第20話 解散
気がついたら知らない場所に来ていたのでびっくりしたが、ここはレイル曰く『我が家』だそうだ、確かに一軒家だしね。レイル達が決めたこととはいえ俺はこの家に文句一つない。むしろこうしようかなと思っていた程だし、彼女たちには感謝だな。
「もう大丈夫ですか?」
「ああ、寝ちゃってごめん、回復薬で回復しないのはキツいね」
リビングの四人がけのテーブルに座っていて、正面のクリオを見ると目をそらされてしまった。
「回復薬で回復できないのは物理的なダメージとして受けてるじゃなくて、呪いって感じ?」
「ご明察じゃ、お主近接はへなちょこじゃが頭は切れるようじゃの。我の攻撃は高位の回復魔法か時間経過、我の調合した薬のみで回復できる」
なるほどねぇ、一言多いが予想が当たったことでちょっとは感心してくれている様子。高位の回復魔法となると多分神職ぐらいしか扱えないんじゃないかな、となると。
「調合してくれたりしない?本調子にならなくて結構しんどくて」
言うのはタダだが。
「すまんがものが無い」
マジかよ、ぐでーっとテーブルに伏していると、隣の席に座っていたレイルがクリオの後ろに歩み寄り、何をするかと思えばこめかみ付近から生えている四本の角のうち二本をガシッと掴んで。
「そのぐらいすぐ作りなさいよ!レイジが困ってるじゃないですか!」
「あばばばば」
頭を前後にブンブンと振り始めた。まあまあ、と宥めるもののぷんすこと怒っているが、角を握った手は簡単に振り払われた。
「角に触るなっ。仕方ないじゃろ、在庫はないし、そもそも使う場面がないのじゃから、調合する薬草も持っておらぬ。大昔に試しに作ったっきりじゃ」
確かに攻撃するのは敵だし回復することなんて考えないよな、クリオが回復しないといけない攻撃なんてそうそう無いだろうし、HPの桁も違うだろうし。
「我慢してくれ」
「むーっ」
「そもそも我の攻撃を受けるのが悪いんじゃ」
「そういうことじゃないでしょ!」
「貴様、だから角を気安く触るでない!!敏感なんじゃ!」
「え?」
「ちょっ、やめるのじゃぁぁぁ」
なんかクリオが悶えてる。あー、なんか仲良しになってるなー、二人の言い合い?じゃれ合い?を頬杖をして微笑ましく眺めていると、隣の空いた席に狐獣人のアウルがさりげなく座る。
「剣技には自信がある、私が突破されないという保証は無いしある程度は教えられるぞ?」
「剣技かぁ」
転生してきた時に剣道が苦手だったからわざわざ魔法使いになったのに、近接戦闘は避けられない運命なのか。仕方ないよな、自分を守るためだ、って戦いは好きじゃないんだよ!
「暫くはのんびりしようと思うし、お願いしていい?」
運動の時間も大切だ、せっかく鍛錬してくれるのだから断る理由もないし彼女とのコミュニケーションにもちょうどいいだろう。
「そうか?もちろんだ!」
なんかめっちゃ嬉しそう、いつもキリッとしている顔が綻び嬉しそうに微笑んでいるものだから、こっちもにやけてしまう。
「あぁ!我の鍛錬も忘れるでないぞ!ちょっ、レイルよ角は本当にやめて欲しいのじゃっ」
「うん、ありがとう」
急所を見つけたレイルがクリオを手玉にとっている。
「レイル、その辺にしといたら」
悶え苦しんでいるクリオ、さすがに可哀想なので止めてあげると。
「フロストヴェインが悪いのです」
「へぇあぁー、助かったのじゃ」
ぷんっと怒っているレイルに机に突っ伏してしまうクリオ、うん、仲良しだね。
●
日暮れ前の夕刻。
ギルド近くの大衆食堂に集合した『紅雷の契り』メンバー。八人がけの二階席に座って配置は、レイル、俺、カイユ、クリオ。レイルの対面からルイ、アウル、レミ、リグルアの順。
カイユさんは既に違う店で飲んできたみたいで、顔は真っ赤でフラフラしているし、会って早々に俺に肩を組んで来てそのまま席に座ったのだが。
「ねぇ、お姉ちゃんて呼んでくれる気になった?」
ヘへへと笑いながら耳元で囁かれた、そいや以前の食事会で言ってたな、どう返事しようかと迷っていると。
「酔いに任せて何しとるんじゃ」
「あーん、お姉ちゃんって呼んでぇ」
クリオが引き剥がしてくれて事なきを得たが、ゴブリンとの死闘を繰り広げた仲だちょっと願いを聞いてあげてもバチは当たらないだろう。
「えっと、カイユお姉ちゃん?」
恥ずかしながらも気を利かせて言うと静まり返る宴の席。あれ?そういう空気ではなかったの?
「はっ、好き、しんどい……」
「こら、何しとるんじゃ」
これが尊死というのか、カイユさんは過呼吸になって目眩でも起こしたのかクリオにもたれこんでしまい、クリオに揺さぶられているがビクともしない。
「カイユにサービスしなくていいですよ」
「そうだぞ、すぐ調子に乗るからよ」
レイルとルイさんに釘を刺されたが。
「仲間ですから」
ニッと笑うとレイルはそれ以上何も言わず、ルイさんは。
「優しいなぁお前は」
と、ちょっと呆れられてしまいもう一言受ける。
「女を泣かせるなよ」
何故か女性陣の視線を一身に受ける。
「え、あ、はい」
なんかみんなの視線がめっちゃ怖いが、ルイさんだけ鼻で笑っていた。
そうして酒がみんなに行き届き、俺だけフルーツジュースを持ち、ルイさんが仕切って宴を始める。
「あー、臨時とはいえこのパーティーで過ごせたのはいい経験になった。俺の未熟さもわかったし、パーティーの大切さもわかった」
「何言ってんのよ、らしくない」
丁寧に挨拶してくれているルイさんを他所に、カイユさんは既に数口飲んでクスクスと笑っている。
「お前飲むなよ!まあ、なんだ、これが最後じゃない、また縁がある時はよろしくな。乾杯」
「「「「「「かんぱーい」」」」」」
「…………乾杯」
ぐびーー、っと一気飲みするカイユさんにレイルにクリオ、レミさんとリグルアさんアウルさんは一口飲んでナッツをつまんでいた。てかリグルアさん飲めるんだな、意外だ。
「うぃー、お姉さんおかわり!」
もう全部飲んだの?フルーツジュースをズズズと飲んでいるとカイユさんと目が合い、ニコッと微笑まれて目を逸らしてしまった。
「そういえば、ルイさんたちとレミさんたちはこれからどうするんですか?」
仲は多分いいが俺たちは臨時チーム、それぞれ好きなことをやればいいのだがどのように考えているのだろうか。
「しばらくゆっくり暮らすよ、金もあるしな。カイユはどうするんだ?」
「んー、考えてなーい」
あれ、二人は一緒には過ごしていないのか?
「別行動なんですか?」
「なんだ?俺とこいつが付き合ってるとでも思ってたか?仕事の付き合いだよ、昔の好でクエストを一緒にやってるだけだ。必要の都度色んなやつと組む」
そうなんだ、ルイさん情深いと思っていたが案外ドライなのかな。
「ルイはタイプじゃないしねー」
「うっせー、酒飲みなんてこっちから願い下げだ」
そういう事ね、ルイさんイケメンなのに仲はいいが生理的に無理って感じなのだろう、だからカイユさんはルイさんの隣とかじゃなくて俺の隣に来たのか。
「あ、お姉ちゃんがフリーか確認してくれたの?」
「ち、違いますよ!」
「またまたー」
酔ってんなー、肘でぐりぐりされるがルイさんの気持ちがわかるようになってきた気がする。隣のレイルは対抗心燃やして俺の腕にくっついてきているし大変だ。
「レ、レミさんは?」
早く話を変えないと!斜め前にいる彼女に聞いてみると。
「そうだなー、訓練がてら同じぐらいのクラスの人と組んで、ダンジョンでも巡ろうかなって感じかな」
「…………力の差が歴然」
やっぱり自信なくしちゃってるのかな、こういう時はどうフォローしたらいいんだ?
「何時でも頼ってくださいね!」
「レイジくんに頼ると訓練にならないからなー」
「うぅ」
ですよねー、心配の方が勝ってしまって周りの敵を一掃してしまいそうだし、彼女たちもいろいろ考えた結果なのだからあまり口出しするのもおかしいだろう。
「大丈夫、嫌いになった訳じゃないから。むしろ優しくて大好きだよ」
「…………私も」
突然の告白に顔を赤くしていると、カイユさんには「モテモテだねぇ」と揶揄われ、レイルは誰にも渡さないぞと言わんばかりに腕をギューッと握られてしまうし。クリオには「飛んだ女ったらしじゃ」と呆れられ、アウルさんは何かソワソワしてしまっていた。
「そういうお前らはどうするんだ?」
そうだよね、俺らの行動も気になるか。
「街はずれの丘に家を借りたんで、そこで暫くは近接技や剣技の訓練をしようかなと思っています」
「おいおい、フロストヴェインに何言われたかは知らねぇがお前が全部やることはねぇんだぞ、人には長所短所があるしよ。なんならまた俺らと組んでくれたっていい」
ルイさんもしかしたら俺以上に優しいんじゃないかな、すごく心配してくれるのがとても嬉しい。
「はい、頼る時はいろいろな人を頼りたいと思います。けど、やっぱり男なんで守りたいじゃないですか、周りの人は自分の手で」
ちょっとカッコつけちゃったかな、レイル、アウル、クリオは頬を赤らめ俺から目を逸らし、何故かカイユさんも「へへへ」と照れていた。
「無理するなよ、キザ野郎」
「キザじゃないです!」
慌ててルイさんの言葉を訂正すると、どういうことかみんなが笑っていた。
●
二時間ぐらい経っただろうか、ゼロ次会が効いたのか、カイユさんは俺の膝の上で眠ってしまっていた。気にしないように食べ物を食べるが、女性陣のジトーっとした視線が痛いから早く起きてくれないかな。
起きないか。
「レイジさ、人前でそういうことするもんじゃないよ?」
「だって起こすのも悪いじゃないですか、疲れてるみたいですし」
「いや、こいつは酔いに任せてあわよくばを狙ってるぞ」
「お主は知らんかもしれんが、女は怖いぞ」
などと言われたい放題、じゃあどうすればいいんだってばよと困っていると、どうやら退店時間が来たようで、早々とお店から出されてしまった。
なんだかんだとカイユさんをおぶってあげているルイさん、立てれば歩かすんだろうけど完全に出来上がっちゃってるしね、「たくよ」と文句をいいながらも優しい人だ。
「いろいろありがとうな、人生で一番楽しいパーティーだったよ」
「いえいえ、そう言ってもらえて嬉しいです」
別に今生の別れではない、街からは出ないみたいだし挨拶は軽く済ませよう。
「お姉ちゃんもお酒はほどほどしてよ」
ルイさんの背中で寝てるから試しに言ってみると、目をパッチっと開く彼女、めちゃビックリした。
「はーい、ほどほどにしますぅ」
言うだけ言ってまたむにゃむにゃと寝てしまった。お姉ちゃんって呼んだらなんでも言うこと聞いてくれるのでは?今度試してみるか。
「じゃあ、またな。今日はありがとう」
「またねぇ〜」
てくてくと夜闇に消えたゆく二人。
「起きたんなら歩けよ」
「えー、いいじゃーん」
「お前なぁ」
付き合っては無いと言っていたが、本当に?と思うぐらい仲が良いい。微笑ましい姿を見えなくなるまで見送り。
「じゃあ、私たちも帰るよ」
「…………世話になった」
深々と俺らに向かってお辞儀をする二人、そんなそんな大したことはしていない。
「また一緒に旅をする日を心待ちにしてますね」
「ああ、それまでには君たちに似合うレベルになっておくよ」
「…………精進する」
そして再び二人は深々とお辞儀をし、夜闇に消えていってしまった。
「俺たちも帰るか」
「うん」
「あぁ」
「そうじゃな」
レイルと俺は手を繋ぎ、その後ろにアウルとクリオが付いて我が家に帰った。




