第19話 愛の巣
「ところでレイジよ」
「いたたた、なに?」
レイルに吹っ飛ばされた俺を冷ややかな目で見てくるクリオ、その視線だけで氷漬けになってしまいそうだ。
「せっかくだ、擬人化した我と腕試しをしてみてくれ」
「え?」
確かにあの時は図体がデカイドラゴンとの戦いだったから適当に魔法を撃てば当たる状態だったのでハンデはこちらにあった。ただ今は少女の姿だ、全然勝てる未来が見えない。
「えっと、これで俺に勝ったらクリオは自由の身とかになる?」
「何を言う、あの姿こそ全力じゃ、主に負けた事実は変わらぬ」
ドラゴンに二言は無いみたいだ、負けるのは嫌だけれど、なんかスイッチ入っちゃってるし付き合ってみるか。
「レイジ!再びコテンパンにしちゃってください!」
何故かノリノリのレイル、コテンパンにはしないかな、むしろ手の内がわかっている以上コテンパンにされるのはこっちの方だと思う。
「わかったよ、ちょっとは手加減してよ」
「全力でくるがいい」
そしてその場の雰囲気で始まったクリオとの手合わせ、噂を聞き付けた冒険者も集まり、試験会場がなんだか闘技場みたいになってきたな。
「じゃあ、私が審判するわね」
アステさんもノリノリだし。
はぁ、戦うのは本当は好きじゃないんだけどなぁ、のんびりスローライフを過ごしたかったのにどうしてこうなった。
悩んでも悔やんでも仕方がない、頬を両手でパンパンと叩いて目の前の闘いに集中する。
試験場の中央に立って少しの静けさが流れる。
「開始!」
カーン!と鐘がなった瞬間、目の前にいたクリオは残像を残し瞬時に消え、刹那、次に現れた時には俺のすぐ目の前にいた。
「速いっ!」
てっきりビームが来るものだと身構えていたら初手近接戦、彼女の回し蹴りが俺の横っ腹に直撃した。
魔法障壁を展開する暇もなかったので、物理的ダメージはもろに食らってしまい、回し蹴りの勢いそのまま吹き飛ばされ試験会場の壁に激突してしまった。
「ぐはっ!」
クッソ痛すぎる、壁に当たる前に障壁を展開し壁に当たるダメージは軽減できたが蹴られたせいで息が全然できない、ゴホゴホと四つん這いになって咳き込んでいると再びクリオが瞬間移動で現れ、踵落とし一閃。死に物狂いで体を捻って間一髪避けたが、衝撃派でまた吹き飛ばされ地面をズザーと転げてしまう。
「ぐっ、速すぎるだろ」
口の中が血の味がする、血の色に滲んだ唾をペッと吐くと、瞬間移動で彼女が間髪入れずに現れる、今度は背後だ。
「近接戦闘はダメダメじゃのう」
以前の戦いで遠距離戦が不利なの学んでるな、どうにかして俺の間合いを取らないとこのままじゃ死んでしまう、追撃の回し蹴りが来る前に体に雷を纏い似たような瞬間移動をして距離を取ろうと離れるが、それを理解しているクリオ、ピッタリとついてくる。
「雷炎爆裂砲!」
苦し紛れの雷炎放射を放つが、双方高速移動しているだけあって全然狙いが定まらないし、撃ったところでかすりもしない。くそっと歯がゆい気持ちで逃げていると、瞬きしている間に一瞬でクリオに追いつかれ、もう一度瞬きすると俺の吐息が当たるほどの目の前にクリオの顔があり、水色の美しい瞳に吸い込まれそうになる。
「鍛錬の必要があるな」
「ぐふぁっ!」
右手をみぞおち一閃、多分肋骨何本か折れたような音がしたし心臓が止まる勢い、いや、一瞬止まった。クリオの呆れたような冷めたような声で耳元で囁かれ文字通り凍りつきそうになったが、俺は必死の思いでみぞおちにめり込む彼女の右手首を掴む。
これで彼女は逃げられない。
「くっ、抜かったか!」
「|炎雷霆衝撃砲《ヴルカヌス・テルミナス
》っ」
お得意のゼロ距離高出力砲を相打ち覚悟で苦し紛れにお見舞いし、その場で大爆発。一矢報いたのかも分からないままそれまでに食らったダメージであまりの激痛に意識を失ってしまい、そこからの記憶が無くなってしまった。
●
目が覚めるとレイルの下胸が目の前の視界半分ぐらいに広がり、膝枕されていることに気がつくのに少し時間がかかった。
「痛い」
「起きた!」
全身激痛、回復薬かけてくれなかったの?俺のHPギリギリなんだけど…………。ゆっくり周りを見渡すと、ここはギルドマスターの応接室のようでこの部屋には見覚えがある、その中にアステさんを含めた全員が俺のことを心配そうに覗き込んでいた。
「すまんな、我の攻撃は市販の回復薬程度では回復せぬ」
「ま、マジかよ」
何故か目元に青アザを作っているクリオ、あれぇ?とはっきりしない意識のまま再びレイルの顔見ると。
「相棒としてフロストヴェインにはキツく指導しておきました!」
殴ったの?精霊が竜族相手に物理で青アザ作らすなよ。いくら物理無効とはいえどうやって殴った、そっちの方が気になる。
「程々にね」
「レイジを気絶するまで殴る方が悪いですよ!見ていて胸糞悪かったです!」
確かに、手合わせとはいえごもっとも、だけれどそれは俺が弱いからであってクリオのせいではないのだ、それは理解して欲しい。
「レイジよ、お主近接戦闘は弱すぎじゃ、今までよく生きておったの。しかし、最後の悪あがきの貫通魔法はちょっと危なかった、障壁二十枚を全貫通とは意味がわからん。それに我との契約に頼らず自力で戦ったのは評価しよう」
褒められているのか罵られているのか、とにかくボロクソに言われて泣きそう、だから俺は本当は戦いたくないんだって。
「あー、今まで魔法でゴリ押してたからねぇ」
「…………中長距離戦は無敵」
俺との付き合いが長い方になっている、レミさんとリグルアさんが彼女に代わりに説明してくれるし。
「接近戦が弱いのはこいつも理解してるだろ、だからアタッカーとタンクの俺らと組みたいって言ってくれたわけだしよ、レミも近接だし、リグルアも補助系だ」
「それねー」
ルイさんとカイユさんもフォローしてくれてこれはこれで泣きそう、信頼されてるみたいで良かった。
「そうは言うてもの、一人でどうにかしないといけない日がくるじゃろうて」
クリオも俺のこと心配してくれて言ってくれているんだろうけど。
「俺、のんびり暮らしたいんだけど……」
「甘い!」
「ひぇー」
と一喝されてしまった。
「そもそもこの世界に生きるということはの……」
なんか説教じみたことが始まりそうだったが、レイルが彼女のことを睨むと、うっ、と大人しくなり少し小声になる。
「お主がその気になれば稽古をつけてやらんでもない」
なんだ?ツンデレか?違うか。近接戦闘の訓練か、そうは言っても俺ってそもそもの近距離戦に向いていないと思うし、まだ、魔法以外のスキル、『ガンナー』についても不慣れな点が多い。しかし、護身術ぐらいは最低でも教わっておいた方がいいかな。前衛を突破された時は流石に逃げ惑うことは出来ないし。
「うん、気絶しない程度に頼むよ」
「わ、わかっておる!」
いい感じに纏まってよかった、のかな。
そしてついでにギルドマスターがいるので本題に入る、身体中痛くて起き上がれないのでレイルに膝枕をされたままなのは恥ずかしいが。
「それで、ゴブリンの討伐が終わったてことだけど、本当に??」
依頼書に村長のサインを貰っているから疑いようは無いのだけれど、彼女的には日が浅すぎるのだろう、アステさんは疑っているのだが、それについてはアウルが一言で終わらせた。
「こいつが全ての元凶だ」
憎しみたっぷりな眼差しでクリオを指さすアウル。
「我も生きるために仕方なくじゃ」
フンッとそっぽをむくクリオ。
「何となく理解したわ」
アステさんがクリオに視線をやるとスススッとレイルの後ろに隠れる、どうしたというのか。
「氷結竜『フロストヴェイン』、魔王様が心配していると聞いてますよ?」
魔王がクリオを心配?どういう間柄なのだろう。
「心配には及ばぬ、我はあそこが好きでおっただけじゃ」
「数百年も引きこもって?」
「ぐぬぬ」
ほえ?クリオって引きこもりだったの?領地を荒らされて怒ってとかじゃなくて、とにかく侵入してきた人々を片っ端から排除してただけ?なんだか悪いことをしたような気がしてきた。が、人間にとったら災厄だよな、
「魔王様とは……知り合い?」
まだ朦朧とする意識の中聞いてみると。
「まあな、遠い親戚じゃ。我の方がだいぶ年下じゃがな」
ほぇー、世間って狭いね。ということは魔王様も竜族?絶対強いじゃん、って強いから魔王なのか。自分が何考えてるのかよく分からなくなってきた。
「ていう訳で、魔王様に会いに行ってあげてくださいね」
「嫌じゃ」
まさかの即答。
「あやつ世話焼きすぎる、何をされるか分かったもんじゃない」
まあ、二人ならではの関係があるのだろう、嫌って言っている人を無理やり連れていくようなことは心理的にも物理的にも俺には出来ない。
「レイジが着いてきてくれると言うなら話は別じゃが」
「え、嫌だよ?」
「なんでじゃ!?」
想定外だったようで焦るクリオ。だって嫌だよ、アステさんの件があるもし万が一仲良くなってしまった場合、絶対に面倒事を任されかねないし、転生者と分かればあんなことやこんなことをされるかもしれない。
「俺はスローライフを満喫したいんです…………」
するとなんだか急に眠気が襲ってきてまぶたを閉じると、そこからまた記憶が無くなってしまった。
※
「寝ちゃいました、気絶ですかね?」
私の後ろにいるクリオネクスを睨むと、「我は関係ないぞ」と視線をそらされた。いや、ないことは無いよ。
頭を撫でてあげると寝息までかいてすやすやと眠っている、私の太ももが居心地いいのかな?なんて。
「無理をさせちゃったみたいね、これは報酬よ、色を付けといたわ」
机の上にドサッと硬貨が入った袋が置かれた。大きな袋だ、机がたわんでいるし一体どれぐらい入っているんだ?
「以後の調査はギルドでやるわ、あなたたちはしばらく休んで、その気になったらクエストを受注してちょうだい。じゃ、私はこれで」
部屋を出ようとするギルドマスター、ドアノブに手をかけると「あ、そうだわ」とこちらに振り向く。
「そこの氷結竜、ちゃんと見張っておくのよ」
そう言い残すだけ言い残してフフフと笑うと出ていってしまった、残されたフロストヴェインに視線が集まる。
「な、わ、我はなにもせぬぞ!!レイジと契約を交わしておる!」
確かに、何かしようにも何もできないだろうし、それこそ何かしようと思っただけで私が止めてやる。私とレイジの生活に土足で二人も入ってきたんだ、平穏な暮らしを脅かすものは敵でも味方でも誰でも許さない。
「さて、報酬についてだが。レイジとレイルに五割、俺らとレミで残り半分づつでいいか?」
「私はさんせー」
「異論ないよ」
「…………うん」
私が口を挟む間もなく、報酬の割り振りについては決まってしまう。レイジなら断ると思ったので、平等に振り分けようと言ったのだが聞いて貰えなかった。
報奨金は総額『4万ギル』で、その五割となる私たちは『2万ギル』大金も大金だ。
「1万ギルでも十分しばらく遊んで暮らせる、俺らからの気持ちだ、取っておけ」
「あ、ありがとうございます」
断り続けるのも逆に失礼だ、私はお辞儀してお金を空間保管に転送した。
「じぁ、レイジが起きたら連絡してくれ、夕食の前には起きるだろ、流石に。また後でな」
「ゼロ次会して待ってるから」
お疲れ様会でもしたいのだろう、カイユはルイの後ろを「お酒、お酒♪」とルンルンでスキップしていたが、「まだ飲まねーよ」よ怒られ項垂れていた。
「私達も夕食には合流するね、宿を探してくるからまた後で」
「…………また」
「はい、ありがとうございました」
手を振りながら二人とも出て行ってしまい、残ったのは寝ているレイジと私、隣に座っているアウルスルアと後ろに立っているフロストヴェイン。
「これからどうする?」
「んー、仲間も増えたしお金もそれなりにあるし、長期滞在できる宿を探そうかと思ってます」
「仲間という認識はあるようじゃな」
「レイジがそう言ってますのでねっ」
レイジがそうしたいと言えば私はそれに従うまで。しかし、今はレイジ寝ちゃってるし宿とかすぐ見つかるかな、それだけが心配だったが。
「それならこの近くに私の知り合いがいる、不動産関係の仕事をしていたと思う、頼ってみよう」
「ほんと!?助かります」
善は急げ、ここからそんなに離れていないところに事務所があるということなので爆睡しているレイジを背負って行こうとすると。
「疲れたじゃろ、我がレイジをおぶってやるぞ?」
「私はレイジの『相棒』です、すぐ触ろうとしますね」
「ぐぬぬ、お主もじゃろうて」
「私は『相棒』なのでいいんですっ」
丁重にお断りし、アウルスルア案内で街に繰り出した。
●
そして紹介してもらったのがここ、街の中心部から少しだけ離れた周りには牧草地や畑が広がるのどかな場所に建つ一軒家。宿のつもりだったけど一軒家。
喧騒な都市部の集合住宅よりはこっちの方が良さそうなのでここにしたが、静かですごく落ち着く。
建物自体は少し古めで木造、樹皮の屋根に土壁、中に入るとリビングダイニングに石窯のキッチン、そのほか寝室に使える部屋が三つに客間が一つと洗い場と便所が一つづつ、古いがかなりいい物件で値段も知り合いの好でかなり格安で貸してくれるとの事だった。
「いいんじゃないですか?」
「静かでいいな」
「ちと古いが、街の喧騒に比べたらここがよかろう」
レイジはまだ起きないけど他に良さそうな物件もないし、あっても高そうだ。しばらくこの街からは出ないと思うし、そうそうにここを借りることに決め即日入居できたのでベッドシーツをパパっと張り、レイジをベッドに寝かせた。
そして始まる争い。
「寝室が三つじゃが、誰がレイジと相部屋になるのかの?」
「私に決まってるじゃないですか!」
争う余地もない、私はレイジの『相棒』なのだ。
「しかし、私はレイジに一生添い遂げる覚悟でーー」
「なら、『相棒』になってから言ってください!」
相棒になってから同じ土俵と言ったはずなのにこの獣人は、分からないふりをしやがって。
「しかし、レイジも毎日同じ女と寝るのは嫌じゃないのか?」
そんなことレイジが言うはずがないでしょ!あーもうダメ、こいつらレイジのことをわかって無さすぎる、そんなメス猫を彼の近くに置くなんて考えれない。
「誰がなんと言おうとレイジと寝るのは私です!!」
ムキになって叫んでしまうと。
「誰が誰と寝るって?」
寝室から目をゴシゴシと拳で拭く寝ぼけ眼のレイジが出てきてしまった。
「…………ここどこ??」




