはずです、今の彼女はそこまで驚異ではないと思いますが」

「なるほどね、レイルは物知りで助かるよ」

「精霊なので!!」

 ふんすっと胸を張って可愛い。

 しかし、魔力は半分以下といえどもまだ匂いはキツイし、油断したら秒で落ちそう。彼女たちの手前気丈に振舞っているが、万が一、二人きりになったら理性が効かないぞ?

「こっちの獣人はなんなのかな?」

 サキュバスも大変だが仲間の獣人の少女だ、一体全体どういう関係なんだ?寝顔を見るだけでは普通の猫みたいで可愛い。

「見たところ猫の獣人だと思いますが、それ以上は分かりませんね」

 んー、起きて事情聴取だな。

「ふぁ〜」

 ヤバい急に眠気が来てあくびが出てしまった。

「おお、すまんなお主が一番疲れておるじゃろうに」

「マスター、ここは私たちに任せて休んでくれ」

「いやいや、みんなも疲れてるでしょ」

 だがしかし、いいから休め!とクリオに強めに怒られ。

「全くもう、レイルよ一緒に寝てやれ、全て言わさせるな」

「え!?ああ、うん」

 クリオ命令の元、俺とレイルは寝室に移動。若干サキュバスの匂いにやられていた俺は眠いのに目がガンギマってしまってなかなか寝れず、それに気がついたレイルに対処してもらって二人で仲良く寝床に着いた。

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