第22話 密偵
昼食後休憩明けクリオの鍛錬は地獄だった。
何がレイジに当たるでないだ、人のこと言える?
「まだまだじゃ、我はまだ六割程度しか力を出しておらぬぞ」
「くっそ」
傍から見たら某野菜人の如く、何が起こっているか分からないと思うほどの速さで瞬間移動しながら近接戦をしているのだが。
「ぐはっ!」
次移動したところには既にクリオが待ち構えており、常に体のどこかしらにグーパンや蹴りを食らっている状況になっていた。
「予備動作が大きすぎじゃ、それでは動きを予測されて当然」
「そんなこと言われても、ぐふぉっ!ガハッ!!」
クリオの背後に移動しちょっと上手くいったかと思うと、冷ややかな目が合った瞬間に回し蹴りを喰らい、空中を漂っていると、刹那、ムチのようにしならせたドラゴンの硬い尻尾を背中に喰らい顔面から地面に叩きつけられてしまった。
飲茶にはなってたまるか。しかし、いつもは後々のことを考えてあまりダメージを蓄積しないように手合わせしてくれているのに今日は容赦がない、このままでは死んでしまう。
悔しくて地面の砂を握っていると、彼女はスタっと俺の横に降りてきてしゃがむと俺の髪の毛を掴むと無理やり顔をあげさせられる。
「レイルが心配そうに見ておるぞ」
「…………」
悔しい。
「こんなのであやつを守れるのか」
「…………」
手も足も出ない自分が情けない。
「どうなんじゃ?」
「くっ…………」
彼女の冷たい手のひらで、砂のついた頬をペチペチと叩かれる。
舐められてたまるか、これ以上レイルに無様な姿を見せたくないし、一度勝ったドラゴンにこんな舐め腐った態度を取られたくもない。
「まだだ」
全身にバチバチと雷を纏う。
「お、やっとその気にたったか」
「雷刹」
「む、速いな」
雷と同じ速度、光にも到達しそうな雷速で瞬間移動。苦し紛れに作った移動魔法だが、今まで風魔法の応用で移動していた速度よりは遥かに速い、魔力消費が多いのが玉に瑕だが荒療治なので今は仕方ない。
一旦空に飛び上がってクリオと距離をとるが、あの冷凍ビームを連発してくる。
「遠慮するでない、結界の外には被害は及ばん」
チラッと周りを見るといつの間にか魔法障壁によるドームができていた。
何とか雷のように不規則にジグザグ飛ぶことで冷凍ビームを避けてはいるが、こちらの攻撃のバリエーションに欠ける。
「|炎雷霆衝撃砲《ヴルカヌス・テルミナス
》!」
移動中に魔力を右手に集約し、何とか飛びながら最大魔法を放ちクリオに向かって一直線。しかし、彼女はその高出力砲を避けようともせず、何枚かの魔法障壁で弾いて見せた。
「何度も同じ魔法を喰らわぬよ、知っておるか?傾斜障壁じゃ、別に真正面から受けなくても良いのでな」
魔法障壁に角度をつけられ受け流されたか、こうなれば物量で勝負だが、炎雷霆衝撃砲は連発できないし、クリオのようなビーム系の魔法は雷、炎、風が得意な俺には不向きだ。
どうすればと考えてある間に、彼女の冷凍ビームがまるでマシンガンのように迫り来る。
「マシンガン?」
あるじゃん、俺にもマシンガン。
久々に使うが念じると右手に魔法陣が出現し、一瞬でHK416が手元に現れ、ガシャンとスライドを引き安全装置を外しクリオに向けて銃口を向ける。実弾は勿体なくて使えない、ここは魔弾で勝負。
「お?」
バババババババンッ!と魔弾の雨あられ、確か魔力の込め方によって弾丸の硬度が変わるとかあった気がしたので、全てに魔力を込めることなく、ランダムに魔力を込める量を変えて銃撃を行う。
「くっ」
流石に初見では防ぎきれなかったのか、何発か当たったように感じたが、弾着の砂埃が腫れると、体の一部にドラゴンの鱗が現れており、文字通り無傷だった。魔法障壁に鱗の物理防御かよ卑怯だ。
「珍しい武器を持っておるの、ちょっとびっくりしたぞ。魔弾の強度を変えるのもなかなかの奇策じゃ」
褒められている気がしない。いや、俺ってどうやってこのドラゴンに勝ったんだよ。
「そりゃどうも」
強がって苦笑いしてみるが、瞬きをしてしまったが故に、刹那目前にクリオの姿があった。
「だが、魔力の消費は湯水の如く、じゃな」
彼女の回し蹴りを何とか銃で受止め大ダメージを回避するが、接近戦に移行したクリオまたピッタリとくっつかれて離れない。
「その雷移動も魔力消費がきつかろう、どうするつもりじゃ」
「わかってるよっ」
ババババンッと威嚇射撃をし手にあった銃を消す、不意打ちとか対人戦とかならちょうどいいがドラゴン相手には対物ライフルとかじゃないと無理だな、そもそもの装甲が硬すぎる。
模擬戦で新技とかは誰が見てるか分からないしあまり使いたくないが、そんな悠長なことが言ってられるか?MP的に持って三分だ。
(こうなったら移動中に魔力を練って……)
右手に水色の魔法陣を出現させ、雷を帯電させつつ空気を圧縮し炎で加熱、注意はやや散漫になってしまうが、超高電圧超高圧で超高温で生成された針状の氷のようなものをじわじわと練り上げていると。
「ん?そうはさせぬ」
「なっ!おい!かはっ!!」
後頭部をガシッと捕まれそのまま急降下、地面に思いっきり顔面を叩きつけられた。意識が朦朧とする中体を仰向けにすると、一応肩で息をしているクリオに動けないようにと胸を足で踏んずけられる。
「まだ意識があるのは褒めてやろう、だがーーっ!?」
最後気を抜くのがクリオの悪い癖だ、俺は踏みつけられた足首を逃げられないようにギュッと握り締め。
「はぁ、はぁ、超荷電氷弩砲」
ちょうど練り終わった超高電圧超高温超高圧の氷を音の何倍もの速さで彼女目掛けて打ち出すが。
「ぐふっ!」
逃げられるなら踏んでしまえと言わんばかりに思いっきり腹部を踏みつけられ、打ち出した氷は目標をずれはしたがソニックブームを作り出しクリオの頬を掠めて吹き飛ばし、結界の魔法障壁に命中、結界は粉々に砕け散ってしまった。
「死ぬところじゃった……」
ソニックブームで命拾いしたクリオ、まだまだ終わってないと立ち上がろうとするも体に力が入らず、産まれたての子鹿のようにドサッと倒れ込んでしまう。
「動いちゃダメですよ!」
見かねたレイルが駆け寄ってくれる、あー、みっともないなー。
『魔力を使い果たしました』
あ、ダメだ、寝てしまう。
「フロストヴェイン!やりすぎですよ!」
「レイジが本気なのが悪いんじゃ、さっきのは普通に死ぬかと思ったわ。まあ、簡単には死なぬが」
「レイジの方が死にそうなんですけど!?」
「魔力が切れただけじゃ、しばらくしたら起きるじゃろうて」
「そういう事じゃないんですよ!」
「大丈夫かマスター?意識をしっかり保て、フロストヴェイン、貴様!」
「お主もボコボコにしておったじゃないか!なんで我だけ!」
あー、俺の為に喧嘩しないでくれ、遠のく意識の中手を挙げてレイルの頬をスーッと触り。
「……ちょっと寝る」
言い終わると意識が無くなってしまった。
●
目が覚めるとあたりは暗く、結構夜遅そうな感じがした。レイルはと言うとさっきまで看病してくれていたみたいで、床に座りベッドに頬杖をついてウトウトしていた。
「イテテテテ」
さすが回復魔法の効かないクリオの攻撃、体バッキバキで全身筋肉痛や打撲痛がして何をするにも痛い。
「レイル、寝るならベッドで寝ろよ」
肩を揺すってみても起きる気配がない、よほど疲れているのか、迷惑かけたな。痛むからだを引きづりながら彼女をお姫様抱っこし、自分のベッドに寝かせてあげる。
「起きないな」
普通なら起きそうなもんだがスースーと寝息をかいて熟睡、まあいいか。喉がかわいたのでキッチンに向かうと案の定誰もいない、夜も老けてみんな寝てるのだろう。
レイルの用意してくれていた水の溜まった桶を使ってコップ一杯の水をついでごくごくと一気飲み。
「ぷはー、つつつつつ……」
なんか色んなところに染みる!
コップにもう一杯すくって顔面にぶっかけると、俺は夜風に当たるために外に出た。
月も出てない真っ暗闇で見上げると星空が綺麗なのだが、冷たいそよ風が体に染みる。
「クリオのやろう、手加減しろよな」
暗闇でよく見えないが青アザだらけなのは雰囲気でわかる、地面に座り込んでふー、と深呼吸していると背後から誰かが近づいてくるのがわかった。
レイルかな、寝てても良かったのにー。
すると彼女は腕を俺の首元に絡め背後から抱きついてきた、耳元からすごく甘い匂いがしたのだが、背中に当たる胸の感触はレイルでもアウルでもクリオのものでもなかった。
「だれーーっ!?」
気がついた時には既に遅い、俺はそのまま地面に押し倒され何者かに馬乗りになられた。手足は魔法陣で拘束され、女性らしきその手の片方は俺の口を塞ぎ、もう片方は首を締め付けようとしていた。
「んー!!」
暴れようにも暴れれない。やっと夜闇に目が慣れてきたところで、敵の姿が確認できた。
側頭部から一本づつ角が生え、ブロンズ色のロングヘア、背中にはコウモリのような翼があり、マイクロビキニのような際どい服を着た巨乳美女。
悪魔か?
どういう状況だといろいろ考えているうちに、このなんだか甘い匂いに頭がやられてなんだかポワポワしてきた。だんだん抵抗する気力もなくなってきて体の力が抜けてくると、敵は俺の口から手を退けた。
「……悪魔が、俺に、なんの用……だ……」
くっそ声もまともに出ない、かすれかすれの声を聞いて悪魔らしい的は不敵な笑みを浮かべる。
「んふふふ、残念、私は悪魔じゃありませーん。上級淫魔のエレノア・ロエって言いまーす。いわゆるサキュバスってやつ?」
は?悪魔ならまだしもサキュバスがなんの用だよ!単純に寝込みを襲いに来たとかではなさそうだし。しかも妙にギャルっぽいし苦手なタイプだ。
「我が主に君の確保を頼まれてねぇー、これ以上強くなられる前にー、確保に来た感じ?」
マジかよ、アステさんの心配当たってるじゃん。なのにクソッ、HPもMPもほとんどない状態で夜襲を仕掛けられたら何も出来ん。
「……く、そ、だれ、か…………」
助けを呼びたくても声も出ないし、意識が朦朧として念話も通じない。
「あ、ざんねーん、みんな私の術中で寝てるよーん」
だから起きなかったのか、あの時に何か変だと気がつけばよかった。
「じゃあ、ちょっと失礼してっと、痛いことはしないから安心してねぇ」
「……え?」
すると自分の股間をまさぐられているのがわかった、まてまて、何をする気だよ。
「何をすると思う?んふふふ、あなたの生気を奪ってぇ、私の術中に完全に堕ちてもらうの、途中で逃げられたら困るじゃーん?ほら、ここは正直だよ?何をされるのかわかってるねぇ」
「ちょ、ま、まっ……」
くっそこのメスガキめ!心は抵抗してるのに体が全く動かない、本当だ、本当に嫌なんだよ!サキュバスに襲われるのなんか同人誌の中だけにしてくれ!
「さぁ、ロエに体を委ねてぇ…………あぁ……おおき……」
くっ、ヤバい。
「そこまでじゃ」
クリオの声がしたと思うと、俺に馬乗りになっていたサキュバスの姿はなく、少し離れたところで剣を持って立っていた。
「起きるの早くなーい?もう少しだったのに」
「そんな臭いサキュバス臭をモンモンさせとったらいやでも起きるわ、レイジは渡さんぞ」
「んふふふ、没落ドラゴンが上級淫魔に勝てると思うー?」
「さあな、何人食ったか知らぬが、我には我の主を守る義務がある」
ポワポワする意識のなか罵り会う二人、だがしかしクリオがかっこいいことを言ってくれているのははっきりわかる。どうにかして助太刀しないとと、朦朧とする意識の中拘束された手のひらで魔法を試みるが発動する前にかき消されてしまう。
「んふふふふ、じゃあ実力行使ね」
「かかってこい、ーーかはっ!」
戦いが始まったと思うとその瞬間クリオが吹っ飛んでいた、何が起こったのか全く分からない。
「一人ではなかったか、影移動とは卑怯な…………」
「んふふふふ、新月は私たちの独擅場、いつまで耐えられるかしら?」
何とか、手首だけでも…………。




