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第16話 氷結竜フロストヴェイン

 村に着くとゴブリンの姿はなく、村の獣人たちは疲れきった様子で地面に座り顔を伏していた。

 ルイさんやレミさんたちはどこだろう。

 防護壁周りを歩いていると、鎧を着た二人が肩を貸し合いながら坂を上がってくるのが見えた。

「ルイさん!カイユさん!大丈夫ですかー!?」

 おーいと手を振ると小さくてを振り返してくれる、怪我をしている様なので迎えに行ってあげ二人で肩を貸し、レイルは問答無用で二人に回復薬を頭からぶっかけていた。

「助かった、もうダメかと思ったがレイルのお守りが突然光ってよ、何とか持ちこたえてたところ突然ゴブリンが消えてな」

「ゴブリンが消える前にものすごい地鳴りがしたんだけど、もしかしてレイジくん?」

 何とか間に合ったみたいでよかった、召喚されたゴブリンだったみたいだし、召喚主が消えることで消えてくれてよかった。

「まあ、はい、多分俺です」

「とんでもねぇな」

 なんかルイさん笑っちゃってる。しかし、レイルのお守りも役に立ってたんだな、チラッと彼女を見ると得意げにしている。

「話は後で聞こうか、レミたちを探そう」

「ですね」

 西側にいるとの事だったので西の防護壁に行くと、レミさんとリグルアさんは疲れきった様子で杭を背に座り込んでいた。

 またもや問答無用で回復薬を頭からぶっかけるレイル、俺以外にはかなり適当だな。

「はぁ、私生きてる?」

「…………死ぬかと思った」

 いくら回復薬とはいえ外傷は消えても疲労は残る、フルマラソンを完走した以上の疲れがあるはずだ。

「もう大丈夫ですよ、立てますか?」

「大丈夫?ハハ、やっぱすごいねレイジくんは」

 レミさんの手を取り引き上げると肩を貸し、レイルはリグルアさんをおんぶしてあげてくれている。

「やっぱCランクの私にはキツイよ」

「生きてるんです、良しとしましょう」

「ハハハ、そうだね」

 確かに彼女の言うとおり、Aランクの俺とBランクのレイルやルイさん達と行動するのは少々酷なのかもしれない。でもだからといって見捨てたり放っておけない、でも彼女の意見も尊重したい。その話はまた今度するとしよう。

「本部に行きましょう」

 まだまだ夜が明ける様子は無い、第二波が絶対にないとは言いきれないのでとにかく村長に状況を説明しに行こう。


   ●


 対策本部。

 本部に入ると、村長、アウルスルアさん、その他獣人の人が数名いた。

「おお、無事でよかった」

 村長によると今回の襲撃で怪我人は大勢出たものの命を落としたものはいないとの事だった、それについては本当に良かった。

 そしてその後に俺からもドラゴンについて報告した。

 この山の洞窟にドラゴンがいたこと。

 人間に恨みを募らせていたこと。

 ゴブリンはドラゴンによって召喚されていたこと。

 そのドラゴンは俺が倒したこと。

 全て。

「ドラゴンを倒した?あの氷結竜『フロストヴェイン』をか?」

 アウルスルアさんは信じられない様子。この森にドラゴンがいる認識はあったみたいだな、伝説とかにも出てきそうなすごい綺麗なドラゴンだったし、この辺の言い伝えとかに残ってそうだな。

「名乗られてないんで分かりませんが、氷魔法を使っていたので恐らく」

「嘘だろ……」

 何故か膝から崩れ落ち、俯くと涙を流すアウルスルアさん。

「まずかったですかね?」

 村長に小声で聞いてみると。

「いや、氷結竜『フロストヴェイン』は我々も難儀しておってな、大昔にはこの地に安寧をもたらす神竜として祀られていたのだが、ここ数百年で人間に牙を剥くようになってな。どうにもと討伐を試みたのだが全て返り討ち、あいつの父親もそれで死んだんじゃ」

 マジか、やっぱ誰かの正義は誰かの悪なんだな、どっちも生きるためとはいえドラゴンには悪いことをしたような気にもなってくる。どうにも人間種族は自分中心に物事を考えてしまいがちだからな、もっと話し合いでどうにかできなかったものか。

 するとアウルスルアさんは涙を手の甲でゴシゴシと拭きスッと立ち上がると、俺の目の前に来て両手を握る。

「私の父、いや、みんなの無念を晴らしてくれてありがとう。私の身全てを貴方に捧げても構わない!」

 なんかギュッと抱きつかれた。

「え?」

「はぁ!?」

鎧が痛い!でもいい匂い、鎧で胸が当たった感触がないのが残念、じゃなくて!

「全てってそんな、大したことじゃないですよ」

「大したことだ!私をもらってくれ!一生添い遂げる所存だ!」

「えーーー!!」

 動物で言う上下関係的な何かなのか、強いと思った人に添い遂げたい性分なのか、はたまた勢いが止まらないタイプなのか。獣人の性格はよく分からないけど、これだけははっきりわかる。

 レイルの目が怖い。

「まあアウルスルアよ、レイジ様にもタイプというものがあるじゃろうて」

 村長のナイスな仲介が入るが、タイプという言葉がショックだったのか、狐耳を伏せてシュンとしてしまった。ヤバいめっちゃ撫でたい。

「やはり、人間は獣人は嫌いか……」

 ううう、心苦しい。

「そんな、アウルスルアさんはとても美人ですし魅力的な人だと思いますよ!ごほっ!!」

 余計なフォローをしてしまい、レイルに脇腹に肘打ちを食らうし、アウルスルアさんは更に手をギュッと握ってくる。

「しかしですね、まだアウルスルアさんのこともよく分かりませんし、いきなり一生を添い遂げると言われましても、俺が理想の男性かも分かりませんしっ」

 どうにか誤魔化せないかと苦し紛れの言い訳をすると。

「わかった、それだったらパーティーに入れてくれ!」

「え、まあ、それなら」

 勢いに押されてあまり深く考えず首を縦に振ってしまった。

「本当か!?時期を見計らってまた申し込むとするよ。マスター」

「マスター!?」

 マスター呼びはびっくりしたが、上下関係を大事にしそうな獣人ならその呼び方なのか?それより、申し込むって愛の告白を?マジで?もう今更パーティー加入を断ることも出来ないしその時期がいつ来るかは分からないが、誤魔化せるかなぁ、怖いなぁ。レイルの目も怖いなぁ。

「いいのですか?レイジ様、こやつ剣の腕は確かですが勢い任せなところもありまして、ご迷惑なら断っていただいても構いませんが?」

 そーだそーだと、遠くの方でレイルが言っているのが聞こえる。んー、でもせっかく慕ってくれてるし変に突っぱねるのも気が引ける、これが優しすぎるってことか?仕方ないじゃん、放っておけない性格なんだし。

「いえ、彼女の気が済むまでパーティーにいてもらって構いませんよ、剣士を探していたところですし」

「ありがとう!必ずや貴方に振り向いてもらえる女になってみせる!」

 んーーまっ!と頬に躊躇いもなくキスをされてしまった、避ける隙もありゃしない、こりゃレイルが後から怖いぞ今も怖いけど。と怯えていると、足音大きくレイルが近づいてくる。

 何する気ぃ?

「私はレイル、レイジの『相棒』です、レイジがいいと言ったから反対はしないですけど、私はレイジの『相棒』です、忘れないでください」

 えらく相棒を強調するな今に始まったことじゃないけどさ、まあ、反対されないだけ良かったか。

「アウルスルア・ルペシュヴァルツだ、私もすぐ『相棒』になれるように頑張るよ」

 オホホホと二人とも笑っているが俺には見える、火花をバチバチさせているのが。大丈夫かな、断っとけばよかったか?いやいや、一度決めたことだちゃんと最後まで責任を持とう。

 とりあえず、彼女は旅の準備をすると自分の家に帰ってしまい、完全に安全とはまだ言えないので、とにかく夜明けまでは交代で警備に当たることになった。

 休んでいいとも言われたが、村の人も大勢怪我をしている、俺だけ休むことなんてできない。

 そして、俺とレイルの警備の番、夜が開ける気配もない夜中、二人で見張り台に座って辺りを見回す。

 先程とは打って変わって静かな森、さっきまで死闘を繰り広げていたとはとても思えない、静かな夜だ。

「ごめんね、勝手に決めちゃって」

 一応謝っておくと、隣に座っていたレイルは頭を俺の肩にコツンと預ける。

「別に、気にしてませんよー」

 絶対気にしてるだろ、かなりぶっきらぼうだ。

「レイジが優しいのは知ってます、押しに弱いのも知ってます」

 んー、見透かされてるなー、でもそんな俺を許してくれるレイルもまた優しいと思う。

「だからこうすることにしました、こっちを向いてください」

「ん、なに?ーーっ!?」

 レイルの方を向くと両手で頬をむにっと捕まれ、そのまま彼女の顔が近づいて来たと思うと、彼女の柔らかい唇が触れ、何が起こったのか理解するのに時間がかかっていると数秒で彼女の唇が離れた。

 へぇ?と自分の唇を触っていると。

 ガタンッ!と後ろから何かもの音がしたので二人でバッと振り返ると、ハシゴから落ちそうになりながら月明かりに照らされた顔を真っ赤にし、耳を伏せたアウルスルアさんがいた。

「え、あ、何も見てないぞ!」

「なんで顔が真っ赤なんですか!」

 レイルが彼女を逃げられないように引っ張り上げ、両肩を掴んでブンブンと前後に振っている。

 首がもげそうだよ落ち着いて。

「絶対に誰にも言わないでください!特にカイユとレミには!!」

「そ、それなら口止めとして私にも……」

「『相棒』権限で拒否します!」

 何言ってんだか、しばらく二人で言い合っていると話がまとまったのか、レイルは落ち着き俺の右隣に座ると、アウルスルアさんは俺の左に座る。それは許すんだね、よく分かんないや。

「まあ良くないがいい。夜食を持ってきた、この村名物のイナリズシというものだ、酢が効いてて疲れた体にもいい」

 ランチボックスのようなものを開けると聞き覚えも見覚えもあるまさに『稲荷寿司』がその中にあった。まんま同じことってあるんだな。

「おお、美味しそう!」

 一口食べるとまんま稲荷寿司、勢いそのままに二口で一つを食べてしまった。

 んー、なんだか懐かしい味で涙が出そう、指に着いた油を少し舐めていると。

「なあ、マスター」

 マスター呼びはむず痒いな、が慣れるしかない。そして彼女は突然の神妙な面持ち、というか照れているのか、伏せ気味な視線で話しかけてくる。

「まあ、その、一生添い遂げてもいいとは本気で思ってる、そして、レイルの気持ちも理解しているつもりだ。だから、なんだ、この辺では一夫多妻は違法じゃ、って何を言っているんだ私は……」

 唾が変なところに入って死ぬかと思った。言いたいことはわかるけど爆弾発言が多すぎる、変に突っ込むと自爆しそうなのでとにかく「うんうん」と聞いてあげる。

「とにかくレイルには負けん!」

 結局そうなっちゃうの?普通の異世界のんびり系かと思ったらいつの間にか恋バトルが始まってるんですけれど?

 しかし、バトルを挑まれたレイルは何故かその大きなむねをふふふんと張る。

「先ずはレイジの『相棒』になってから私と同じ土俵にたったと思ってください」

 そういう事ね、まだ同じ土俵に立ってないのに生意気なこと言うなと先輩のお叱りだ。相変わらずバチバチしてるし、喧嘩するほど仲がいいと思っておこう。

「パーティーに入るにあたって条件を言っておくよ、今更だけど」

「何なりと言ってくれ」

「勝手な行動を取らないこと、勝手に死なないこと、仲間で喧嘩しないこと」

「肝に銘じておく」

「うん、じゃあ改めてよろしくね、アウルスルアさん」

「私のことはアウルとでも読んでくれ、さん付けもナシだ。私のマスターなのだからな」

 上下関係はっきりさせたいんだろうな、断る理由もないの快諾する。

 かくしてアウルスルア・フォクシーシュタインは正式に俺たち『雷鳴の水鏡』の仲間になったのだった。


 そして三日、念の為にとこの街に残って警戒を続けたが、ゴブリンの気配は全くなく、とりあえず麓の町まで降りることになり、『ミトラルテイル集落』を離れ『アスヒル宿』の以前泊まった宿屋で三人同じ部屋で割と仲良く談笑していると部屋のドアがコンコンとノックされた。

 誰だろう、ルイさんかな?

 覗き窓もないのでゆっくり戸を開けると、そこには白と青を基調とした丈の短いドレスを身に纏い、吸い込まれるように白い肌でほっそりとした脚を露出し、銀髪のショートヘア、頭にはこめかみの後ろあたりから片側二本づつの角が生えワニのようなシッポも生えた、獣人というのか亜獣人というのか、言うならドラゴニュート?のような綺麗な少女が立っていた。もっと簡単に言うと雪女のようなドラゴン娘といった風貌だ、冷気がダダ漏れしている。

「えっと……」

 と、凍らされた訳でもないのに固まっていると、雪女ドラゴン娘の方から口を開く。

「汝がレイジ・アンサラーで間違いないか」

 彼女の吐息が当たっただけで凍りそうな冷ややかだがはっきりした声、怖気付くことなく。「そうですけど?」と返すと。

「我の名は『クリオネスク・フロストヴェイン』、汝の傍に置いてくれ」

フロストヴェイン!?てあの、氷結竜の!?やばいと思って振り向くと既にアウルの剣を握って斬りかかろうとしていた。

「待て!」

 フロストヴェインと名乗る女性と彼女の間に割って入るが、既に剣先が俺の目の前にあった。


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