第18話 竜族の冒険者
なんやかんやと騒ぐだけ騒いで寝床に着く。明日、首都に向けて帰るので宿に許可は貰って二人部屋だが四人で泊まり、レイルとアウルは同じベッド、クリオには俺のベッドで寝てもらい、男たる俺はソファーで寝ていた。
「一緒に寝ても構わんのじゃぞ?」
と、いつ着替えたのかネグリジェ姿のドラゴン娘にそそのかされたが、ガルルと威嚇しているレイルを見る前に丁重にお断りした。アウルをクリオと一緒に寝かすことは出来ないし、ましてやソファーなんてもっての他、消去法でこうなったのだ。
●
朝、森の近くということもあり子鳥のさえずりで目が覚める。
ヒンヤリとして気持ちいい感触が体のあちこちにあり、重たい瞼を開けると俺の胸の中でクリオがすやすやと眠っていた。
「なんで?」
慌てて見回すといつの間にかベッドで寝ていた俺、寝ぼけてこっち来ちゃった!?アワアワと焦りながら彼女を起こさないようにゆっくりと離れようとすると、パチッとクリオが目を覚ます。
「ひっ!」
思わず声が出てしまった。
目を擦りながら上体を起こし、尻尾を左右に振るクリオ。何を言ってくるか分かったもんじゃない、色々と身構えていると。
「我はそんなに魅力がないか?」
「ど、どうしてそう思うの?」
汐らしく女の子座りになり俯いて髪の毛をクルクルと指に巻いているクリオ、魅力ってなんでそうなるのかな。
「こんな近くにおっても何もしてこん、我に魅力がないのか主がヘタレなのかどっちかじゃ」
うっ、多分後者だと思うが適当にそれっぽい言い訳を言っておく。
「クリオは魅力的だよ、ただほら、会って昨日今日の人に手を出す人はそれはそれでヤバいと思うよ?」
「そういうもんかのぅ?」
「そういうもの!」
何とか丸め込めたようだ、どうも竜族と人間の感覚はズレてあるようだが、そもそもクリオ意外と単純なのかな?
そして、程なくレイルとアウルが起きてレイルに先程あった出来事は気づかれることなく、レイル手作りの朝食を美味しくいただき、チェックアウトの後ルイさん達と合流した。
●
「…………誰?このドラゴン娘」
まだ事情を説明してないルイさんに怪しまれ、カイユさんはクリオの尻尾をつんつんして「止めぬか」と彼女に怒られている。
「えっと、昨晩色々ありまして……」
「我が名はクリオネクス・フロストヴェイン、氷結竜じゃ。我が主の強さに惚れて馳せ参じた次第」
惚れて?まあ物は言いようか。
「氷結竜ってレイジが倒したやつじゃ……理解が追いつかねぇ」
とにかくみんなに分かりやすいように噛み砕いて昨夜のことを説明すると、当人が納得しているなら俺らは口出しできねぇか、とあっさり納得してくれた。これもスキル『信頼』のおかげかなのだろう、そういうことにしておこう。
急に二人も増えて八人の大所帯、馬は何とか借りれそうかなと、どう言う経路で首都に戻るか話し合っていると。
「なんじゃ、我の背中に乗るといい」
え?
と、言われるがま人目のつかない町外れまで歩くと。
「ちょっと待っておれ」
クリオは自らの足元に半径十メートル程の魔法陣を展開、それが幾重にも重なり光を帯び、眩しく手をかざしている間にクリオはドラゴンの姿になっていた、正しく俺が倒したはずのアイスドラゴンそのままの姿で。
「大丈夫?」
「あ、ああ、すまない」
足元をふらつかせるアウル、親の仇だし無理もないか、呼吸も少し早そうだ。背中になんて乗れるのか?
「落ち着くまで手を握りますね」
「ありがとう」
伏せた耳を見れば不安なのはわかるが、俺が手を握っているあいだは少し頬は緩んでいた。レイルもー!とうるさいので右腕はレイルに抱きつかれてしまったが。
「さあ、乗るがいい」
ルイさんとカイユさん、レミさんにリグルアさん、俺とレイルとアウルで彼女の背中に乗る、うろこ状の表皮がゴツゴツしてはいるがどこかなめらかで、近くで見るとクリスタルのように輝いて見えた。
「しっかり捕まっておれよ」
とは言うものの、彼女は魔法陣を俺らの四肢に発動させそんな簡単に手が離れないように補助をしてくれている。なんなのかな、評判の割には優しすぎる。
すると旅客機ぐらいある翼を大きく広げ、バンッと上下に一回振るだけで体が浮き上がり、そのまま上昇。おー、すげー、と子供のようにはしゃいでいると、一際大きく翼を振り結構な速さで前進を開始。ちょっと怖かったけどこれなら直ぐに首都に着きそうだ。
●
『首都タルタリオス』
あっという間に徒歩なら一週間かかる道を、半日で帰ってきた。ドラゴンが街中に急に降りてくると、いくら魔族領とはいえパニックになりそうだったので郊外で降り、そこから小一時間徒歩で歩いて首都の検問を通過。
通行人に竜族は珍しいのかクリオはチラチラ見られていたが、特に怪しまれることは多分なく順調にギルド本部へと到着した。
『帝国ギルド本部』
中に入ると冒険者からの視線が集まる、ん?俺たち有名人?ああ、クリオかな?
気にしても仕方がないので一目散に受付に赴き、ギルドマスターからの討伐依頼が終了したことを告げると。
「お早いおかえり感謝します、ギルドマスターにお繋ぎするのでロビーでお待ちください」
いきなり来ない方が良かったかな?しかし、事前に連絡する手段も無い、ギルドマスターもここにはいるみたいだし忙しいと思うから気長に座って待つとしよう。
「そういえばクリオ、冒険者登録とかしなくていいのかな?」
「なんじゃそれは?」
やっぱり分からないか、そもそも獣人の冒険者はちらちら見た事あるけど、竜族の冒険者とか見たことがないしラノベでもあまり聞かない、登録する必要とかあるのか?でも俺についてくるなら登録しておいた方が後々便利だと思う。
「アウルはしてるの?」
「私は随分前に済ませてある」
と言うと冒険者カードを見せてくれる。そっか、ならパーティー変更だけで彼女は済みそうか。
クリオの登録についてはルイさんにお伺いを立ててみる。
「竜族の冒険者なんて俺は聞いたことないが、できるならしといた方がいいんじゃないか?身分の証明にもなるし、福利厚生もそれなりに充実してるしよ」
確かに。
じゃあ、受付に聞いてみますねとアウルとクリオをたれて立ち上がり登録受付へと行ってみる。
「えっと、こちらは所属パーティーの変更と在留登録で、こちらは新規の登録で来たんですが」
「わかりました、こちらの書類にご記入ください」
すごいお役所仕事、クリオについては何も疑問を持たれることなく書類に記入を行う。
クラス『氷結竜』
名前『クリオネクス・フロストヴェイン』
レベル『Lv.120』
特技『氷魔法、魔法創造、調剤師』
れ、レベル120!!??天元突破してるんじゃない!!??
慌てて俺のステータスを確認する。
『ステータス』
Lv.50
HP450/450
MP800/800+20
『装備補正』
魔法攻撃力+5
HP自然回復量+1
『スキル』
ソーサラーⅢ
ガンナーⅡ
マルチスキルⅤ
自然治癒Ⅱ
信頼Ⅲ
精霊の加護Ⅱ
ゴブリン戦で暴れ回ってやっとこれ、どういうことだってばよ、後でちゃんと彼女のステータスを確認しておかないと。
ひとりで焦っていると、それに気がついたクリオは俺の方を見て首を傾げる。
「あ、えっと、薬作れるの?」
「ああ、趣味でな、暇を持て余している間に色々作っておった。不老不死の薬は作れなかったが、異性にモテモテになる薬とかならあるぞ?お、今度飲んで見るとしよう」
「勘弁してください」
「面白くないのぅ」
冗談なのか本気なのかは別として、長く生きるとすごい趣味ができるものなんだな、と話はすり替えておいた。
そして、受付に書類を渡すと、アウルのパーティー変更は一瞬で終わり、次はクリオの書類に目を通す受付の人。
「氷結竜?」
怪しそうに目を細めて彼女を観察している。
「無礼な!嘘偽りないわ!」
「まあまあ」
ぷんすこと怒り出すクリオ、無理もないと思うよ、竜族ってなんか珍しい種族っぽいし。腕を組んでプイッ!とそっぽを向いてしまう、そういうのは普通に可愛らしいんだよな。
「…………試験準備をしますので少々お待ちください」
まだ怪しんでいるようだが受付の人は書類を持って奥に消えていってしまった。
「ぷんじゃ、ぷんっ!」
怒り方がレイルそっくりで笑ってしまいそうになった。まさか、レイルから変なこと教わってないよな?
そして、待つこと数分。
「クリオネクス・フロストヴェインさん、準備が出来ました、奥にどうぞ」
受付の人が大きな声で彼女を呼ぶものだから、ギルド内が一瞬でザワつく。
フロストヴェインってあの竜族か?
氷結竜って恐れられていただろ?
そんな災厄なドラゴンが何故ここに?
やっぱり有名人だったみたいで結構言われたい放題だが、彼女はそんなヒソヒソ話に興味無さそうにフンッとそっぽを向いて試験会場へと入っていき、俺たちはみんなで二階で見学することとなった。
『試験会場』
いやー、ギルドマスターを消し飛ばしそうになったのがつい昨日のようだ。と思っていると会場にはクリオとその対面にはローブを羽織ったギルドマスターがいた。
何してんだあの人。
「あ、おーい!レイジくーん!」
悠長に俺に手を振ってくるアステさん、どうも、と手を振り返すと何故かレイルに肘打ちされた。
「事情は知らないけど竜族と手合わせできることなんて中々ないからね、また出張ってしまったわ」
この人なんでもやりたがるな、まあいいか、ギルドの都合とかは俺には特に関係ないし。
「なあ、レイジよ、こやつは本気でも死なぬのか?」
え、どうだろう。俺の魔法はギリギリ耐えたけどクリオの冷凍ビームもかなりの威力だ、直撃したことは無いけど、生身の人間が当たれば相当やばいと思う。いくら魔法具のローブがあるとはいえ。
「本気でいいわよ、こう見えても一応ギルドマスターなんでね」
「そうか、望み通り本気でやるとしよう」
大丈夫かな?ちょっと不安だが、いざと言う時は俺が割って入るか止めろと命令すれば止まるだろう、それまでは観察に徹しよう。
「では開始!」
カーンと開始の鐘が鳴り響いた瞬間、クリオが前に手を伸ばし人差し指から無詠唱であの冷凍ビームを発射、即座に対応したアステさんは岩の障壁をこちらも瞬時に作り上げるが容易く貫通し、彼女の脇腹をビームが掠めていった。
それからクリオは冷凍ビームを連射、光った頃には着弾しているビームをアステさんはギリギリだが確かに避けていた。俺と違って攻撃範囲が激狭だからなかなか当たらないのかな?それでもアステさん俊敏になった?
しかし、そんな長時間にわたって避け続けられることもなく。
パンッ!とクリオが両手を叩き「氷結」と短い呪文を小さな声で唱えた瞬間辺り一面が氷漬けとなり、アステさんは一瞬で凍った地面に足を取られて「あてっ!」と転げていたが、すぐ岩魔法でリカバリー。
岩を波のように操り、追撃が来る前に岩の波に乗ってかろうじてビームを避ける。
見てる分には壮大ですごくワクワクしてくる。
「さすがギルドマスター、氷結竜に互角か」
感心しているルイさん、そんなギルドマスターを消し飛ばしそうになった俺が怖いよ。
そうこうしている間にもクリオの攻撃が止むことは無い。
次は両手を左右に広げたと思うと。
「凍嵐」
また小さくつぶやくと今度は吹雪の嵐が試験会場に吹き荒れ、ものすごい雪で何も見えなくなる。俺みたいに技名を叫ぶように唱えるんじゃなくて、淡々と唱えるのもかっこいいな、技名すら言ってないのもあるけど。
「さっむ!」
そしてすごく寒い、魔法に弱いレイルは俺にくっついてガタガタ震えているが、狐獣人たるアウルは耐制があるのかケロッとしている。
何もかもが凍ってしまいそうな中、魔力探知によると、まだ二人は戦っているように見える。
レイルの試験の時もそうだったが視界を奪われると何が何だか分からないな、魔力探知がないと勝負にもならないということか。
そしてここからどうなるのかと思っていると、二人の動きが急に止まったように感じた。
少しづつ晴れてゆく吹雪、何となく人影が見えてくると状況がわかってきた。
凍った地面に倒れ手足が氷で固まっているアステさんの顔の横に、クリオの持った氷でできた剣が刺さっていた。
勝負ありで止まったのだろう、ああなれば俺でもどうすることも出来ないかもしれない。
「やっぱ竜族か、魔法も強いが近接戦もすごいな」
ルイさんはまだ感心しているが、あの状態はいくらなんでもアステさんでも怖いと思う、俺は心配なので雷を纏いほぼ瞬間移動で二人の間に入る。
「終わりでいい?」
剣を持ったクリオの手首を握ると氷の剣を瞬時に消し、アステさんを拘束していた氷を溶かし、試験会場を元通りの空間に戻してゆくクリオ、すごいな原状回復までできるのか。
「ああ、それなりじゃな」
その言い分、どっちが試験官なのか分からないよ?
「いやー、途中までは良かったのだけれどね、氷漬けにされると無理だね」
ハハハと苦笑いしているアステさん、こんな上級の魔物とやり合ったこともまともにないだろうし、十分やれてる方だと思うよ、多分。
「はい、試験は合格というより私にやる資格なし。フロストヴェインさんはAマイナスランクからスタートしてください。はぁ、自信なくしちゃうな……」
ギルドで付与できる最上位のランク『Aマイナス』を付与されたクリオ、俺と一緒だがSランクって言っても誰も文句言わないと思う。それよりもアステさんをフォローした方がいいかな?ギルドマスター辞めるとか言われても困るし。
「アステさんも十分強いと思いますよ!」
「私を一撃で倒した貴方に言われたくないんだけれど!?」
「へ!?いだだだだだ!!」
まだまだ元気なアステさん、問答無用でコメカミを拳でグリグリされて悶えていると、レイルの飛び蹴りを何故か俺が喰らい事なき終えたのだった。




